トゥルー・グリット(ネタバレ) | 三角絞めでつかまえて2

トゥルー・グリット(ネタバレ)

トゥルー・グリット※シネマハスラーへのリンクなどを追加しました(5/24)

三角絞めでつかまえて-トゥルー・グリット

原題:True Grit
2010/アメリカ 上映時間110分
監督・脚本・編集:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作:スコット・ルーディン、ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ、ロバート・グラフ、デビッド・エリソン、ポール・シュウェイク、ミーガン・エリソン
原作:チャールズ・ポーティス
出演:ジェフ・ブリッジス、マット・デイモン、ジョシュ・ブローリン、バリー・ペッパー、ブルース・グリーン、ヘイリー・スタインフェルド
(あらすじ)
父親を殺された14歳の少女マティ(ヘイリー・スタインフェルド)は犯人(ジョシュ・ブローリン)を追跡するため、隻眼の凄腕連邦保安官コグバーン(ブリッジス)を雇う。だが、コグバーンは元泥棒で大酒飲みの自堕落な男で、彼を信用できないマティはコグバーンに同行して犯人を追うことになる。(以上、エイガ・ドット・コムより)

予告編はこんな感じ↓




96点


※今回の記事は、「勇気ある追跡」が好きな人が読むと不快になる怖れがあるので、要注意です。
※今回の記事は、結構長くてダラダラしている上に、原作小説や1969年の映画「勇気ある追跡」のネタバレもしているので、要注意です。


超満員の新宿武蔵野館で立ち見で観てきました。人によって好き嫌いが別れる感じはしないでもないんですけど、僕は大好きな映画でしたYO!ヘ(゚∀゚*)ノ


水槽の展示は英国王が占領しているので、壁を使って大々的に展示!
三角絞めでつかまえて-トゥルー・グリット展示

お尋ね者の顔の部分が鏡に!? ふ、ふん、別に気が利いてるなんて思ってないんだから!
三角絞めでつかまえて-鏡の展示


映画が始まると、冒頭からマティが大人たちと交渉しまくり! 常に気高く子どもながら決して1歩も引かない彼女は、僕的には実に魅力的なヒロインでしたよ。撮影当時は13歳だったそうですが、演じたヘイリー・スタインフェルドは本当に素晴らしかったです。観ているだけで萌えるというか、あの常に自信満々で生意気な感じがたまらないッス (*゜∀゜)=3 口ゲンカしたら間違いなく泣かされそうなので絶対近くには寄りませんが、でも、言葉遣い自体は品の良さを感じさせるのが実に高ポイントであり、ちょっと言葉責めされたいような気がしないでもないというか、もう涙目になっている僕を見たマティは興奮状態になって、さらに頬を紅潮させてサディスティックなムードで罵ってきて…。つい、そんな妄想をしてしまう春寒の候。母さん、僕はもうすぐ父親になります。


マティの前にマティなく、マティの後にマティなし。僕的にはアンタがアカデミー賞“主演”女優賞だよ!
三角絞めでつかまえて-マティ・ロス


いや、当然ながら彼女の魅力はそれだけじゃないんです。大人ぶっていてもまだまだ子どもなんですYO!ヽ(`Д´)ノ あの、怪談話をしようと持ちかける時の「子どもらしい空気の読めなさ×引き出しの少なさ=可愛らしさ」と言ったら、もう100点! ハッキリ言ってね、“生意気”だけだったら、そこら辺の自販機でも90円くらいで売ってますよ。そこに“たまに見せる子どもらしさ”が加わることによって、普段の“生意気”が“大人社会での必死の背伸び”に変換されて見えるようになり、こっちもすっかり応援モードになってしまうワケです。


このブカブカの帽子シーンにも萌え! 父親のコートを着るってのも良いよネ!
三角絞めでつかまえて-帽子がブカブカ!


というか、この映画を見終わった時、僕は普通に感動したんですけど、なんか自分の中で消化しづらい部分もあったんですよ。で、パンフレットや原作小説を読んで、やっと腑に落ちまして(そして、「勇気ある追跡」も観ました)。要は、この映画は“マティの冒険譚”であり、原作小説が彼女自身の語り(視点)ですべて進行するように(だから、同じように“話し言葉”で書かれた「ハックルベリィ・フィンの冒険」が引き合いに出されたりする)、その部分を強調した作りの映画なんですよね。だから、単純にアクション西部劇的な期待をしちゃうと肩透かしを食う面もなくはない気がします。

「法廷に入る→最初は影になっていたコグバーンの顔が徐々に見えてくる」とか、「彼女の目が届かないところの描写がなかったりとかする」というのは気付いてたんですけど(…そうですよね?)、最初に観た時は、クライマックスで馬を走らせる夜が“少し幻想的なムードになっていた意味”がよく分からなくて。でも、あれは「彼女が熱に浮かされて夢うつつ状態だったから」と考えると合点がいくというか。

ちょっと唐突ですが、今回の映画と1969年の「勇気ある追跡」を比べると、原作で起こるイベントをある程度忠実になぞったのが「勇気ある追跡」であり、原作の雰囲気を受け継いで、最後は原作で本当に描きたかったことすらしっかり表現したのがコーエン兄弟版じゃないかと思ったりもしましてね。なんでそう思ったのかというと、オチの部分の描き方なんですが、各作品の終盤の展開を箇条書きにしてみると↓


<原作小説>

マティが父親の仇のトム・チェイニーを撃つ
→その反動で穴に落ちる! チェイニーも生きていてさらにピンチ!
→チェイニーをコグバーンが退治するも、マティがヘビに噛まれる!
→頭部を負傷したラビーフを置いて、コグバーンとマティはポニーに乗って街へ
→マティは助かったものの片腕を切断。コグバーンとはそのまま別れる
→四半世紀後、マティはコグバーンを訪ねるものの、少し前に死んでいてションボリ
→彼の墓を立て、「ラビーフにも会いたいものだ」的な感じで終了



<1969年の「勇気ある追跡」>

マティが父親の仇のトム・チェイニーを撃つ
→その反動で穴に落ちる! チェイニーも生きていてさらにピンチ!
→チェイニーをコグバーンが退治するも、マティがヘビに噛まれる!
→頭部を負傷したラビーフは2人を引き上げると死亡。コグバーンとマティはポニーに乗って街へ
→マティは腕を切断することもなく助かり、コグバーンは彼女を家まで送る
「行かないで」「ダメだぜ、お嬢ちゃん」的なやりとり
→コグバーンが威勢よく旅立って終了



<コーエン兄弟の「トゥルー・グリット」>

マティが父親の仇のトム・チェイニー(ジョシュ・ブローリン)を撃つ
→その反動で穴に落ちる! チェイニーはそのまま死亡した様子
→コグバーンが助けようとするものの、マティがヘビに噛まれる!
→頭部を負傷したラビーフ(マット・デイモン)を置いて、コグバーンとマティはポニーに乗って街へ
→マティは助かったものの片腕を切断。コグバーンとはそのまま別れる
→四半世紀後、マティはコグバーンを訪ねるものの、少し前に死んでいてションボリ
→彼の墓を立て、「ラビーフにも会いたいものだ」的な感じで終了



原作でマティが片腕を最後に失うのは“冒険の代償”という意味があって。少女があんな旅に同行するのは危険かつ無謀であり(だから面白いんですが)、最後、彼女はその“無謀の対価”を支払ったのだと思うんですよ(コグバーンが片目を失っているように)。

ただ、それだけで片腕を切断しちゃうのはやりすぎな感もあるわけで、僕が勝手に考えるに、作者のチャールズ・ポーティスは、本来ならマティにチェイニーを殺させて、その“復讐の代償”として片腕を失わせるつもりだったような気がするんですよね(妄想)。当時、新聞で連載されていた小説で、いくら仇だとはいえ、少女に殺人をさせるのは抵抗があったから、マティにチェイニーを殺させなかったのではと。

ところが、コーエン兄弟版ではマティが殺して、一瞬、勝ち誇る表情すら見せるワケですから、これは確信的な描写というか。マティが厳格なプロテスタントという設定も含めて、「罪の報いを受ける」ということを彼女自身が体現する。僕は、ある意味、原作を超えた展開だったと思うんですが…どうなんでしょうか。


全然関係ないけど、可愛いので馬に乗って頑張るマティの画像を貼っておきますね。
$三角絞めでつかまえて-馬に乗って水に!


面白いのが、ラストの展開を除けば、原作のイベントを忠実に消化しているのは「勇気ある追跡」の方なんですよね。コーエン兄弟版は、テキサスレンジャーのラビーフと途中でケンカ別れするとか、絞首刑シーンでネイティブアメリカンの人だけには何も言わせなかったりとか(ブラックな感じ)、首吊り死体をマティが下ろすシーンを入れたりとか、細かい変更点が非常に多かったりしまして。でも、それらの変更もキャラクターたちに深みを与えていたり、しっかり世界観の構築を助けていたりと、原作にはないのに“原作のエピソード臭”がしたことにも感心させられました(もちろん映画を観ている時は原作を未読だったので、そんなこと気付きもしませんでしたけどね)。


原作にはないシーン。この熊を被っている人は歯医者だったり。
三角絞めでつかまえて-変な医者


例えば、棺桶の交渉シーンはマティの性格が一発で分かるし、渡し守から逃げるマティが帽子ではたくのをリンゴをぶつける形にしたのは彼女の持つ“乱暴さ”が際立って良いし(その後の“馬で川を渡る蛮勇”に繋がる)、ラビーフのライフルの300メートル話も最後の狙撃シーンがメチャメチャ引き立ったし、コグバーンを徹底してアル中のダメ人間として描いたからこそ、最後の4対1の決闘&マティのために必死に走る彼が恐ろしくカッコ良く見えたんだと思います。「敵を見失った!ヽ(`Д´)ノ」とみんなでションボリするシーンも「こいつら、ダメだなぁ… ('A`) 」って感じがして良かったし。


ラビーフの狙撃シーンはベタだけど盛り上がりましたよ~。
三角絞めでつかまえて-ラビーフが撃つ!

マティのために必死に走るコグバーンも素晴らしかったです。
三角絞めでつかまえて-抱えて走る!


僕的にこの“ションボリシーン”は非常によく考えられていると勝手に思ってまして。というのは、終盤、マティが1人で川に行ったらチェイニーに偶然出くわして捕らえられるのは一緒なんですけど、その救出シークエンスが原作「勇気ある追跡」もちょっと無理があるんですよね。遠くに離れた割には駆けつけるのが超早いし(原作の方は小切手に署名したりして時間経過があるんですけど、それも不自然)、制圧したチェイニーをそのままにしておくのも変というか。


川でチェイニーと出くわして銃を構えるマティ。やっちまえ!ヽ(`Д´)ノ
三角絞めでつかまえて-銃を構えるマティ


でも、この映画では「ラビーフが仲違いして去っている→悪漢はラビーフの存在を知らない」ので、ラビーフがマティを救出する流れがスゲー自然なワケです。さらにその際、チェイニーを昏倒させているから、ラビーフが油断して逆襲されるのもそれなりに納得できるし。原作の不自然な点すら改善するという、文句のつけようがない改変だと思いました。


って、何かと原作とかと比較してばかりですが、そういうこととは関係なく、“荒野の画作り”っぷりとかは、僕のような見る目のない人間でもグッと来る素晴らしさ! ラストシーンはね、片腕は失ったけど“3人”の冒険は永遠というマティの想いが伝わってきて、ちょっと泣けましたよ…。長くなるのであまり書きませんが、役者さんたちもみなさん最高としか言いようがなくて。ジェフ・ブリッジスは昨年観た「クレイジー・ハート」よりも“デタラメなプロフェッショナル感”が増してて愉快でした。マット・デイモンやジョシュ・ブローリンも良い仕事をしてたし、ラッキー・ネッド・ペッパーを演じたバリー・ペッパーも超渋かったですな~。


マティにも(悪党なりに)フェアに接するネッド。マティ、負けちゃダメよ!ヽ(`Д´)ノ
三角絞めでつかまえて-マティとネッド


ちなみにコーエン兄弟自体は「あくまで原作の映画化であって『勇気ある追跡』のリメイクではない」的な発言をしてますけど、いくつか原作にはないけど「勇気ある追跡」にはあるシーンがあったりもしたので(ラストバトルで手綱を咥える以外でも)、なんだかんだ言ってオマージュしてるんだなぁと思ったり(ちなみにそのシーンも書こうと思ってたんだけど、ど忘れしちゃった ヘ(゚∀゚*)ノワラライフ!)。

ってワケで、取り留めもなくダラダラ書いちゃって非常に申し訳ないんですが、僕的にはかなり好きな映画でした(もう一度観に行きたいくらい)。「勇気ある追跡」のリメイクと思って観ちゃうと厳しいかもしれないし、合わない人もいるだろうけど、興味がある人はぜひ観てみて! で、良かった人は原作を読んだり、1969年版を観たりするのもオススメですぞ~。

宇多丸師匠が見事な批評をされているので、ぜひ聴いてみて!




原作本。今もアメリカでは愛されている国民的作品なんだそうで。
三角絞めでつかまえて-トゥルー・グリット原作本
トゥルー・グリット (ハヤカワ文庫 NV ホ 16-1)


ヘンリー・ハサウェイ監督が撮ったジョン・ウェイン主演作。一応、後で感想をアップする予定だったり。
三角絞めでつかまえて-勇気ある追跡
勇気ある追跡 [DVD]


ジェフ・ブリッジスとコーエン兄弟が組んだ映画。本当にイライラするんですけど、最後は泣けるんだよなぁ。
$三角絞めでつかまえて-ビッグリボウスキ
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近年でグッときた西部劇リメイク作。最後、2人が走る時、僕の心もダッシュ状態でしたよ。
三角絞めでつかまえて-3時10分
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