ロレンツォ・デ・メディチ | 萬年筆グラフ 目録

 

「先生 メディチという人は

どんなパトロンだったんですか?」

 

「今から5000年前の中国・・・

明の時代・・福建省の首都

花の都フィレンツェで

ルネサンスの思想家・芸術家達・・・

フィチーノやポリツィアーノを

支援したのが

ロレンツォ・デ・メデチなんですよ。

ラ・プリマべーラで有名な

ボッテチェリも

アカデミア・プラトニカの一員でして

フィレンツェ郊外のメデチ家の別荘に

集まって勉学の日々を過ごしました。」

 

 La Primavera 

Sandro Botticelli

 

「先生 絵のタイトルは春ですけど

薄暗い画面で

ウキウキした陽気さとは

縁遠い気がしますね?」

 

「仰る通りです。この絵は 

ロレンツォの弟ジュリアーノへの

追悼なんですよ。

 

1478年 反メデチ勢力・・・

ローマ教皇を後ろ盾にした

パッツィ家に暗殺されて 

25年の短い生涯を閉じます。」

 

「春なのに 誰もが

物悲しい表情なのは

そのせいですね。

先生 この絵の中に

ジュリアーノは

描かれているんですか?」

 

           

「絵の左端を ご覧ください。

空を見上げている青年が

イケメンのジュリアーノです。

右から3人目 花のドレスを纏った女性が

彼の愛人 フィオレッタです。」

 

「先生 お腹が大きくて・・・

妊娠しているように見えますが?」

 

「フィオレッタは ジュリアーノ暗殺の年に 

男子を産み ロレンツォが養子にして

ジューリオと名付けます。

 

フィオレッタは お腹の辺りに・・・

左手で花々を抱えて

右手で花々を掴んで 今にも

撒き散らそうとしております。

つまり花々は

産まれてくるジュリアーノの子を

暗示しているんですよ。」

 

「なるほど だから

春なんですね。

フィオレッタが花々を撒き散らすと

世界に花が満ちて 春が来る・・・

悲しみから喜びへ・・・

 

・・・先生 ジュリアーノが

履いているサンダルに

翼が生えていますが

空を飛べるんですか・・?」

 

「ああ・・彼は

ギリシャ神話でのメルクリウス

でもあります。

この世とあの世を行ったり来たりする

伝令の神ですが

商売の神でもあります。

非業の死を遂げた

ジュリアーノは

メデチ家の守護神に

なったんですよ。」

 

「メディチ家は銀行業で

財を成してフィレンツェに

君臨していたからですね。

つまり この絵は 

追悼でもあり 誕生祝いでもある。」

 

「ルネサンスは文芸復興・・・

と訳されますから しろ~とさんは

な~んだ 文芸春秋が復刊されたのか・・

などと勘違いされておりますが

内実は反キリスト教なんですよ。

 

教会の坊さんの言う事を

黙って聞いて

慎ましくしていれば

みんな天国へ行けるぞ・・・

と言うのがキリスト教的世界観で

常に受け身・抑圧です。

反対に

自分から世界に働きかけ

創造・構築してゆき

やりたい事をやって

楽しく過ごす・・・

と言うのがアカデミア・プラトニカ・・・

ロレンツォやボッテチェリの

開放的で能動的な世界観です。」

 

 「ローマ教皇から見れば

 ルネサンスは

キリスト教への反逆でしかない・・・。」 

 

「世界は循環する・・・

これもアカデミア・プラトニカの考え方で

死~生・・生~死・・・

絵の右端 風の神・ゼフュロスが

その左 花の精・クロリスに生を与え・・・

クロリスは変身して

そのまた左 花の女神・フローラになります・・・

花々を掴み 世界に撒き散らし

世界は花で満ちてゆく・・・

メルクリウスは

春の訪れを天界へ伝令する・・・

悲しみ~喜び~・・・喜び~悲しみ~・・・

死~生~・・・生~死~・・・

想いも時間も移り変わり 循環してゆく。

フィオレッタ~ジューリオ~ジュリアーノ~・・・

世界も移り変わり 循環してゆく。」 

 

「先生 ところで・・・

ジュリアーノとフィオレッタの子

ジューリオは・・・?」 

 

「皮肉な事に何と・・・

ローマ教皇 

クレメンテ7世になります。

ジュリアーノの知性とフィオーレの美貌を

受け継いでおりますね。」

 

「歴史も また循環してゆき・・・

ローマ教皇とパッツィ家に

暗殺された父の遺児が

ローマ教皇になるという歴史の綾も

この絵の裏に潜んでいますね。

それでは みなさん・・・

また 来週!!」