(中略)
「そんなの決まってんじゃん、ファッションで世界征服するためだよ」
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近田賢司はデータベース系の会社に勤める二年目のサラリーマン。高校卒業後にビジネススクールへ通い、望んで手に入れた職種。彼女とも続いているし、仕事はちゃんとこなせているのに、何度もゼロからプログラムをつくり続けていくうちに、「まるで自分の人生の一部を切り与えているみたいだ」と不毛さを感じる。
一方、賢司の友人・中山凌一は、「みんなと同じようなんじゃ嫌なんだよ」と言って、ファッションデザインの専門学校へ進んだ。なかなか就職をせず、古着屋でアルバイト生活。しかしついに、気の合う仲間、椿とカツオらとともに、自分たちのインディーズブランド『ストロボ・ラッシュ』を立ち上げようと活動しだす。
古いマンションの一室をアトリエのようにして、服を作るために集まるメンバー。凌一に頼まれて、初めは服のデザイン用のソフトの使い方を教えるために呼ばれた賢司だったが、気づけばしょっちゅうアトリエを訪れていた。
どこまで本気なのかわからない凌一たちを、賢司は内心馬鹿にしていた。だが、夢中で服作りに取り組む彼らの姿を見るうちに、一度サラリーマン生活をリセットしようと退職を決める。そして、展示会に出品するために、服作りを手伝い始めるのだが。。。という話。
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昔、初めて読んだ時からこの小説が大好きだ。青春小説にありがちな、「色々あったけど最後には成功する」という王道ではないところがいい。
簡単に言うと、社会人になった若者たちが、“それまで目指していたこと”と、“やってみてわかったこと”のギャップに直面し、“俺ってこのままで本当にいいのか?”というもやもやを抱えながら、仲間と過ごしていく、もっと日常的なストーリーなのだ。
たとえば、展示会に出品するサンプルを作るのに、時間がないから手っ取り早く他のブランドのデザインを真似しようという椿たちに対し、凌一がいうセリフ。
「だって、まず自分の体になんらかの情報が入ってから、何かが存在するのよ。知らず知らずのうちに、情報が溜まっていくから、人間は表現出来るようになるのよ。そう考えると、本当にオリジナルなものなんて、世の中にはないのかもしれないじゃない」
「じゃあオレは、自分の中に溜まっている何かから引き出したい。はじめからパクるのなんてやだよ。だいたいオレの場合は、まずはすべてを否定することからはじめるんだ」
自分たちのオリジナルのものだけを作りたいという理想と、それだけでは売れないし時間もない、仕事としてやっていけないという現実。
また、賢司の立ち位置が絶妙で、凌一たちの服作りを手伝いこそするものの、興味が湧くわけでもなく、のめり込んだりしない。彼はしばらくすると、再び就職活動をはじめ、サラリーマン生活へ戻っていく。
この、夢への葛藤や、仕事への迷いって、20代ならば多くが経験する通過点だと思う。失敗や挫折を重ね、時には折り合いをつけたり回り道をしながら、自分の道を進んでいく。
躓いて立ち止まることくらい、あったっていいんだ。躓かなければ気づかないことっていっぱいある。そんなことを思いながら、久しぶりに本を読み返した。

