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「なぜならばですね、この事件にはそのーーなんと申しますかーー一種の大まかなものがあるからなんですーー高くつくことをいとわぬというかーー人間の生命の尊さをまるでものともしないという。そう、一種の無茶さ、大まかさがあるーーそれが大きな犯罪を暗示しているのですよ」


 

 

 

 

 

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憂鬱な歯医者での治療を終えてひと息ついたポアロの許に、当の歯医者が自殺したとの電話が入った。しかし、なんの悩みもなさそうな彼に、自殺の徴候などまったくなかった。これは巧妙に仕掛けられた殺人なのか?マザー・グースの調べに乗って起こる連続殺人事件の果てに、灰色の脳細胞ポアロが追い詰めたものとは?(裏表紙あらすじより)

 

 

 

 

 

『愛国殺人』は1940年刊行、

クリスティーの長編としては第28作目、

ポアロの登場するシリーズとしては、

第19作目の作品にあたる。

 

 

 

原題は『One,Two,Buckle My Shoe』、

クリスティー作品ではよく使われる

マザー・グースの童謡にちなんで

題名も名付けられている。

 

 

 

いままでクリスティー作品を

読んできた私なりの感想だが、

クリスティーの小説では

家族や恋人や友人など

非常に限られた人間関係のなかで

起こる殺人事件が多い。

 

 

 

そして「殺人のトリック」のよりも

「犯行動機」が謎を解く鍵になる。

いったいその殺人を犯して

一番得をするのは誰なのか?

 

 

 

ところが『愛国殺人』で死ぬのは

殺される理由の見当たらない街の歯医者。

なにか思いがけない重要な機密情報を

彼が見聞きしてしまったのであろうか?

それとも衝動的なただの自殺なのか?

 

 

 

事件当時に病院を訪れてたのは

内務省の退職官吏、歯科秘書の恋人、

旅行中の元女優、銀行の頭取、

ギリシャ人のコミュニスト、

顔つきの悪い青年患者、

そしてポワロ。

 

 

 

歯医者に対して個人的な恨みや

金銭的な利害関係のありそうな人間は

この中に一人もいない。

もしかしてこの殺人事件は

なにか別の意味をもつ謀なのか?

 

 

 

 

 

 ジャップが行ってしまってから、ポアロは自分の前にあるテーブルを、しかめ面で見おろしていた。

 彼は何かを待っている自分をはっきり意識した。それは何だろう?

 彼は、前にも、こんなふうに座って、いくつかの脈略のない事実と名前を点々と書きとめていたのを思い出した。小鳥が口ばしに小枝をくわえて、窓を横切った。

 彼もまた、小枝を数えているのだ。ごお、ろく、薪木をひろって……

 彼は小枝を握っているーーもうかなりたくさん。みんなここにある。秩序立った彼の記憶の中にきちんと刻みこまれてーーしかし、彼はいまだ、それを順序よく並べようとはしてみない。それは次の段取りであるーーまずきちんと並べろ。

 何が彼を止めているのか?答えはわかっている。彼は何かを待っているからだ。

 何か避けがたいもの、順番になった次のもの、鎖の次の環、それが来たらーーそのときこそーー進むことができるのだ。

 

 

 

歯医者の死から時間をおかず、

つぎつぎに不可解な出来事が起こる。

とある男の急病、ある婦人の失踪、

これらはまったく関係のない

偶然的な出来事なのか、

歯医者の死と関係があるのか?

 

 

 

登場人物をひとりひとり、

ポアロのように並べてみるが

繋がりがわからない、

これは一筋縄ではいかない事件だ。

 

 

ヘイスティングスは出てこないが

お馴染みのジャップ主任警部が登場。

片っ端から事情聴取をしてまわり

ポワロは真実に近づいていく。

 

 

 

いつものポワロものとは違い

スパイや陰謀の匂いのチラつく作品。

秋の夜長のお供には、

ミステリーがやはり似つかわしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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