***

 

 

 

 



 

 

人間は何のために生きているかというと、結局、恋して愛して死ぬためですね。私は、人間が死ぬ時に、面白かったなぁと思って死ねば、それは最高の充実した人生だと思うのです。

 

 

 

 

夏休み4冊目、

田辺聖子の対談・講演集、

『男と女は、ぼちぼち』。

 

 

 

次はどの本を読もうかな、

と本棚をぐるりと見渡した時、

軽妙洒脱な文章に飢えていた私は

迷わずこの本を取った。

 

 

 

二部構成になっており

第一部は「ぼちぼち対談」。

 

 

 

対談相手は時実新子、永六輔、

伊集院静、山田太一、

川上弘美、小島ゆかり、

沢木耕太郎…七人の文化人達。

 

 

 

とくに、私の好きな作家の一人である

川上弘美との対談が良かった。

 

 

 

川上 こんな怖いこと書いちゃっていいの、っていっつも思うんです。半面、エッセイではとても優しい。『ひよこのひとりごと』も温かくて……。

田辺 エッセイは、私の人生の“細部ダダ漏れ”などと言って、それでも少し手を加えて、皆様のお口に供した時、「これは美味しい」となるように書いてます。

 

 

 

川上 書いていてわかったんですが、恋愛小説はうまくいかなかった恋愛のことしか書いていないですね。まあ、結婚して幸せに年とりました、じゃなかなか小説にはしがたい。となると恋愛小説って敗戦処理の物語で『夜の公園』でいえば、大人になっていない人たちが敗戦処理をどうやっていくか。

田辺 実らない恋に人生の深い味があるのはどうしようもないし、敗戦の仕方に、われわれ物書きとしては、汲むべき趣がありますから。

 

 

 

 

 

川上弘美の書く小説は

どちらかといえば

ひょうひょうとして掴み所のない

不思議な魅力の作品が多い。

 

 

 

ところが『夜の公園』は

意外な程真っ向からの恋愛小説で

読んで驚いたことがある。

こんな小説も書くんだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その川上弘美と田辺聖子が

恋愛小説は「敗戦処理の物語」と

表現しているところが面白い。

たしかに、言われてみればそうかも。

 

 

 

順風満帆な恋のハッピーエンドよりも

泣いたり笑ったりの恋の行方の方が

田辺聖子のいうところの

「汲むべき趣」は間違いなくある。

 

 

 

第二部は講座

「日本人の恋愛美学」。

 

 

 

その1【日本の恋愛史】では

日本の文学作品の作者や

登場人物の恋愛模様を通じて

時代ごとの恋愛観の変遷や

男と女の関係について語る。

 

 

 

その2【「やさしみ」と「ユーモア」】は

田辺聖子が小説を書くときに

大切にしている価値観が

よく伝わってくる文章。

 

 

ここでいう「やさしみ」とは

親切や思いやりとは

微妙にニュアンスが異なり

恋をすることができる気持ちだと言う。

 

 

 

そして「ユーモア」とは

ゆとりのことで

カメラのアングルをかえると

見えてくる景色だったりする。

 

 

 

 

 

(前略)私の書きたい小説というのは、そういうふうにやさしくて、ちょっぴり面白くて、それから本当に好きな人だけ読んでくださって、私はそれにリボンをかけて、きれいな紙に包んで、たとえばチョコレートなんかと同じようにプレゼントできるようなものです。「これは私が食べておいしかったから持ってきました」と病人のお見舞いなんかに上げるお菓子がよくありますが、そういうお菓子とか、非常に美しい果物みたいな、そんなふうな読まれ方、愛され方をしたいですね。

 

 

 

 

 私は、教養というのは、この人生からいいものを拾い上げていくことのできる力だと思いますね。それからさらにそれを自分のうちでもっと耕して、今度はそれをばら撒くことのできる能力ですね。拾うだけが専門の人もあるし、ばら撒き専門の人もありますが、こういうことをできる人を一人でも多くふやすというのが、小説の功罪の功の方でございますね。私はそういうことのできる小説を書けるようになれば、小説書きとしては望外の喜びというふうに考えます。

 

 

 

 

 

田辺聖子の描く恋愛小説が

大人っぽくて粋に感じられるのは

窮屈な恋愛観に振り回されず

どこか鷹揚とした見方を

小説世界に持っているから。

 

 

 

どんな真剣な恋愛の場面でも

「まあええやないか」と

ふっと肩の力を抜けるような

自然体な男女の物語だからだ。

 

 

 

やさしみとユーモアと、

そういうものを

私も自分の人生で

大事にしたい。

 

 

 

 

 

▽田辺聖子の本はいくつか読んでいるけど

どれもすごくいい。

 

 

 

女性という生き物は意外とタフだということ、

男性という生き物は案外可愛いということに

物語を通じてしみじみと気付かされる。

生涯、恋愛していたいと思える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

***