ムサン日記~白い犬(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

ムサン日記~白い犬(ネタバレ)

ムサン日記~白い犬

三角絞めでつかまえて-ムサン日記~白い犬

原題:Musanilgi
2010/韓国 上映時間127分
監督・製作総指揮・脚本:パク・ジョンボム
製作:イ・ヌジク
撮影:キム・ジョンソン
美術:ウン・ヒサン
編集:チョ・ヒョンジョ
出演:パク・ジョンボム、チン・ヨンウク、カン・ウンジン
(あらすじ)
北朝鮮を抜け出し韓国・ソウルに暮らす青年スンチョル(パク・ジョンボム)は、拾った白い犬だけを心のよりどころに、ポスター張りやビラ配りなど細々とした仕事で生活を続けていた。やがて教会で見知った女性スギョン(カン・ウンジン)が勤めるカラオケボックスで職を得たスンチョルだったが、客とのトラブルなどを理由に解雇されてしまい……。(以上、映画.comより)

予告編はこんな感じ↓




90点


※今回の記事は少し「クロッシング」のネタバレもしているので、気をつけて!

「幸せの教室」のシネマハスラーの後にラジオネーム「フィガロ」さんが推薦されていて、気になったので、シアター・イメージフォーラムに行ってきました。超ゲンナリしましたよ… ('A`) 短めに感想を残しておきますね。


記事に紛れて犬の写真の切り抜きなんかが貼ってあってキュートな感じ。
三角絞めでつかまえて-記事が貼ってあって....

「オカッパ割引」とかサービスも可愛かったのに…。
三角絞めでつかまえて-オカッパ割引も


今回は予告編も観てなくて、「脱北者が主人公」「犬が出てくる」という情報しか知らなくて。「脱北してきた少年が差別とかに遭いながらも、犬と一緒に頑張って、最後は『クロッシング』みたいに死んじゃったりするんだろうな~」と、勝手に「フランダースの犬」ライクな“少年と犬の友情物語”を想像してたんですよ。


僕的にはこの「ペック版予告」みたいな内容かと思ってました。




ところが、実際に観てみたら、リアルな雰囲気の“若者サバイバル映画”だったのでビックリ。お話を書くと、主人公スンチョルは、なかなか雇ってもらえなかったり、ポスター貼りの仕事を商売敵に邪魔された上にボコボコにされたり、想いを寄せてた女の子スギョンに誤解されて罵られてバイトをクビにされたりと、映画の後半あたりまで、とにかくイヤ~な状況が続くんですが…。なんと彼はそんな理不尽な状況にサナギマンライクに耐えまくるんです。


サモ・ハンを思わせる髪形のスンチョル。要領の悪さは世界ランカーレベル。
三角絞めでつかまえて-サモ・ハン風の主人公

気になる女性スギョンのカラオケ店で働くものの、相手からは「使えねー奴 川 ゚д゚)、ペッ」扱いされちゃう(誇張アリ)。
三角絞めでつかまえて-気になる女性

せっかく貼ったポスターも商売敵に剥がされてしまって、こっちの仕事もクビに…。
三角絞めでつかまえて-貼っても貼っても

でも、愛犬ペックがいれば耐えられる! そういや、宇多丸師匠も名著「ブラスト公論」で「キツイ時は犬飼って寝ろ!」なんておっしゃってたっけ…。
三角絞めでつかまえて-犬と一緒


スンチョルはキリスト教の信者であり、ルームシェアしてるお調子者の友人ギョンチョル(チン・ヨンウク)が彼のためにズボンを万引きしても「お店に返してくる (`・ω・´) キリッ」とゴネるほどの真面目な性格の子だから、応援したいのは山々なんですが…。あまりにも人生に無抵抗すぎるから、さすがに「犬に逃げないで、もう少し戦えよ!」とか「もっとちゃんと説明する努力をしろよ!」とか思って、結構ストレスが溜まるんですよね。ポスター業者とのやり取りも、「自分のせいじゃない!」という気持ちは分かるけど、応対する態度が悪すぎて「あれではクビになりますな ┐(´ー`)┌ヤレヤレ」という心境になるし…。地味にキツイ映画だなぁと思っていたワケですよ。


ギョンチョルに買ってもらった大事なダウンジャケットをカッターで切られても無抵抗なスンチョル。
三角絞めでつかまえて-ダウンジャケットが!

ポスター業者もイヤな奴風だけど、話せば分かりそうというか、根っからの悪人じゃないと思うんですがー。
三角絞めでつかまえて-ボスの指摘


だがしかし! 映画終盤、とうとうブチキレてイジメに来た商売敵を暴力で撃退し(僕的にはもっと頭から脳が出ちゃうくらい殴ってほしかったけど、このシーンの溜飲の下がりっぷりは異常)、その後、教会で北朝鮮にいた時のことを告白するシーンが始まると、やっと“彼の事情”が見えてきまして。実は「飢えに苛まれていたスンチョルはわずかなトウモロコシを友人と奪い合い、殴り殺してしまった→彼は“殺人の贖罪”としてすべてに耐えてた」というね… (ノДT) カコクスギ

そんなカルネアデスの板的エピソードを聞いたスギョンはすっかり同情して、「アタシ、スンチョルの気持ち、全然分かってなかったんだ… 川ノω・、)」多用しすぎなフレーズ)「お友だちになってくださいYO!川`∀´)ノ」なんて手のひらを返すんですけど、スンチョルは彼女の前を素通り。「あら、スンチョルったら、相手だって誤解してたんだし、もう少し愛想良くしないとモテないゾ ( ´∀`)σ)д`)」なんて思ったりして。


この夜は彼女の前を素通りしたんですが…。
三角絞めでつかまえて-彼女の前をスルー


で、実は同時進行で、同居人のギョンチョルは「北朝鮮にいる家族に送金する人はお金預かりますヨ (・∀・)」業務をやってたんですけど(詐欺ではないけど、金を抜いてた)、運び屋担当のオジサンが中国で拘束されてしまったために、大金がパーになってしまいまして。そのくせ誠実に対応しなかった上に、今度は「オジサンがいないのに送金業務をやろうとした(←これはたぶん詐欺)」ため、事態は「同胞から命を狙われるレベル」にまで発展。ギョンチョルは「犬小屋に隠した金を持ってきてください… ('A`)」とスンチョルに懇願。スンチョルは「わかったけど、これでお前との縁は切るからな!」と承諾して、何とか大金を持ち出すんですが…。なんと、バス停で待っていたギョンチョルをスルーして、その金でスーツを購入&オカッパ頭を散髪。教会にいるスギョンに会いに行っちゃって、聖歌隊に入ったり、カラオケ店で仕事を再開したりと、友人を裏切って人生をリスタートしちゃうんです。


右が友人のギョンチョル。バス停で途方に暮れた後、どうしたんでしょうかね。
三角絞めでつかまえて-疑ってるの?


ラストは、カラオケ店で仕事中、コンビニにビールを取りに行くのを頼まれたスンチョルが、店の外にいたペックにエサをあげてからコンビニに行き、店の近くまで戻ってきたら、犬が路上で死んでまして…。スンチョルはしばらく佇んだ後、犬の死体を放置して去って、映画は終わってました。もうね、「あんまりだ!ヽ(TДT)ノ」と思いましたよ。


僕の心境はこんな感じ(ジョジョ第二部より)
三角絞めでつかまえて-あんまりだー!


いや、話としてはスゲー分かりやすいですよ。犬は誰が殺したというワケでもなく、アレは「スンチョルの純粋性が死んだ」ってことですよね。生きるために人を殺して、苦悩して、キリスト教に傾倒して、真面目に生きてきたけど、結局、それだけだと生きていけないから、友人を裏切って。最後、ペックの死にショックを受けつつも、死体に駆け寄りもしなかったのは、この出来事が自分への罰だと自覚してるからじゃないかと。もうその罰とともに生きることを決めたから、ペックの死体とも冷たく別れたんじゃないかと。要は、ペックは“スンチョルが大人になるための通過儀礼的存在だった”ということなんでしょうな。話的には理解できるけど、あまりに苦すぎる展開だから、映画館ではなんか釈然としなかったし、今もそんな心境が続いております…。

パンフレットを読むと、監督自身が演じたスンチョルは“脱北者だった大学の後輩(ガンで死亡)”がモデルになってるそうですけど、実在感があってスゲー良かったです。少しキュートなところがあるのも好感が持てたというか、カラオケ店でタチの悪い客を止めるために、ヒザの上に酒のケースを次々と載せていくシーンは笑いました。ギョンチョルのキャラクターも結構好きで、彼がやたらとアメリカに行きたがるのは「結局、この国では詐欺に近い商売しか出来ない→別の場所でちゃんと生き直したい」ということだと思うと、その心境は分からないでもないというか、グッとくるというか。「アメリカの女性は肉を食ってるから胸がパンパン」というトリビアも勉強になりましたよ(眉唾)。


スンチョルの中の人はこんな感じ。動画を見るとフツーに知的。
三角絞めでつかまえて-監督さん


あと、暴力シーンは実際に殴られたそうですけど、確かに“暴力のイヤなムード”がちゃんと伝わってきて好みでした(肉のカーテン風の防御振りが良かった&ゴロゴロ落ちていくシーンが愉快)。ビジュアル的に良いところも多くて、何度も映るスンチョルの悲しげな背中は観てるだけで切なくなったし、荒野と犬とスンチョルのカットはマジで美しかったです。


暴力シーンは全体的にリアルで素敵でしたぞ。
三角絞めでつかまえて-イヤな暴力シーン

この「神様ありがとう、僕に友だちをくれて!ヘ(゚∀゚*)ノ」シーンが泣けるだけに、オチがなぁ…。
三角絞めでつかまえて-感動的なシーン


ということでね、映画自体は全然嫌いじゃないけど、オチが重くて、非常にゲンナリな気分になった次第 (・ε・) なんて言うか、日本人的には、脱北者の今を描いた映画というより、日本のワープア問題を重ねて観ちゃうような気がしました。何はともあれ、素晴らしい映画なので、気になっている人は劇場へどうぞ~。




一昨年に観て死ぬほど泣いた脱北映画。僕の感想はこんな感じ。
三角絞めでつかまえて-クロッシング
クロッシング [DVD]