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ぼくのおじさんはお父さんの弟。大学で臨時講師として働いているけれど、月給が安いからアパートが借りられない。30歳は過ぎているのに、独身のまま、ぼくの家に居座っている。
スポーツは戦力外、マンガは大好き、ぼくと妹のケイ子がオミヤゲをねだると、よりにもよって本物そっくりのムカデのオモチャを買ってくるおじさん。
宿題は教えてくれないし、お小遣いもくれない。それどころか、自分がお小遣いをもらいたくてピイピイしている。いいところがまったくないおじさん。
お見合いに誘われても相手の写真を見て文句ばかりブツブツ。そのくせお見合いの席ではろくに喋れずモゴモゴ。あるとき突然世界を漫遊する!といいだしては、片っ端から懸賞に応募しはじめるおじさん。
“ああ、なんというおじさんなのだろう。(中略)こんなおじさんは、できることだったらベーゴマひとつと取りかえたいくらいだ。”
こんな人が大学で先生だなんて信じられない。けれどももっと信じられないことに、そんなヘンテコなおじさんのことをぼくが作文に書いて応募したら、見事ハワイ旅行が当たってしまった。(おじさんはあれだけ懸賞に応募して、かすりもしなかったというのに!)
そしてぼくとおじさんは、ついにハワイへ行くことになる、という短篇小説。
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あんまりにおじさんが見栄を張って屁理屈を言ったり、的はずれなことばかりしでかすから、読んでいて何度も笑ってしまった。
おじさんたら、やることなすこと大人気なくてマイペース。小学六年生の甥っ子雪男(ぼく)のほうが、冷静でしっかりしているくらい。でもそんなダメなおじさんを鋭く観察し、呆れたりツッコミながらも、なんだかんだで二人は仲良くつるんでいる。
和田誠氏のとぼけた表情の挿絵が、本当にこの小説の雰囲気にぴったりだ。
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作者の北杜夫は、本名を斎藤宗吉という。父親は歌人の斎藤茂吉。大学で詩を創作し始めた時、茂吉の息子だとわからぬよう、ペン・ネームを作ったという。
『ぼくとおじさん』は、北杜夫自身が、東北大学医学部を卒業し、インターンをした後、上京して慶応大学病院神経科の助手をしていたころのことがきっかけになっている。
医師の助手といっても全くの無給。兄の家に居候をし、母親からお小遣いをもらったりしていた。兄には小さな子供達が4人いたけれども、なんせお金がないからお小遣いやオミヤゲがあげれない。この小説のように、本当に子供達とお金を半分ずつ出し合い、マンガを買って読んでいたのだとか。
この小説はもちろんフィクションだが、そんな“ダメなおじさん”だったころの作者の思い出がもとになっている。
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文庫本には他にも短篇が八編収録。どれも子供向けの平易な文章で、みつばちのでてくる絵本のようなお話や、おばけの冒険の物語、自分の娘へ語りかけるような作品など、愛情のこもった優しい小説ばかり。
夜寝る前に、ベッドに寝転んで読みたい一冊。微笑ましい気持ちになる短篇達だった。

