イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ(ネタバレ)

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ※シネマハスラーへのリンクを追加しました(8/3)

三角絞めでつかまえて-イグジットスルーザギフトショップ

原題:EXIT THROUGH THE GIFT SHOP
2010/アメリカ、イギリス 上映時間90分
監督:バンクシー
音楽:ロニ・サイズ
ナレーション:リス・アイファンス
出演:ティエリー・グエッタ、スペース・インベーダー、シェパード・フェイリー、バンクシー
(あらすじ)
ストリート・アートについてのドキュメンタリーを制作し始めたロサンゼルス在住のフランス人映像作家ティエリー・グエッタ。ティエリーは覆面アーティスト、バンクシーの存在にたどり着き、取材を始めるが、ティエリーに映像の才能がないことに気付いたバンクシーは、逆にティエリーのドキュメンタリーを自分が監督し始める。(以上、シネマトゥデイより)

予告編はこんな感じ↓




90点


※本作は、内容についての情報をなるべく入れずに観に行った方が間違いなく面白い映画なので、興味がある人はこのブログのネタバレ全開の駄文を読まずに劇場へ行った方が良いです。
※今回の記事は、非常に長くダラダラしていて、まとまりがないので、読む人は気をつけて!


昨年、心から尊敬している映画評論家の町山智浩さんがご自身のブログ「キラ★キラ」で紹介されていて、さらに「映画秘宝」では2010年のベスト2位に選んでいたということで(1位は「キック・アス」!)、僕も「これは観に行かねば!ヽ(`Д´)ノ」と思ってまして。さらにシネマハスラーの課題映画にもなったということで、シネマライズに行ってきたんですが、面白くて知恵熱が出そうになるドキュメンタリーでした。

ストリートアーティストたちの映像で構成されたカッコ良いオープニングから始まる本作の主人公は、ティエリーという“古着屋経営でそこそこ成功している中年男性”。自分の日常をビデオに撮ることが生き甲斐だったんですが、ひょんなことからストリートアーティストたちを撮り始めると、その世界にドップリとハマッてしまって。真面目に彼らと交流していくうちに、全世界で注目されている覆面芸術家バンクシーのところに辿り着くんですよ。


主役のティエリーは憎めない感じのイイ奴。
三角絞めでつかまえて-MBW

こちらがバンクシー。顔を見せないのは、バレると捕まっちゃうから。大変ですな~(他人事)。
三角絞めでつかまえて-バンクシー


バンクシーについて知りたい方はこちらの動画が分かりやすいかも↓




当初は胡散臭がられていたんですけど、ネズミ帝国との緊迫した攻防でティエリーが男気を見せたことが認められて、バンクシーとその仲間たちに一目置かれるようになりまして。で、仲良くなったバンクシーに「ストリートアートのドキュメンタリーを作りなよ」と勧められたので、6カ月かけて「ライフ・リモート・コントロール」という作品を作るんですが…。これがまさに“誰が観ても見事にダメな作品”というか、1分で音を上げたくなるシロモノでして。バンクシーも「コイツは映画監督というより、撮影が趣味の変人だな」とアッサリ見切りをつけ、今度は彼にアート活動をすることを提案するんですね。

バンクシー自身は「ちょっとした個展でも開いてみれば?」程度のつもりだったのが、ティエリーは「バンクシーに言われた♪ヘ(゚∀゚*)ノ」と舞い上がって、MBWミスター・ブレインウォッシュ)というアーティストになり、“ちょっとした個展”は全財産を注ぎ込んだ巨大プロジェクト「ライフ・イズ・ビューティフル」に変貌。勢いよく突っ走ったものの、足を骨折した時に「こんなことを始めちゃってどうしよう… (;´Д`)」と我に返って、結局、バンクシーに泣きつきまして。優秀なプロデューサーを紹介してもらったり、推薦文を書いてもらったりしたら、なんと個展は大盛況! ティエリーことMBWが見事に一流アーティストの仲間入りを果たして、映画は終わってました。

この映画を観ていると、ティエリーからはアーティストとしての才能があまり感じられないというか、むしろ凡庸にしか見えないんですよ。ところが、金を使って雇ったスタッフたちに適当に指示して作らせたモノが“アート”として高い評価をされていくと、まさに「クソのような作品をバカに売りつける方法」バンクシーが最初に付けようと思ったタイトルだとか)を見せられている気分であり、笑いつつも不穏な気持ちにさせられるというか…。日本にはあまりいないかもしれませんが、MBWが好きだった観客にとっては結構キツいドッキリカメラだったのではないでしょうか。


調子に乗ったボンクラにしか見えないティエリー。ちょっと「ブギーナイツ」を思い出したり。
三角絞めでつかまえて-調子に乗るティエリー


もうね、考えれば考えるほど蟻地獄的に恐ろしいワケですよ。だって、僕は「ティエリーごときの作品を買うなんてバカばっかりだな (`∀´)ケケッ」って上から目線になりつつも、それは所詮「そういう風に分かりやすく見せられたから、そう思っている」のであって、本当は価値がある作品なのかもしれないんですよね。この映画が公開された現在もMBWがちゃんと活動しているということは、それでも彼の作品を評価する人がたくさんいるということなんだろうし、結局、この映画は「クソのような作品をバカに売りつける方法」だけではなく、「クソのようなやり方で“アート”が生まれてしまう方法」という、“アート”の存在自体に対する強烈な皮肉も描いているというかさ。いや、あのあまりに愛のないヤッツケな展示振りとか観てると、「『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』の職員たちのツメの垢を煎じて飲め!ヽ(`Д´)ノ」と頭に来ますけど、ヤッツケだろうと何だろうと素晴らしいモノが生まれたりするのが芸術活動の不思議なところなんでしょうな…。


これ、MBWがデザインしたそうです。



そして、一番深読みをしちゃうのは「どこまでがガチなのか?」ってところ。だって、ティエリーからすれば上映に協力する必要なんてないし、あまりに話が出来すぎてるし、マジで知恵熱が出てくるというか…。「映画秘宝 2011年 09月号」のコラムで江頭 2:50さん&ギンティ小林さんが「ティエリーは“バンクシーの1人”なんじゃないか?」という仮設を立てられてましたが、どうなんですかね。あと、1つ気になったのが、バンクシーと一緒に写っていたサルの顔。この顔を見てると、ある作品を思い出すんですよね…。


このサルの目、どこかで見覚えがあると思ったら…。
三角絞めでつかまえて-サルの目に注目!

「電人ザボーガー」の幹部キングアフリカと瓜二つ!?
三角絞めでつかまえて-キングアフリカ


素敵すぎる主題歌を貼っておきますね↓




もしかするとこの怪奇な映画はシグマの仕業!? Σ(゚д゚;) って、心底くだらない文章を書いちゃいましたな…。何はともあれ、あるアーティストの誕生譚として愉快だし、「“アート”ってなんだろう」って考えさせられて面白いし、単純にストリートアートの記録としても興味深いし、ティエリーが持つ“憎めない感”もあって本当に爆笑しながら観られる映画なので、気になる人は観といた方が良いと思いますよ~。

宇多丸師匠の恐ろしくタメになる批評がアップされているので、聴いてみて!




バンクシーの作品集だそうです。



バンクシーの記事が載ってるっぽい一冊。