ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(ネタバレ)

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅

ネブラスカ

原題:Nebraska
2013/アメリカ 上映時間115分
監督:アレクサンダー・ペイン
製作:アルバート・バーガー、ロン・イェルザ
製作総指揮:ジョージ・パーラ、ジュリー・M・トンプソン、ダグ・マンコフ、ニール・タバツニック
脚本:ボブ・ネルソン
撮影:フェドン・パパマイケル
美術:デニス・ワシントン
衣装:ウェンディ・チャック
編集:ケビン・テント
音楽:マーク・オートン
出演:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカーク、アンジェラ・マキューアン、ティム・ドリスコル、デヴィン・ラトレイ
パンフレット:★★★(700円/最初の見開きに地図とネブラスカ州の説明が載っているのが好き。コラムは2本とも良かった)
(あらすじ)
モンタナ州に暮らす大酒飲みで頑固な老人ウディ(ブルース・ダーン)のもとに、100万ドルを贈呈するという明らかに胡散臭い手紙が届く。すっかり信じ込んでしまったウディは、妻や周囲の声にも耳を貸さず、歩いてでも賞金をもらいにいくと言って聞かない。そんな父を見かねた息子のデイビッド(ウィル・フォーテ)は、無駄骨と分かりつつも父を車に乗せてネブラスカ州を目指すが、途中で立ち寄ったウディの故郷で両親の意外な過去を知る。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




80点


※今回の記事に関しては、映画の感想というよりはネタっぽいつまらない文章や、“残念なほどに辛気くさい自分語り”が書かれているので、カゲヒナタさんやくららがたったさん、はちごろうさんの感想などを読むと良いですよ。

アレクサンダー・ペイン監督の作品って、「サイドウェイ」「ファミリー・ツリー」しか観たことがないものの、2本とも大好きだし、スゴい人だとは思っているんです。ただ、基本的にはアクション映画が好きなので、彼の新作を積極的に観に行く…って姿勢ではなくて。尊敬する映画評論家の町山智浩さんが「たまむすび」で紹介されていたのを聞いても、「ファミリー・ツリー」の時ほど食指が動かなかったのでね、スルーしようかと思っていたんですよ。

だがしかし、今週のムービーウォッチメンの監視対象に選ばれたので、仕方なし。火曜日の仕事の合間、シネマイレージデイを利用してTOHOシネマズシャンテで観てきたんですが、非常に面倒くさい心理状況に陥りました… ('A`)


まったく関係ありませんが、「死ね死ね団のテーマ」を貼っておきますね↓




いや、非常に素晴らしい映画でしたよ。僕は恥ずかしながらアレクサンダー・ペイン監督が敬愛するという小津安二郎監督作は1本も観ていなくて。「大韓民国1%」の主演女優であるイ・アイちゃんが大好きだって言うから、万が一でも会った時に「僕も“小津”は好きですよ…好きですよ好きですよ…( ´_ゝ`) スキデスヨと映画通気取りをするために全作品観ておこうと思いきや!(ダメな性根) ついつい景気の良さそうなジャケットに騙されてルーク・ゴス主演作などを借りてしまう体たらくなだけに、町山さんが語っていたように「これは小津監督の影響を受けてる」云々などの要素はよくわからなくてね(苦笑)。ただ、それでも“作品の良さ”はビンビン伝わってきた…って、恐ろしくどうでも良い文章を垂れ流した気がします ┐(´ー`)┌ ヤレヤレ


「東京物語」ぐらいは観ておきたいんですが…。今作がモノクロなのは、そういうことなんですかね?




なんて言うんですかね、「起きること自体はそれほどドラマチックではないのに面白くて感動的な脚本」3飜、「場面場面をフィックスで撮ることで人物たちの関係性を見せたり、おかしみを生み出したりする演出」3飜、「映画的な誇張はあるものの深みがあって“生きている感”に溢れているキャラクター造形」3飜、「そのキャラクターたちを見事に演じた役者さんたち」4飜を全部足して合計13飜ということで、見事な“数え役満”が完成したという印象。今回の脚本はオリジナルじゃありませんでしたけど、これらの要素をキッチリとコントロールしたアレクサンダー・ペイン監督にはあらためて感心したというか、「いるもんだな、世の中にゃ天才ってやつがよォ…(`∀´;)」と冷や汗を流すほどでしたよ。


“神心会のポンデデンジャラスライオン”加藤清澄さんの画像を貼っておきますね。
世の中には天才がいるもんだ


この監督の作品って、とにかくキャラクターが魅力的で。例えば、ブルース・ダーンが演じたウディとか、普段は正気が曖昧なんですけど、その目にふと“知性の光”が宿ったりするから、「もしかしたら『100万ドルが当たった』という手紙がウソなのは承知なんだけど、老いて何も出来なくなっていく自分に対する苛立ちをぶつけていたのでは?」とか思ったりして(トラックと空気圧縮機を欲しがるのは、そういうことですよね?)。旧友エド(ステイシー・キーチ)と接する時の“微妙な気弱オーラ”も「奧さんのケイト(ジューン・スキッブ)が言うように、確かに断り切れない人なのかもなぁ」って思ったりとか。要は、心情を説明台詞じゃなく“演技”で見せて観客に想像させるから、ウディにちゃんと血が通ってる感じがするんですよね。


ウディ・グラントをボロ雑巾のように演じたブルース・ダーン、素晴らしかったです。
ブルース・ダーン

息子役のウィル・フォーテも良かった! この映画、この人のゲンナリ顔が重要だった気がします。
ウィル・フォーテ

ケイトを演じたジューン・スキッブも最高でしたな。この人の台詞にはとにかく笑わされました。
ジューン・スキッブ

旧友エド役はステイシー・キーチ。良い感じにイヤな奴だったり。
ステイシー・キーチ


その他、文句ばかり言っていたケイトが入院して寝ているウディを労ったりとか、最後にトラックを運転するウディを目撃した時のペグ(アンジェラ・マキューアン)の表情とか(あの未練がある感じが泣ける!)、さりげないところも本当に素敵で、「良い役者の良い演技を良い感じに見せている」って感じ。もうね、まったくもって、文句の付けようがないのです。


アンジェラ・マキューアン演じるペグの“素敵なおばあちゃん感”は異常。ラストの表情には感情移入しちゃいました。
アンジェラ・マキューアン


で、スゲー最高だったのが、2箇所の“溜飲ダウンポイント”。1箇所目は、ウディの「100万ドルが当たった宣言」を鵜呑みにした親戚のクズどもが「昔、ウディには金を貸したんですよぉ~ (`∀´)」とタカってくる場面で、もうその性根の卑しさにはハラワタがコトコトと煮えて美味しいシチューができるレベルだったんですが、しかし! その直後のケイトの反撃が超気持ち良くてね… (ノ∀T) ザマァ 彼女は口を開けば悪口か不満か不謹慎なことしか言わなかったんですけど、「その口の悪さがここで活きるか!Σ(゚д゚;)」という驚きがあったし、その反論の中にウディへの愛情が見え隠れするのも良かったし…。「北斗の拳」の「街の人にノコギリ挽きを強要していたモヒカンがケンシロウに殺される場面」で下がった溜飲が10だとするならば、100溜飲は確実にダウンした次第(雑な数値化)。


ウディにタカろうとするクズども。ケイトに「とっととくたばれ!」と一喝されて、心底ざまぁなのです (´∀`) ウフフ
親戚のクズども

念のため、僕が大好きな「北斗の拳」の一場面を貼っておきますね。「ないるれ」という語尾が絶妙。
三角絞めでつかまえて-おれじゃないるれ


そしてもう1箇所がラスト。ダイレクトメールを発行していたネブラスカの会社に行ってみれば、当然ながら100万ドルはもらえなくて(代わりに高額当選者の帽子をもらう)、ウディはションボリするワケですが…。デイビッドったら、自腹でトラックと空気圧縮機を購入。さらにウディにトラックを運転させて、故郷の街を凱旋させるんですよ。これは本当に素晴らしかった!ヽ(`Д´)ノ その前夜、デイビッドが、DMが詐欺だとわかった途端、ウディを笑いものにしたエドを殴った場面もそれなりに溜飲が下がったものの(20ぐらい)、どこか物足りなかったんですが、これかと。

この息子の孝行により、父親のプライドが回復しつつ、さらに街の人(エドを含む)がそれを眺めて「えっ、100万ドルが当たったのって、ウソじゃなかったの!? Σ(゚д゚;)」と困惑するという、鮮やかな“ざまぁ感”!ヘ(゚∀゚*)ノ ヒャッハー 街を過ぎて、運転を交代する場面も「ウディが現実を納得して受け入れた」というだけでなく、「夢の終わり」というムードもあって、実に良くてね…(しみじみ)。溜飲が200も下がるわ、物語の終わり方としても完璧だわと、ちくしょう、あらためてアレクサンダー・ペイン監督を讃えたい気分だったり。


刃牙が自分の“紐切り空手”の技を使うのを見て、驚く鎬昂昇を貼っておきますね。
三角絞めでつかまえて-鎬コウショウ


だがしかし! 実は個人的に微妙に感じる部分もあって…。例えば、あのバート(ティム・ドリスコル)とコール(デヴィン・ラトレイ)のクズ兄弟ですよ。マッチョイズムでデヴィッドをバカにするくだりは笑ったけど(しつこいのが良かった)、あのタカリ精神には超ムカついて。特に強盗を装ってウディからDMを奪った行為に対しての制裁を受けるべきではないでしょうか。できればラスト、凱旋するウディをボーッと見ていたら、突然、ダンプにはねられて即死するとか…。って、まぁ、それは無理かもしれませんが(苦笑)、あのバレバレな強盗のくだりに関しては、あまりにバカすぎて萎えるところもなくはなかったのです。


クズ兄弟。デヴィン・ラトレイ(左)の方は「ホーム・アローン」に出てたんだって。
クズ兄弟


あと、非常に気になったのが、詐欺DMを送ってきた会社の扱い。「100万ドルが当たりました」というDMがどのくらいの詐欺レベルなのかはわかりませんが、例えば! 日本でよくある「現金をあげます」とか「私を抱いてください」的な迷惑メールを送る業者を「関わっているクズは全員火あぶりにされて死ぬべき!ヽ(`Д´)ノ」ぐらいに憎悪している僕的には、あのヌルいやりとりが物足りない。正気が曖昧な状態にあったウディが、あの瞬間だけ、自分を取り戻し、騙された怒りによって筋肉もバルクアップ&パンプアップ。朝鮮戦争時に鍛え上げた軍隊格闘技で社内にいる奴らを皆殺しにするーー。そんな妄想をした観客は少なくないのではないでしょうか。


ウディが詐欺会社に行くと、受付が偉そうな口調で「なにかご用ですかな?」。
なにかご用ですかな

詐欺だとわかった瞬間、アゴを破壊! こんな会社に就職した自分を呪え!
アゴを一撃!

当然ながら社長にも顔面パンチ。今、怒りによって老人が殺戮マシンと化す!
殴られて、目が!

凄惨な光景に泣き叫ぶデイヴィッド。だが、彼の体にも巨凶グラントの血が流れていてーー?
やめてぇぇぇ!


って、「悪人」の時とまったく同じ展開を書いて申し訳ないんですが、本当のところを書くと、この作品を微妙に感じた大きな理由は、単に僕と父親の関係が良好ではなかったからだったりします…。ここから残念な自分語りが始まりますけど(苦笑)、小さいころは恐怖の対象であって常に顔色を窺ってたし、成長してからは軽蔑の対象でしかなくて。ブログにやたらと「大泣きした」「号泣メーン!」なんて書くほど涙腺がユルユルな僕が、死んだ時に一滴も涙をこぼさなかったほどでしてね。離婚した後、母親にいろいろと吹き込まれてからは、彼の血が自分に流れていることすらイヤになって(ただ、そういうことを息子に話す母親も嫌いになった)。ああいう人間にだけはなりたくないと思って生きてきたのです。

でも、自分が娘を授かって、さらに40歳という“僕が生まれた時の父親の年齢”になってみると、当時の彼はどういう気持ちで人生をサバイブしてきたんだろうなぁとか考えるようになったりもして。一緒に笑った記憶とかはないけど、なんとなく彼なりに僕を可愛がってくれてた気もして、なんて言うんですかね、感情がグラグラして吐き気がしてくるというか。正直、よくわからないんですが、父親を都合良くクソ野郎扱いしている自分がクソ野郎に思えて死にたくなるので、普段はなるべく考えないようにしているのに、この映画を観たらぶり返しちゃって死にたくなった…って、スゲー辛気くさい話ですな。


というワケで、再度、「死ね死ね団のテーマ」を貼っておきますね↓




だからね、間違いなく素晴らしい作品だし、興味がある方はぜひ劇場に足を運んでほしいんですけど、率直に書くと、僕はこの映画のせいで凄まじく面倒くさい心理状況に陥ったので、観なければ良かったです ('A`) せめてもう少し仕事が忙しくなくて、精神状態が良い時だったら、そんなに落ち込まなかったと思うんですが…。とは言え、この映画の感想文をザッと書いた後、いろいろと他の人のブログをチェックしていたら、はちごろうさんが「『サバイバル・ソルジャー』でジャン=クロード・ヴァン・ダムが演じた役の出身地がネブラスカだった」といった文章を書かれていて、お陰様であの映画への理解がより深まったのでね、やっぱり観て良かったカモ!ヘ(゚∀゚*)ノ ナニコノオチ




アレクサンダー・ペイン監督の前作。僕の感想はこんな感じ



サントラを貼っておきますね。



あまり関係ありませんが、貼っておきますね。



ちょっと貼ってみたかったのです許してください…。



小津安二郎監督作。観といた方が良いことぐらい、アタシだってわかってる! わかってるのです…。