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「なんともいえぬお人だ。怖くて、やさしくて、おもいやりがあって、あたたかくて……そして、やはり、怖いお人だよ」

 

 

 

 

 

超大作や、シリーズものなど

物語の長い作品を読むのが苦手な私が

唯一、根気強く読んでいるのが、

池波正太郎の『鬼平犯科帳』である。

 

 

 

…と言っても、1ヶ月に1冊どころか

読めているのは半年に1冊程度のペース。

自分でもどうかと思うけど

めちゃくちゃ読むのが遅い。

 

 

 

会社の先輩が貸してくれたのが

読み出したきっかけだった。

急いで返さなくていいよと

言われたのをいいことに

ゆうに1年以上借りっぱなしだ。

 

 

 

それでも挫折せず、

じわりじわりと読み続けているのは

やはり作品が魅力的だから。

ガハハと笑うような面白さではない。

しみじみといいなぁと思う風情。

 

 

 

一気に読んでしまって

読み終わるのが勿体無い、

そんなふうに感じる作品だ。

ちょびりちょびりと日本酒を

お猪口で呑むように

一巻一巻を味わって読みたい。

 

 

 

『鬼平犯科帳』の八巻を読んだのは

実は今年の5月だった。

ずいぶん時間が経ったけれど

感想を書いておこう。

 

 

 

収録されているのは

以下の六作品。

 

 

 

用心棒

あきれた奴

明神の次郎吉

流星

白と黒

あきらめきれずに

 

 

 

 

八巻の目玉はなんと言っても

「あきれた奴」と

「あきらめきれずに」だろう。

 

 

 

「あきれた奴」は

火付盗賊改方の同心・小柳安五郎が

地味な性格ながらも大活躍する話だ。

あるとき鹿留の又八という盗賊を捕まえたが

誰にも相談せずに牢獄から逃してしまう。

 

 

 

又八には妻と子供がおり

どうしても一目会わせてやりたいと

情けをかけてしまった安五郎。

なんでそんなことを⁉︎と周りは驚くが

安五郎自身、妻と子供と死別しており

又八の必死さに共感せずには

いられなかったのだろうと平蔵は見抜く。

ここでは書かないがこの話の結末がまたいい。

 

 

 

「あきらめきれずに」は

平蔵の親友・岸井左馬之助へ

ついに縁談が…!、という話。

 

 

 

二十年以上前、平蔵や左馬之助は

高杉銀平の元で剣術を習っていた。

その高杉道場の食客だったのが

小野田治平という人物。

 

 

 

その小野田治平にはお静という

一人娘がいるのだが

四年前に浅井高之助という剣客と

夫婦になったものの、

離縁して出戻っていた。

 

 

 

小野田老人は左馬之助ならと見込んで

娘を嫁にもらってくれんか?と持ちかける。

四十過ぎまで独身だった左馬之助、

照れ臭そうにしながらも

平蔵には胸の内を打ち明ける。

 

 

 

「それで、左馬、おぬし、そのお静さんとやらをもらうつもりなのだな」

「む…この年になって、見っともないこととはおもうが……なれど、このごろは何かとその、女の手がほしくなってなあ」

 

 

 

ところが平蔵と左馬之助は

小野田治平の家へ遊びに行く道中、

お静が昔の夫・浅井高之助と

密会している様子を目撃する。

 

 

 

何かワケがあるな…?

お静と浅井の怪しい行動を突き止め

縁談がうまくまとまるようにと

平蔵が左馬之助のために人肌脱ぐ話。

 

 

 

 

 

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「用心棒」の中で、

ひょんなことから平蔵に出会い

窮地を救ってもらう高木軍兵衛が

平蔵の人となりについて語るシーンがある。

 

 

 

 

「なんともいえぬお人だ。怖くて、やさしくて、おもいやりがあって、あたたかくて……そして、やはり、怖いお人だよ」

 

 

 

 

普段は部下にも盗賊たちにも恐れられ、

誰よりも真剣に仕事に向かう平蔵。

けれど、身分を明かさずに人助けをしたり

仲間のピンチには労も厭わず手を貸す。

 

 

 

決して恩着せがましくなくて、

相手の心にすっと入っていく

不思議な魅力を持った男。

人一倍思いやりがあるが、人一倍厳しい。

 

 

 

次巻の九巻をちょうど今日読んだところだが

それまた面白かったので

間を開けすぎないように

近々感想を書こうと思う。

 

 

 

 

 

▽ひとつ前に読んだ七巻

 

 

 

 

 

 

 

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