無印良品は、1980年に株式会社西友のプライベートブランドとして、食品を中心に40アイテムからスタートした。高度経済成長の終わり、70年代の二度のオイルショックにより、世間は節約志向へ。小売業でありながら、商品を徹底的に見直す試みが、無印良品だった。当時、日本を代表するクリエイターたちが積極的に参加し、商品の発想から、売り場デザイン、広告までが、すべて一貫した思想のもとでつくられていった。

 
 
 
 本書は著者が良品計画となっているが、代表取締役会長、金井政明氏によっておもに構成されている。金井氏は、西友ストアー長野(現:西友)から93年に良品計画へ転籍し、長年にわたって生活雑貨部長として会社を率いてきた人物。08年には代表取締役社長へ就任、15年からは会長を務めている。

 

 

 

 今では世界28か国へ出店し、店舗数は870店を超え、売上は3788億。そんな大企業へ成長した無印良品が掲げている「大戦略」は、意外にもシンプルな「人の役に立つ」ということだった。商品を手に取る人のくらしに役に立つこと。商品の人気が出たり、売り上げが伸びることは、あくまでも「役に立ったことの結果」なのだと金井氏は伝える。

 

 

 

私たちの会社の名前は良品計画で、無印良品という思想を商品やサービスの形にして商いをしています。無印良品という言葉は、“感じ良い社会”を目指して歩いていく私たちのプロセスを含めた行動のすべてを表しています。その無印良品は、私たちが「無印良品をつくろう」と狙って生み出せるものではなく、生活を感じ良くするために選んだ行いの結果です。泉から水が湧き出るように、花が暖かさにほころぶように「生まれてくる」ものです。

 
 
 
 人間は欲張りで人の目を気にする生き物だ。周りと自分を比較しながら、あれも足りない、これも足りないと思い、いつまでたっても満たされない。本当はなくても足りているのに、もっと流行の先端を、話題のものをと追い求めてやまない。しかし、日本には元来、「見立て」という発想がある。そのものずばりではなく、「らしいもの」で置き換える考え方。デザイナーの田中一光氏は、省き簡略化することで魅力を創出するという発想で、生活美学を考えた。無印良品の白磁のめし茶碗は、陶磁器デザイナー森正洋氏の手によるもの。見立てをするときには、「素のまんま」が一番いい。過度なデザインは、人がなにかを見出す余白を奪う。消費し続けなくても、本当は十分足りるはずなのに。
 
 
 
本書で引用されている、映画監督・伊丹十三氏の言葉が印象的だった。アドバイザリーボードの小池一子氏との対談で、監督は次のようなことを述べている。
 
 
伊丹  消費っているのはピーナッツ食べるのと同じで、おなかが空いているから食べるんじゃない。食べる瞬間の快感のために食べているんですから、止めることができない。食べたとたんに快感は終わっているんだから、快感を持続させるためには食べ続けるしかないわけで、消費もピーナッツと同じでしょう ※出典『感性時代 西友のクリエイティブワーク』
 
 
 
 なんとも鋭くて耳の痛くなるような指摘だ。私たち現代人が、豊かさをはき違えてしまっているのは、こういうことではないか。必要だから欲しがるのではなく、消費も快感になってしまっているのだ。無印良品はそんな消費社会へのアンチテーゼなのだ。30年ほど前に出された『無印の本』では4つの章があり、「自然と。」「無名で。」「シンプルに。」「地球大。」という、キーワードがタイトルになっている。また、ウユニ塩湖のビックビジュアルを載せた過去の企業広告では、“「これがいい」ではなく「これでいい」”という、無印良品の思想や立ち位置を、決して押しつけがましくないが、しかし確固として伝えようとしている。
 
 
 
世界中の人間たちが「が」「が」と言い合っている。「自分たちの国が」「自分たちの宗教が」「自分たちの民族が」「自分たちの領土が」。皆が自分たちの主張ばかりをいうだけでは世界は立ち行かない。
 「が」ではなく、「で」。これからの世界に必要なのは「これでいい」といった理性的な満足感や譲歩の心であると、無印良品の目指す生活やものづくりと重ね合わせて表現しました。
 
 
 
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 この本、面白かった。私は過度な無印愛好家ではないが、無印良品の商品は暮らしの中でところどころ使っている。「こすって消せるボールペン」や「ダブルリングノート」は毎日仕事中に使っているし、時々普段着や小物、カレーやお菓子を買ったりもする。無印良品を見ていると、良きデザインとは、「暮らしになじむ」、と「飽きさせない」なのだなとしみじみ思う。無印良品を持っていれば、ちょっとお洒落でセンスが良く見えると勘違いし、どんどん買い込んでは消費しまくっている人がいたら、違うと言ってやりたい。無印良品が目指している本当の意味での“感じ良い”暮らしや社会からは遠のいてしまう。
 
 
 
 無印良品のものづくりや、会社の在り方を伝える本だが、現代の消費社会に警鐘を鳴らす内容だ。企業として本当に大切にしたいことは何か、無印良品として社会に何ができるか、ということをきちんと考え続けてるのが、この本を読めば伝わる。
 普段、営業職をやっていると、どうしても会社の中では売上だ、利益だ、とばかり言われ続けるため、なんだかな~と最近疲弊していた。「人の役に立つ」というシンプルな大戦略が、今の私の心には刺さった。働く業界は違うけど、携わっているのはものづくり。こういうことを大事にしたい。
 
 
 
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