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「わたしにはわかりませんね。どうしてあなたがこのきれいな国を離れて、そのカンザスっていう乾いた灰色の場所に帰りたいのか」
「それはあなたに脳味噌がないからよ」ドロシーは答えた。「どんなにわびしくて灰色でも、あたしたち血と肉でできた人間は、自分の家に住みたいと思うものなのよ。よその国がどれほどきれいでもね。わが家にまさるところなし、よ」
あらすじはよく知っているが
原作を読んだことがなかった。
作者の名前も初めて知った。
ニューヨーク出身だということも。
訳者が柴田元幸なので、
読んでみたいと思った。
表紙イラストもも可愛い。
かくしてオズの世界へ。
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カンザスの大平原で
大竜巻に家ごと飛ばされた
ドロシーとトト。
はからずも悪い東の魔女を
落ちた家で退治してしまい
魔法の銀の靴が手に入る。
北の魔女とマンチキン達は大喜び。
“けれどもいったいどうしたら
ヘンリーおじさんとエムおばさんが
待っている故郷へ帰れるんだろう?”
なんでも願いをかなえてくれるという
オズに会いに行くために
エメラルドの街へさあ出発。
故郷へ帰りたいドロシーとトトは、
冒険の途中で仲間を見つける。
賢くなりたいかかし、
優しい心をもちたいブリキの木こり、
強い勇気が欲しいライオン。
みんな自分の望みを叶えるために
オズに会いたいと付いてくる。
はたしてドロシーたちの望みは
叶えられるのだろうか、
オズの魔法使いとは?
そして西の悪い魔女は?
と、わくわくする冒険ファンタジー。
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『オズの魔法使い』の魅力は、
たとえばこんなところにある。
あたりには道が何本かあったけれど、黄色いレンガを敷いた道を見つけるのはわけなかった。ドロシーはじきに、エメラルドの街をめざしててくてく歩いていた。銀の靴が固い黄色の路面にあたって楽しげに鳴った。陽があかるく照って、鳥たちがさわやかにうたった。小さな女の子が、自分の国からいきなり連れさられて知らない土地のただなかに下されたのだから、悲しい気持ちになって当然なのに、ぜんぜん嫌な気分ではなかった。
ドロシーという女の子の
溌剌とした姿、前向きな行動力。
それが、物語の序盤から
すでに発揮されているのだ。
これはとて面白いことだと思う。
旅をして徐々に成長していくのではなく
ドロシーときたら最初から
明確な目標(=家に帰る)があって
それにむかって邁進していく。
むしろ冒険を通じて成長するのは
かかしやきこりやライオンたちのほうだ。
彼らは自分が欲しいと望む能力を
ドロシーの旅のピンチを救ううちに
無意識のうちに身に着けていく。
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文庫の解説に書いてあるが
女の子が知らない世界へと
迷い込んでしまうという設定は似ているのに、
ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』とは
まったく物語の性格が違うというのが
面白い発見だった。
礼儀やマナーを重んじ、
子供ながらにレディなアリスと
初めから誰とでも対等に接し
突き進んでいくドロシー。
知らない世界の冒険だけれども
出てくる景色はどこも美しく
テンポよく、明朗に、冒険は進む。
大人が読んでもやっぱり面白い
児童文学の一つだと思う。
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