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「教えないコーチは名コーチ」

メジャーリーグにはこういう名言があるそうだ。野村克也氏も同感だという。コーチがあれこれと教えすぎると、選手が自ら考えることをしなくなる。人間は自分で失敗して初めて間違いに気づく。選手に問題意識が高まるようにアドバイスし、本人に疑問が生まれるように仕向ける。選手の方からコーチに教えを乞いにやってきたときこそ、コーチの出番だ。選手の聞く姿勢が整っているから、すぐに吸収するし、結果、成長しやすい。

 

 

 

 

 大切なのは自ら取り組もうとする意欲。コーチに言われたことを言われた通りにやっても、選手自身に創意工夫がなければ一流にはなれない。自分で考え、自分で目標を立てさせる。それぞれの選手の目標を明確に聞き出す、そしてこう訊く。

 

 

 

「では、そのためにどうすればいいのか?何をしなければいけないのか?」

 

 

 

 野村克也氏自身がプロ野球の世界に身を投じた理由は、「金を稼ぐため」だった。貧乏生活から抜け出し、苦労して自分を育ててくれた母親と、野球をやらせるために大学進学を諦めた兄を、楽にしてやりたい気持ちからだった。お金を稼ぐには一流にならねばならない。それで徹底的に考え、努力を尽くした。

 

 

 

 

 

 もちろん、ものがあふれ、飢えを経験したことのないいまの選手たちに私のようなハングリー精神を求めても不可能だ。だが、だからこそ、「自分は何のために野球をやっているのか」ということを明確にさせることが必要なのである。でなければ、人間は弱いものだから、そうそう努力などできるものではない。目標を達成するために「足りないものは何か」「何をしなければならないのか」を考え、課題に対して真摯に向き合える者だけが一流になれるのである。

 

 

 

 

 一流の選手は、より多くの疑問を抱き、失敗からたくさんのことを学び取る能力に優れている。そして名コーチは、選手が自然と自分自身で考えるように仕向けてやる。

 

 

 

「どうやって人を再生させるのですか」

 よくそう訊かれる。すると、私はいつもこう答える。

「その選手に対する愛、そして情熱です」

 そう、再生の根底にあるのは、愛情なのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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