凶悪(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

凶悪(ネタバレ)

凶悪※ムービーウォッチメンのリンクなどを追記しました(2014/6/21)

三角絞めでつかまえて-映画 凶悪

2013/日本 上映時間128分
監督・脚本:白石和彌
原作:新潮45編集部
脚本:高橋泉
製作:鳥羽乾二郎、十二村幹男
エグゼクティブプロデューサー:由里敬三、藤岡修
プロデューサー:赤城聡、千葉善紀、永田芳弘、齋藤寛朗
アソシエイトプロデューサー:小室直子、小松重之
ラインプロデューサー:大日方教史
音楽:安川午朗
撮影:今井孝博
美術:今村力
照明:水野研一
録音:浦田和治
編集:加藤ひとみ
衣装:小里幸子
ヘアメイク:小山徳美
音響効果:柴崎憲治
助監督:茂木克仁
制作担当:小川勝美
キャスティング:田端利江
出演:山田孝之、ピエール瀧、池脇千鶴、リリー・フランキー、白川和子、吉村実子、小林且弥、斉藤悠、米村亮太朗、松岡依都美、ジジ・ぶぅ、村岡希美、外波山文明、廣末哲万、九十九一、原扶貴子
パンフレット:★★★★(700円/インタビューとコラム、人物相関図、角田純男さんの美麗なイラストもあって良し!)
(あらすじ)
ある日、ジャーナリストの藤井(山田孝之)は、死刑囚の須藤(ピエール瀧)が書いた手紙を持って刑務所に面会に訪れる。須藤の話の内容は、自らの余罪を告白すると同時に、仲間内では先生と呼ばれていた全ての事件の首謀者である男(リリー・フランキー)の罪を告発する衝撃的なものだった。藤井は上司の忠告も無視して事件にのめり込み始め……。(以上、シネマトゥデイより)

予告編はこんな感じ↓




80点


予告編を観て、「これは面白そう!ヘ(゚∀゚*)ノ」と。原作のルポ(Kindle版)を読んで、楽しみにしてましてね。先日、ヒューマントラストシネマ渋谷で観てきました。「面白いけど失敗した!ヽ(´Д`;)ノ」と後悔しましたよ…。


劇場には「バトル・オブ・ヒロミくん!」の学ランが飾ってありました…って、関係ないですな。
$三角絞めでつかまえて-ヒロミくんの学ラン

そして、つい17アイスを食べちゃったのです。
三角絞めでつかまえて-17アイス


いや、ズバ抜けてスゴいところは多いんですよ。まず、粗暴すぎるヤクザ・須藤を演じたピエール瀧さんがマジで怖い。恥ずかしながら僕は電気グルーヴに関しては全然詳しくなくて(アルバムは何枚か聴いてますが)、ピエール瀧さんについては「少年メリケンサック」の事務所社長役とか、「宇多丸師匠の家を襲撃した」とか、もともと“やや乱暴”なイメージだったんですけど(失礼な文章)、まさかここまで恐ろしいとは!(゚д゚;) ヒィィ

オープニングの暴力マシーン振りからトップギアであり、シャブは打つわ、レイプするわ、子どもが家にいても平気でセックスするわ(あれ、撮影はどうやったんですかね?)、思い込みで暴走するわ、すぐにぶっこもうとするわ…(「ぶっこむ=殺す」こと)。不機嫌そうだと思ったら、「これ終わったら、お前だかんな (゚⊿゚) ブッコム」といきなり死の宣告をしてくるところとか、あまりに堂に入ってるので、「演じてるんじゃなくて、普段からそういう人なんだろう… (・ω・;)」と戦々恐々としながら観てました。…って、パンフレットの本人インタビューや樋口毅宏さんのコラムなどを読んだら、全然そんな感じの人じゃなくてね。いや、見事な演技だと超感心しましたよ。


ピエールさん、ヤクザにしか見えなかったです…。
三角絞めでつかまえて-須藤(ピエール瀧)


そして、“先生”と呼ばれた不動産ブローカーの木村役のリリー・フランキーさんもマジでスゴかった。登場するのは中盤なんですが、ゲスな悪党っぷりが最高すぎでして。以前、「ぐるりのこと。」を観た時は「良い雰囲気出すなぁ」と感動したんですけど、今回の映画は「ううむ、実はこういう人なんだろう… (・ω・;)」と、ゲンナリしながら観てました…。って、もちろん演技なんですけど、超リアルだったのでね、リリーさんに関しても心底感心した次第。


邪悪な木村を演じたリリーさん。やっぱり本当はこういう人なんじゃ… (;`Δ´) ヌゥ
三角絞めでつかまえて-先生(リリー・フランキー)


で、何がスゴいって、この2人の悪行三昧描写。映画中盤、「記者の藤井が家をのぞくと、中で木村が人を殺してた!Σ(゚д゚;)」という“現在から過去パートへの導入の演出”は100点としか言いようがないんですが(ゾクゾクした)、そこからのピエールさん&リリーさんの暴れっぷりが、こう書くと不謹慎ですけれども、“人でなし”すぎてスゲー面白いの。白石和彌監督の手腕も大きいと思いますけど、まさに奇跡のような化学反応が起きていて、観ている間、まったく飽きなかったです。作風は違いますが、園子温監督の「冷たい熱帯魚」を思い出しました。

特に素晴らしすぎるのが、ジジ・ぶぅさん演じる牛場を加虐の末に殺すシーン。暴力がエスカレートする際の“悪ふざけ感”は、ピエールさんとリリーさんが本当に仲が良いのもプラスだったんでしょうけど、「ああ、この人たちは普段からこうやって人を殺しているのだろう… (・ω・;)」とドン引きするほどリアルに感じまして。ジジ・ぶぅさんの“卑屈なジジイ”っぷりが真に迫ってるのもキツくてね…。スクリーンから邪悪なオーラが伝わってくる名場面でしたな。


ジジ・ぶぅさん、まだ50代ってのがビックリ。この映画、キャスティングがまた見事なんですよね。
三角絞めでつかまえて-牛場(ジジ・ぶぅ)


ただ、スゲー失敗したと思ったのが、原作を先に読んでしまったこと。元になった事件自体はなんとなく知ってましたけど、実際に出た新潮45の記事とかはチェックしてなくて。「良い機会だから読んでおこう」と買ってみたら、これがまた予想以上に面白くて。特に著者である宮本太一記者の取材力には感動を覚えて、「この人、スゲェ!」と尊敬の念を抱くほどだったんです。

ところが! 映画を観てみたら全然違うというか…。原作では“クールで優秀な大人”って印象だっただけに、“事件に囚われてしまった若手記者”みたいなキャラになってて、他の仕事をないがしろにするのが超ガッカリ。記者の能力もそんなに高くないというか、牛場家への雑な聞き込みとか、木村の家で警察に拘束されたりとか、「新潮45の記者がそんな雑な仕事はしないだろ」って、ごめんなさい、かなりイライラしちゃったんですよね。

池脇千鶴さん演じる奧さんとのやり取りも悪くはないんだけどさ(というか、池脇千鶴さんは良かった!)、例えば「妻が義母に叩かれるのをスルーする」とか、いくら何でも現実逃避しすぎじゃないですか。“映画のオリジナル要素”なのがわかってるだけに、さすがにバカバカしく感じちゃいましたよ。一応、オチを書いておくと、藤井のおかげで木村は逮捕→無期懲役になるんですけど、正義という名の憎悪に囚われてしまった藤井は木村を死刑にしたくて仕方なくて。ラストは、それを面会した木村に見透かされて終わるんですが、僕的には青すぎて乗れなかったです。


山田孝之さん演じる藤井記者が事件にのめり込んで憔悴していく姿自体は良かったんですがー。
三角絞めでつかまえて-藤井(山田孝之)


それ以外にも「須藤が余罪を告白した動機が『可愛がってた舎弟を殺させた』になってた」のは少し変だし(実際には、舎弟が自殺したことに激怒して告発を決意してる)、「女編集長(村岡希美)のステレオタイプな理解のなさ」には驚いたし…(あんな凶悪な死刑囚が殺人の余罪を告白したら、とりあえず聞く耳くらいは持つのでは?)。上申書を提出した時の警察のやる気のなさも「なんだかな~」と思ったり(新潮社クラスのマスコミをあんなぞんざいに扱うワケがない)。


ちなみに女編集長のモデルは中瀬ゆかりさんだそうで。漫F画太郎先生が描いた中瀬さんと、村岡希美さんの画像を並べておきますね。
三角絞めでつかまえて-中瀬ゆかりさん


って、ここまで書いた僕の不満点については、白石和彌監督がインタビューや対談でちゃんと“その意図”を語ってたりしてて。例えば、“やる気のない警察”に関しては、実際の事件でも「死体にスタンガンの火傷の痕があるのに自殺として処理する」という大失態を犯してるため(「時津風部屋力士暴行死事件」を思い出した)、あえてイヤな感じにしたそうなんですよ。

つーか、振り返ると、“映画オリジナル”で良い部分もたくさんあって。須藤が藤井に他の殺人事件を話し出した時、「あ、これ先生関係ねぇや (ノ∀`) テヘ」と言って2人で笑うシーンとか、須藤が宗教に入って救われるくだりは(少し「シークレット・サンシャイン」を思い出したり)、原作には無くて、監督が原作者から聞いて脚色したんだそうで。あと、「世の中は長い不況だけれど、いま我々はせっかくのバブルじゃないか」と、老人たちを油田に例える先生の台詞も素晴らしかったし…。そういう“考えられた仕事振り”を思うと、まぁ、単に僕の好みと合わなかっただけというか、むしろ原作を読んでなかったら作品の印象が違ってた気がして、かなり残念でした… (´・ω・`) 僕的に「これから映画を観よう&原作を読もう!ヘ(゚∀゚*)ノ」と思っている方には、映画原作の順番をオススメします。

ということで、合わない部分もあったんですが、ちゃんとオッパイは出るし、凶悪な場面がとにかく凶悪なのでね、良い意味で“しっかりとイヤ~な映画”でしたよ。正直なところ、警察で働いていたころの事件を少し連想したりもして…。本当にね、いろいろと大変ですけど、全国の警察官の方々には真面目に頑張ってほしいですな (・ε・) オシマイ

宇多丸師匠の的確な批評がアップされているので、聴いてみて!




非常に読み応えのある原作本。僕はKindle版で読みました~。



白石和彌監督が撮ったドラマ。これは面白そうですな!



なんとなく思い出した園子温監督作。こちらは愛犬家連続殺人事件がモチーフになっております。



映画秘宝の別冊。監督と原作者の対談と柳下毅一郎さんの記事が面白かったです。