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世間の規範から外れた幸せが欲しい。
ひとりだけで、こっそり笑うような。
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山崎ナオコーラの小説には
いつもハッとさせられる。
ありふれた日常風景のなかに
一輪の花がぽんと差しだされたように
モノクロの行間にさりげなく
心を捉える、一行の言葉。
『人のセックスを笑うな』を
初めて読んだ時にも感じたけれど
彼女の小説の心理描写には
文体に独特のリズムがある。
とろりと歩くような速度で
つらつらと考えていることを
書き連ねてあるような感じ。
そしてときに、はたと何かに気づいて
足をふと止める感じ。
ゆっくりなテンポで、
気持ちが澄んでいく。
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『ここに消えない会話がある』は
ラジオのラテ欄を作成するのが仕事の
とある新聞社の制作チームが
物語の舞台になっている。
ただただ日々の様子を
淡々と書き綴ったような話で、
大きな変化はないけれど
日常のちょっとした会話や
職場の人間関係を
ささやかに映し出す。
ドラマチックなことが起きなくても
そこに物語は存在する。
なんの変わり映えのない毎日だって
人生はたゆまず進んでいく。
生きるのが面倒なのは、不幸だからではなく、生半可な幸せと耐えられそうな不幸が、交互に訪れるからではないだろうか。
「生活なんて、面白ければいいんだよ」
あの腐った家を出て、大嫌いな価値観の充満するあの家を捨てて、1人で歩くのだ。
新しい友達を作りたい。
ご飯も食べたい。
欲望があれば大丈夫。努力するから。
直接的な答えの書いていない本でも、読んで、それについて考えていると、今の問題が薄まる。よく子どもの読書離れがどうの、「本を読め」だのと聞くけれど、そんなの放っとけばいい。本なんか読んだって、頭が良くなるものか。ただ、傷ついた時は本を読め。芸術なんてものはそのためにある。弱い人のためにあると言って過言じゃねえ。
上の文章は
小説の中で一番共感したところ。
読書にまつわる金言だと思う。
作者の気持ちがすごく込められている。
先に続く仕事や、実りのある恋だけが、人間を成熟へ向かわせるわけではない。ストーリーからこぼれる会話が人生を作るのだ。
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▽『指先からソーダ』
▽『人のセックスを笑うな』
▽『太陽がもったいない』
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