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「どうも胸騒ぎがするーーこれは、たいへんな事件になりそうですよ。とても容易には、片づきそうにもない、たいへん面倒な事件になりそうです。ポワロは、一語一語に力をこめるようにいった。

 

 

 

 

アガサ・クリスティーの『ゴルフ場殺人事件』、

昔一度読んだことがあるが文句なしに面白い。

会社の先輩が最近読んでいたので

自分も読みたくなって貸してもらった。

 

 

 

フランスに滞在する大富豪のルノー氏から

命を狙われているから助けてほしいと

ポワロの元へ依頼が届く。

ところが、ヘイスティングズとともに

ポワロが現地へ到着すると、

ルノー氏は何者かによって

ゴルフ場で刺殺された後だった。

 

 

 

 

ポワロは早速事件の究明に着手するが

パリ警察のジロー刑事も捜査を開始する。

なにかとポワロをライバル視し、

いちいち対抗してくるジロー刑事。

 

 

 

ヘイスティングズとはというと

旅先で偶然出会ったミステリアスな女性に

再会して以来というもの

みるみるうちに心を奪われてく…。

 

 

 

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この小説の見せ場はなんといっても

ポワロとジロー刑事の推理勝負。

クリスティーのポワロ作品はたくさんあるが

ポワロにとって好敵手となりうる人物が

登場するのは案外珍しい。

 

 

「つまり、もくろみと犯行とがきわめて類似している二つの犯罪に私たちが遭遇した場合、その背後には、活動している同一の頭脳が隠されているのです。わたしはいま、その頭脳を探索しているのですよ、ジローさん。そして、きっと探り当てるでしょう。私たちには真実の手がかりがあるのですーーすなわち、心理的な手がかりがね。ジローさん、あなたは煙草の吸いがらやマッチ棒の軸にかけては、あらゆることを知っていらっしゃるかもしれない。だが、かく申すエルキュール・ポアロは、人間の心を知っているのです」

 

 

 

ジロー刑事は物的証拠から推理をし、

ポワロは犯人の行動心理から推理する。

対照的な二人の戦略、

どっちの推理が真実に辿り着くか…

結果はうすうすわかっていても面白い。

 

 

 

そして、ヘイスティングズの

おっちょこちょいな脇役っぷり。

同行者として捜査の手伝いをしているようで

ポワロの推理の蚊帳の外に放り出されてるし、

いじけて勝手な単独行動をしたら、

現場を引っ掻き回す原因を作っている。苦笑

 

 

 

でも、ヘイスティングズの頭脳の凡人さ、

女性にめっぽう惚れっぽい俗人ぽさは

いい塩梅に物語に抜け感を出していて

それが割と私は好きだ。

 

 

 

 

「あなた、事件の捜査にあたっては、“他人の言葉”だけに頼っていてはならないのです。重要かもしれないことが、ひとつ残らず語られなければならないという理由はありません。ときによっては、それをわざと語らないで、隠しておくだけの相当の理由もあるのです。人が口にしなかった事実には、その二つの理由のどちらかが該当するのです」

 

 

 

 

今回も数々の事件と同様に、

ポワロは見事な推理を披露する。

二転三転する犯人像を

最後の最後まで追い続ける。

 

 

 

 

ライバルとの推理対決、

ヘイスティングズのロマンス、

過去の事件とルノー氏の殺害事件、

ポワロ作品好きにはたまらない

てんこ盛りな人間模様と直球じゃない推理。

ミステリとして相応しい予想外の結末、

読み応えたっぷりな大満足な作品。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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