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夏休みのとある日、
香川県の丸亀市にやって来た。
雨が降るかと思っていたけど
思いの外に空は晴れ、
すっきりと青が続く。
丸亀といえば有名なのは
江戸時代から続く「丸亀うちわ」。
「伊予竹に土佐紙貼りて
あわ(阿波)ぐれば、
讃岐うちわで至極(四国)涼しい」
とも歌い継がれているくらいで、
伝統工芸品でありながらも
日常に親しみやすい夏の必需品。
(駅の天井にも紅白の団扇が
賑やかに吊り下げられていた)
今では全国の約9割を
丸亀市でつくっているらしい。
私も一つ持っている、
コンパクトサイズも可愛い団扇。
丸亀という場所には
2018年にも一度訪れている。
その時は荒木経惟の写真展が見たくて
猪熊弦一郎美術館へ来たのだった。
▽荒木さんの写真はもともと
すごく好きだけど、
生と死を感じさせる
この写真展は特に印象的だった。
さて、今回の旅の目的だが
行ってみたいところが2つ。
一つは丸亀城。
前に美術館に来た時に、
寄ることができなかったので
今後こそはとリベンジ。
もう一つはまたしても
猪熊弦一郎美術館。
『今井俊介 スカートと風景』という
開催中の企画展が気になった。
それにしても
腰の重たい私…
午前中ぐうたらしていて
ようやく動き出したのは
お昼になってから。
でも大丈夫!
岡山駅から丸亀駅までは
特急に乗れば40分程度。
半日だって旅行はできる。
瀬戸大橋を渡って、いざ四国へ〜
この日はと〜っても晴れて、
電車の窓越しに
瀬戸内海もすごくクリアに見れた。
海に浮かぶ島々が美しい。
(電車の音注意)
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さてさて丸亀駅から徒歩15分。
8月の炎天下の中、
日傘片手にとことこ行くと、
前方に「あれだ!」と思われる
城跡が見えてきた。
頑強そうな石垣の上に、
ちょこんと乗った天守。
遠目に見ても、
結構高さがありそうだとわかる。
きちんと調べるまで詳しく知らなかったが
丸亀城は標高66mの亀山に築かれた平山城。
「石の城」と形容されるほど
石垣の名城として全国的に有名なお城。
(大手二の門からの様子)
(幅の広い内堀がぐるりと城を囲む)
案内図をみても
結構な広さがあることが伺える。
さっそく登ってみよう、と
ここまでは問題なかったが
本丸までの道が
階段などではなく、
ひたすら坂道で、
それも結構な急斜面。
こういう斜面を登るのは大好きなので
(金比羅山とか米子城跡とかも)
嬉々として私は登ったけれども
小さい子供づれや年配の方にはなかなかに
足腰にくる地形なんじゃないだろうか…
途中に石垣を眺めながら。
ひとつひとつ形の違う石を
こんなにも整然と積み上げて
こんなにも高い石垣を作るなんて
当時の職人たちの凄さを感じる。
急勾配な坂を登り切ると
平らな二の丸の空き地に出る。
ふっと目の前を見れば
それはそれは形のいい山がそこに。
「飯の山」、別名「讃岐富士」。
地上からにょきっと突き出した
まるでおむすびみたいに
三角形の緑の山。
「稲むしろあり 飯の山あり 昔今」
昔、高山虚子がこの場所から
讃岐富士を見て
詠んだ俳句だという。
つまんで持って帰りたくなる
きれいな形の山だ、
この土地に昔からある
天然のシンボル。
山の最高所まで登ると
本丸の天守がある。
3層3階の木造天守で
その大きさは日本一小さく、
全国に現存する十二天守の一つ。
中に入って登ることもできる。
本当に木造!
これまた急な階段を登って
最上階まで登れる。
眼前に青い空、
遠くには瀬戸大橋、
眼下には街並み、
丸亀全体を一望できる。
丸亀城を造ったのは
讃岐国へ封ぜられた生駒親正と
その息子生駒一正。
せっかく築城したものの、
一国一城令で廃城に。
それでもこうして
これだけ形よく現在まで
残っているなんて貴重なことだ。
一部、石垣が崩れてしまい、
現在修復中ではあるけれど
これからも美しい姿でいてほしい。
(鮮やかなアゲハ蝶がひらひらと)
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1時間くらい丸亀城を散策して、
今後は美術館へ。
丸亀駅の真横にある美術館。
正式名称は
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館、
通称MIMOCA。
猪熊弦一郎(1902−1993)は
香川出身の画家。
三十代の頃にフランスへ渡り
マティスやピカソと出会う。
香川にアトリエを構えていた
イサム・ノグチとも親交があった。
MIMOCAができたのは1991年、
猪熊弦一郎が九十歳で亡くなる2年前。
丸亀市と猪熊さんが協議を重ね
常に新しいものを積極的に紹介する
「現代美術館」であること、
子供たちが美に触れることを
大切にして造られた美術館だ。
建築は谷口吉生氏。
まるでおもちゃ箱を横に
倒したような形状の建物は
至る所にオブジェが置かれている。
(一階から3階まで続く吹き抜けの外階段)
(庭のようなカスケードプラザ)
猪熊弦一郎については
以前『私の履歴書』を読んだ時に
詳しく紹介したので
ここでは細かい説明は割愛する。
決して病気と無縁の生涯ではなかったが
年代とともに画風を変化しながら
絵を描くといういうことを
素直に楽しみながら挑み続けたひと。
私が訪れた日の常設展は
「椅子に座る人」という
題材の絵画が展示されていた。
黄色、緑、赤、
猪熊弦一郎の絵には
力強い色彩が使われている。
2階の奥のスペースでは
写真家の鈴木理策氏の作品が
展示されていた。
風景の一部をたった今
そのまま切り取ってきたかのような
鮮明で空気感のある写真。
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いよいよ今回のお目当てである
『今井俊介 スカートと風景』展へ。
この企画展が、
とっても良かった。
言葉を弄しても意味がないと思うので
ひたすら写真で伝えたい。
見ての通り、
ポップで鮮やかな色使いの柄、柄、柄!
見ているだけで楽しくなるような
軽快な曲線とカラフルな色。
今井俊介の原点となった作品。
あるときふと何気なく目にした
知人の揺れるスカートの模様や
量販店に積み上げられたファストファッションの
色彩に強く心を打たれた経験が
きっかけとなっている。
今井俊介が個展を開催するのは
今回が初めて。
彼は作品を作るときに
パソコンで図柄を作ったあと
それを紙にプリントアウトして
わざと紙が曲がるようにして吊るし
それを実際に目で見ながら
カンヴァスに絵を描いているそうだ。
一見、幾何学模様のようだけど
人工的な印象は与えない。
どの作品も、作家自身の目で見て、
捉えた色や線や模様だから。
制作過程の痕跡も展示してあった。
色調の指示の細かさも
こだわりを感じる。
こういう絵を見ていると
自分も絵を描きたくなる。
普段は使わないけれど
鮮やかな絵の具や白いカンヴァスで
思いっきり絵を描いてみたくなる。
チケットや
ポスタービジュアルも
カラフルで素敵。
缶バッチを買ってしまう。
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3階のカフェMIMOCAも必見。
軽食と飲み物で一休みできる。
雑貨の販売もあって
雰囲気のいいカフェ。
猪熊弦一郎はMIMOCAを作ったときに
「美術館は心の病院」という
言葉を残している。
絵にはそういう力が
どこかにあるように私も思う。
▽今回買ったポストカード。
猪熊さんの作品は、
落書きみたいな絵が
味があってすごくいいんだ。
▽こっちは過去に買った
ポストカード。
(長年小説新潮の表紙絵を手がけていた)
▽『design travel』の香川版は
猪熊さんの絵だったりする。
今回の旅の案内役として。
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