画家、熊谷守一、94歳。
その妻、秀子、74歳。



画家の庭に息づく小さな動植物たちと、
老夫婦に魅せられ、集まってくるお客さん。



ゆるやかに時間が流れるある夏の日を、
優しく見つめるように描いた物語。







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熊谷守一は岐阜県生まれの実在の画家。
実業家で政治家の父を持ち、
もともと家は裕福だった。
父親は後を継がせたかったようだが、
本人は画家を志し上京。
東京美術学校(現・東京藝術大学)へ
入学し、首席で卒業する。



その後父親が急死し、生活が困窮。
絵だけでは食べていけず、
他の仕事もするが、
当時唯一の絵の在野団体だった
仁科会には長らく所属した。



東京の自宅から一歩も出ずに30年間、
ひたすら庭の植物や、
鳥や、虫や、猫を見つめ、
絵を描き続けた仙人のような画家。



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予告編を見たときから、
山崎努と樹木希林の共演と聞いて
絶対観に行きたいと思っていた。
公開初日の5/19にイオンシネマへ。



どちらも日本を代表する名優だが、
山崎努は80歳、樹木希林は74歳、
初の共演となるらしい。



つい先日、私は黒澤明監督の
『赤ひげ』をDVDで観たのだが、
あの老人佐八を演じ、
モノクロ映画の中にいた山崎努が、
94歳の画家として歩き回り
今は鮮やかなスクリーンの中にいる。
なんだかうまく言えないが、
山崎努の俳優としての凄さを
時代を超えて感じた気持ちになった。



もちろん、樹木希林はじめ、
池谷のぶえ、加瀬亮など、
出演する俳優陣皆この映画にぴったり。



虫や小鳥や石ころさえにも興味を持ち、
小さな庭を目一杯歩き回り、
じっと観察し、飽きることのない守一。
その彼を邪魔しないように、
丁寧にそっと追い続けるカメラ。



絶えずちょこちょこと動き回る蟻や、
池のなかにぬらりと姿を見せる魚たち、
風に揺れ、日差しを浴びる花や草木。




ああ、目の前で繰り広げられる自然は
こんなにも美しかったのだと気づかされる。




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家にやってきた男性に、
息子の絵をみてくださいと渡され
子供の絵をみたときの守一。



「下手ですね…

下手でいい…
上手だと先が見える…

下手も絵のうちです」



守一にとって絵を描くことは、
興味があることだから、
好きなことだから、
だから続けた。
それだけなのだった。







決して派手な映画ではない。
でも守一のことがなんとなく好きで
彼の周りに自然と集まってくる人々の
他愛もないやりとりが本当に優しい。



生きていることを
のびのびと愛したくなる、
そんな気持ちになる映画だ。







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