“私は幼い頃、悩み苦しみが多すぎることを自覚していた。なんでこんなにしんどい日々を送っているんだろう、こんな人生イヤだなァと思っていた。
  だが振り返ってみると、あの頃形成されたエネルギーが、今も大きな糧になっていると感じられる。これは決して悪いことじゃない。かけがえのないことだ。”



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仕事で頭が疲れているとき、気分が滅入って落ち込んでいるとき、本は読みたいけれど、小難しい文章は敬遠してしまうとき…。



そういうときに無性に読みたくなるのはさくらももこのエッセイだ。



4月の終わり、大阪出張やら会社の先輩の送別会やらで少し心か浮き沈みしていた。



休みに突入すると真っ先に図書館でさくらももこのエッセイを借りた。まだ読んだことのなかった『おんぶにだっこ』。



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ちびまる子ちゃんでもわかる通り、通常作者の書くエッセイや漫画は小学生途中からのエピソードが多い。



だがこの本は、2歳半頃から小学生低学年頃までの思い出がベースになったエッセイだ。



今までなぜ書かなかったかという理由について、「幼年期はあまりにも悩みや不安ばかりが多かったので、書いても面白くないだろうと思っていたからだ」と作者はあとがきで語っている。



一番古い記憶は二歳半ぐらいらしく、そのエピソードというのも、お母さんのおっぱいをいつまでもねだって、哺乳ビンを与えられてもなかなか受け取らなかったという思い出。(おっぱいをやめた日)






ほかにもはじめて自分の心の声を自覚したときの衝撃や、折り鶴や小鳥の飼育、顕微鏡など、気にいるととことん探求したがる性格なこと、友達との嫌な喧嘩や隠してしまった出来事など、それらがイラストとともに事細かに綴られている。



作者の言う通り、あー面白かった!という単純明快なエピソードばかりではない。子供の頃の漠然とした不安感や、そのことを誰にもうまく言えないときの心細さ、大人になっても忘れられないほどの記憶が、エッセイになっている。



かといってそこはさくらももこ、重々しい文章で読者を引きずったりはせず、どこかユーモアを含んでいる。小気味の良い語り口で、とても風通しがよい。



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この本を読んでいるだけで、私も自分の幼いときの記憶がぐるぐると脳内を巡った。エッセイ中に、クーちゃんと名付けたくまのぬいぐるみの話が出てきて、私もおんなじことしてるなぁ、と思った。ぬいぐるみの思い出から、昨日の『こんとあき』の絵本にまで想いが旅をした。



幼い頃の記憶は、うろ覚えなものから強烈で鮮明なものまで様々だ。変えることもできないし、長く心に影響し続けることもある。普段は忘れてしまっているけれど、時々思い出すのはいいことかもしれない。



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