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世界最大の流域、褐色の甘い海、史前的世界を秘める大河アマゾン。その水底に棲む名、怪、珍、奇さまざまの魚たち。殺し屋ピラーニャ。跳躍するトクナレ。疲れを知らぬファイター黄金魚(ドラド)。そして淡水最大の巨魚ピラルクー。驚き(オーパ)を求めてさまようこと60日、16,000キロ。
2024年の1冊目、
開高健の『オーパ!』。
雑誌『PLAY BOY』の連載で、
昭和五十二年の夏から60日間、
ブラジルのアマゾン河を
釣りをしながら冒険した旅行記だ。
題名の「オーパ!」とは
驚きや感嘆を表すときの
ブラジルでの表現からとったもの。
アマゾン河の旅はまさに
「オーパ!」の連続だった。
そして表紙写真に載っている、
このいかにも獰猛そうな牙の
迫力ある面構えの怪魚は
ピラーニャ(=ピラニア)である。
「オーパ!」という題名と
野生溢れるピラーニャの表紙。
これだけでアマゾン河での冒険が
いかなるものだったか伝わってくるようだ。
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開高健という人物は
1930年の大阪生まれ。
コピーライターであり、
釣り好きで有名な文筆家である。
その昔、金城一紀の『Go』という小説で
開高健の『流亡記』が出てきて
その作家の存在を初めて知った。
いつか大人になって読みたいと思っていた。
ところがいつか読みたいと思いつつ、
なかなか手に取る機会がないまま十数年。
短編集『ロマネ・コンティ・一九三五年』を
ようやく去年になって読む機会にありついた。
出会うにはだいぶ時間がかかったけれど
私が夢中になるのに時間は掛からなかった。
どこか遠い異国の情緒を漂わせながらも
リアリティのある情景描写、
ロマンを感じさせる淡麗な文体。
異国、旅、出会う人々、食事、釣り、
一冊の本に、一編の小説に、
まだ見ぬ世界が広がっていた。
小説(フィクション)というよりも、
むしろエッセイ(ノンフィクション)の
ような印象を受けた。
開高健の本をもっと読みたい!
本を通じて冒険をしたい。
ただただ湧き上がる純粋な欲求、
好奇心が掻き立てられる。
そんなわけで開高健に興味を持ち、
偶然出会った随筆『シブイ』を読んだり
古書店で『オーパ!』を見つけて購入し
しばらく読む楽しみを温めつつも
満を持して年始に解禁。
読んでみての感想は
「期待以上の絶品」
「読書という至高の体験」
「是非とも読んでほしい」
これに尽きる。
ジャングルや大河といった僻地の冒険にも
巨大魚と格闘するような釣りにも
別段興味があるわけではない私が
読んでどうしてこんなに夢中になれるのか。
それはやはり文筆家・開高健の
その味わい深い文章によるところが大きい。
ブラジルのアマゾン河のスケールの大きさ、
そこに棲む生き物たちの野生の迫力、
その中でタフに生活する人々の活気を
克明に描き切っている。
東京のバーで私はおよそ二十五年間、浮きつ沈みつを飽きもせず繰り返してきたけれど、自分の時間をサカナにして酒を飲んでいる男というものの姿態をついぞ見かけたことがない。東京の時間はいうなれば炭酸水の泡のように無味のままセカセカと泡だっているだけである。しかし、この小屋では、太陽は太陽らしく、味は味らしかった。時間はまったりとして肉が厚くておだやかであった。
60日間の旅は、時に船上生活あり、
ジャングルの探検あり、
車での長距離移動あり…
ときに虫に悩まされたり
衛生的とは到底言えない環境で
ひたすら耐え忍んだりしながら
獲物の魚を求めてあちこちを彷徨い
ひたすら釣り、釣り、そして釣り!
その執念たるや感嘆しかない。
ここまで釣りに情熱をかけた冒険家に
盛大なる拍手を送りたくなる。
人生を愉しむとは、
こういうことかと唸らされる。
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▽初めて読んだ開高健の著書は
『ロマネ・コンティ・一九三五年』
文章の淡麗さに酔いしびれる。
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