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みうら「…あのさ、最近気づいたんだけど、どうやら人間っていつか死ぬってね」
リリー「どうやらね、死ぬっつーじゃないですか」
みうら「うん、どうやら死ぬっつーね」
2010年の春、みうらじゅんと
彼の家に遊びにきていたリリー・フランキー。
二人は人生に関する様々なことについて
深夜まで語り合った。
それまでも対談をしたことのある二人だが
この時ほど沢山語り合ったことはなかったようだ。
この本はその時の気持ちの昂りを残したくて
二人の強い要望で記録された対談集になっている。
「人生」、「人間関係(結婚、親子、友情)」、
「仕事」、「生と死」など
それぞれのテーマに合わせて
みうら&リリーコンビが取り止めもなく語る。
私は以前からかねがね、みうらじゅん氏の発想と
言葉のセンスが好きで注目をしているのだが
この本もやはり発想がユニークで面白かった。
杓子定規じゃない考え方がいい。
読んだのは2年くらい前?で
感想を書かないままだった。
沢山付箋をつけたなかから
好きなところを抜粋。
(Lはリリー氏、Mはミウラ氏)
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L: だいたい、教養というのは、その人の生活だったり価値観だったり、知識がその人の身になっているもので、しかも大事なのは、その人の持ってる教養で世の中を変えられるかということだと思うんです。
M: 男が結婚する理由ってさ、たんに「寂しいから」っていう理由がメインだろうね。「このままズルズル付き合って結婚の話が出ないんだったら、私も考えなきゃね」って言われて、急に自分だけ考えてなかったことに寂しくなるんだよ。「僕も考えなきゃね」ってことなんだよ、きっと。リリーさんはまだ結婚してないけど、突然、意味もなく寂しくなる時、結婚するんじゃない?
L:毎日、食前食後に寂しいんですけどね(笑)。
M:(笑)。結婚するってことは、自分をだいぶ捨てなきゃならないじゃないですか、でも、だいぶ捨ててもいいくらい寂しくなる時が来るんだよ。それでも、オレもそうだったけど、結婚生活を送る中で、今までの自分じゃない自分が作れるようになると少しラクになるんだよね。
L:そういう意味では、「結婚は多くの苦痛を持つが、独身生活は喜びを持たない」という言葉があるんですけど、あれはなんかわかるような気がしますね。俺の好きな結婚に関する名言には『フィガロの結婚』の中の「あらゆる真面目なことのなかで、結婚というものが一番ふざけてる」っていうのもありますけど(笑)。
M:だって結婚式って、双方の親戚一同が並んでるわけでしょ。あれって、年とったらこんなふうになりますよっていうサンプル見せ合ってるわけだし、その状況がすでに面白いよね。そのうえで「それでもいいですか?」っていうことだもん。
M:でも、部下も上司も自分の鏡みたいなもんだから、それが今の自分のレベルなんだよね、哀しいかな。やっぱり、部下がダメだっていうのは、自分のレベルがそうだから、そんな人しかついてこないだけで、それを言っちゃおしまいだけど、結局そうだよね。景気がいい時は三流まで金は来るけど、景気が悪くなったら金が来なくなった、ってだけなんだよね。俺も一時、ぶつぶつそんな話をしてたら、先輩が「お前がその程度だからじゃないの」って。それを言われちゃあもう、二の句が継げなかったね。
L:「だってしょうがないじゃない」(笑)が出てしまいますね。
M:そこがいいんじゃないの、逆バージョンでね(笑)。
リリー 何かに対する怒りがなくなるのは、人としては一番死んだ状態で、そんな人は何も愛せない
みうら 出会った人のことを好きになれるかどうかが運
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この二人の対談のきっかけは
2010年の春だから東日本大震災の前。
そのあとコロナ禍が訪れて
「非日常」な出来事と
隣り合わせな世の中が続いている。
時代がどう変わろうと、
人間いつか死ぬのは怖いし
生きていくのに不安はある。
多くの人が感じていること。
だが、本当に怖いのは
もしかしたら「死ぬこと」ではなく
「老い」なのかもしれない。
なぜなら「死」は誰にでも平等だから。
「いつか死ぬのは仕方ない」
だからこそ、無理に抗うんじゃなくて
自然なことなんだって受け止めちゃう。
「どうやらオレたち、
いずれ死ぬっつーじゃないですか」と。
ふたりのあっけらかんとした物言いが
憂鬱さをどこかへ吹き飛ばしてくれる。
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