臨時作家 -98ページ目

「BLの企画」という仕事ですか。

わたしは、以前、シナリオの勉強をしていたことがある。もともと小説家に憧れていたのだが、製作会社でプロデューサーをしていた伯父が、わたしにシナリオをすすめてきた。伯父のすすめに従い、シナリオ学校の短期講座で基礎を学んだ後、NETでK氏という脚本家と知り合った。過去に渡米し、アメリカでの興業実績もあるK氏は、いまでも良き友人で、一緒に自主映画を撮ったこともある。そのK氏が、去年、シナリオの企画を持ち込んできた。

「知り合いのプロデューサーにたのまれたんだけど、君、ボーイズの企画、書いてみない?」
「ボーイズ? 男の子たちのストーリーですか?」
「う……ん、ちょっとちがうんだけどね。男の子どうしの恋愛なんだって」
「男の子どうし……」

このとき、私の頭の中に飛来したのは「同性愛」「ホモ」「オカマ」という三文字だった。

「映画の企画なんですか?」
「そう」
「実写で?」
「そう」
「ターゲットは」
「三十代の独身女性がメインみたいだよ」
「だれが撮るんです?」
「これまで任侠映画撮ってた監督だって」

任侠=ホモ……つながらない。

「マーケットとしては大きいと感じたんだろうな、そのボーイズってジャンル」
「あの、具体的にどんな感じなんでしょうね」
「じゃあさ、サンプルのマンガ、NETにあるからDLしてくれるかな」

マンガ……? なんで、マンガ。

「わかりました」

私は、いわれたとおり、指定のアドレスからDLして、さっそくファイルを開いてみた。このときの衝撃はすごかった。おもわず椅子からズレ落ちそうになった。オトコとオトコ……コレは無理でしょ……しかし、スゴイ……誰が読むんだ。その頃、小学六年生だった娘に、それとなく「ボーイズ」って知っているかと訊いてみた。すると、驚くべき返事がかえってきた。

「BLでしょ? ハマってる子、多いよ」
「ビーエル? 小学生が、なんでそんな作品知ってるの?」
「だって、本屋にあるじゃんBLコーナー。ボブゲーなんか、すごい人気でさ、腐女子も腐男子もいるよ」
「婦女子……?」
「うん、貴腐人とか、お蝶腐人とか、ランクがあるんだよ」

なんで、そんなに詳しい……。その後、本屋にいくと、たしかにあった。どうしてこれまで気づかなかったんだろう……。そういえば、本屋というと、どうしても待ちきれないシリーズの新刊くらいしか買わない。すこし古くなるとブックオフで事足りるからだ。新刊コーナーとデザイン関係以外のコーナーには、もともと興味がなかったのだ。その後、K氏に丁重にお断りしたが、なんともすごい世の中である。

なぜ、去年の話を? 実は、昨日、担当者のT氏から電話があった。T氏はなんの前置きもなく「わたし、やっちゃいました」といった。やっちゃった……。それって、いろいろな解釈ができる言葉です。

「やっちゃった?」
「社長とやっちゃって……クビになりました。すみません」
「ああ、そのやっちゃった……って、ええっ? クビ?」

Tさん、あなたは、デビュー当時から、わたしの担当じゃあ~りませんか!

「一人?」
「いえ、四人で」
「四人?」

ヤバイ……かなりヤバイ……。この不景気に営業したところで、これまでと同等のギャラは望めない。そもそも、わたしは営業をしたことがない。このとき思い出したのがK氏との会話だった。いまさら、どうかなるものでもないが、今、その話がきていたら、わたしは断っていただろうか……。

ちくしょう、百年に一度の不景気なんて、大ッキライだぁぁぁ~~~グー