髪長私学2 第7話 | 人生は後半からがおもしろい‼

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人生の後半を自分らしく生きる。そして心身ともに健康で、満足いく人生を生きる。そんな自分の軌跡を綴るブログ。Since 9,January 2009

~第7話~ 二つの条件

 

坂本が結の自宅を訪ねる。そして結が笑顔で迎える。そんな二人のルーティーンが3か月目を迎えた。

 

今日もチャイムを押す。結の元気な声がする。そして坂本と結の一日が始まる。坂本がいつものようにドアを開けて入り、リビングにいる結を見た。

 

 

坂本 「あれっ、どうしたの?」

結 「先生、おはようございます! 今日から衣替えでしょ」

笑顔で答える結は私服だった。春からずーっと制服姿だったので、坂本には結の私服が新鮮に感じられた。

坂本 「そうだった。今日から6月だったね。早いものだ」

結 「何かアッという間だったなぁ。先生と一緒に勉強ができて、毎日がすごく楽しいです」

坂本 「そう言ってもらえると嬉しいね。さあ、今日も頑張ろうか!」

結 「はい!」

元気に返事をして、勉強部屋に向かうために階段を上る結。これもいつもの光景だが、後ろ姿は坂本にとって圧巻の構図であった。

 

 

階段を上る結に呼応するように移動する長い黒髪。階段の段差を撫でるように結とともに上がっていく。

 

身長よりも長い黒髪で階段を掃除しているようにも見える。本当に長い! あまりにも長すぎる! それは勿論良い意味での驚きと感動を込めた思いである。

結の勉強はすこぶる順調だった。英語も数学も驚くほどのスピードで進んでいたのである。英語は現在進行形と命令文を。そして数学は平面図形と空間図形までを終えていた。

坂本 「結さん、すごいよ。まだ学校では1学期の途中なのに、もう2学期の内容が終わりそうだよ」

結 「えっ、本当ですか?! まさか・・・こんなに進めるとは思ってませんでした。先生もでしょ?」

 



結は坂本の顔を覗き込むように、悪戯っぽく聞いた。

坂本 「本当のことを言うとね、最初はちょっと厳しいなあと思ったよ。でも、結さんは理解力があって、すぐに問題が解けるようになっていくんだ。勉強が苦手だと思い込んでいただけだなと思ったよ」

結 「そうなんですか。自分では頭が良くないと思っていたけど、先生の説明がとても分かりやすくて。だからすぐに理解できるんです」

坂本 「いやいや、すべては結さんの努力だよ。それに何事もそうだけど、勉強にもコツがあるんだ。効率よく勉強すると、どんどん進めるからね」

坂本はこれまでの経験から察していた。結も勉強の仕方が分からなかったのだ。だから成績が伸びない。そして自信を失って勉強から遠ざかろうとしてきた。

 

でも、コツさえ掴めば、誰だって結果は出せる。中学生が学ぶ内容程度では、頭の良し悪しなど全く関係ないと。

坂本 「さて、ちょっと休憩しようか」

結 「はい、今日もたくさん進みましたね」

坂本 「素晴らしいよ。そのご褒美に・・・」

結 「えっ、ご褒美?!」

坂本 「そう、頑張ったご褒美に、その長~~~い髪を触ってあげよう!」

結 「何、それ?! 何かもらえるのかと思った」

 



そう言って、結はケラケラと笑い出した。坂本も、結のその反応に安堵した。

 

結は嬉しかった。自分が大切にしている長い髪を褒めてくれる。そしてこんなに長い髪をした自分の存在を認めてくれる。

 

時に励まし、時に厳しく、それがすべて納得できることであった。結は坂本の話を成長の糧としていたのである。

そして結は、坂本の存在を頼りになる優しい先生という受け止めだけではなく、兄貴のようでもあり、父親のような存在に思えることもあった。

 

母子家庭で育ち、父親がいない結にとって、坂本は身近にいる異性としてとても心強く思われたのである。

結 「分かったわ。そしたらご褒美に髪を触ってもらいます!」

 

 

結はニコニコしながら坂本の前に座った。坂本は結の艶やかな黒髪に、そっと手を当てた。ちょっとひんやりして、とてもツルツルした感触だった。

 

こんな感触は男性のどこを探しても出て来ない。これこそが女性美なのだ。窓から入って来る日差しに、漆黒の黒髪がキラキラと輝いていた。

坂本は結の長い黒髪を両手に持ち、そっと持ち上げてみた。髪の束の一部が、サラサラと流れ落ちる。とてもしなやかな黒髪。

 

 

艶やかで瑞々しくてしなやかで。全く傷みがなく健康な黒髪。どんな言葉を使っても、結の髪の美しさを上手く表現することができない。

坂本 「結さんの髪、相変わらず綺麗だね。こんなに長いのに、髪先まで瑞々しく潤ってるよ」

結 「先生は表現が上手ですね。今までそんなふうに言われたことがないもん。先生に褒められると、もっともっと綺麗に伸ばそうと思うの」

 



結はとても嬉しそうな表情で答えた。坂本も自分の手から伝わってくる心地よい感触を味わっている時が一番幸せであった。それが坂本の心を癒してくれる貴重な時間になった。
 

結 「先生、前から思っていたんですけど、結さんと呼ぶのはやめようよ。結って呼んで」

坂本 「いいの?」

結 「うん、いいよ。何かこっちのほうが自然というか・・・結さんのほうは何となく堅苦しくて」

坂本 「分かった。そしたら今からそう呼ぶよ。結」

結 「はい、先生」

坂本 「これでいいのかなあ」

結 「はい、OKです!」

坂本 「結が髪を触らせてくれたり、髪談義をするのが嬉しくてねぇ」

結 「私もよ、先生。で、今日は何の話題ですか?」

坂本 「先生が聞くことは、結が今まで飽きるほど聞かれた事だと思うんだ。でも、またか・・・って怒らないでよ」

 



結 「分かってます。何でも聞いて下さい!」

坂本 「じゃあ質問ね。結はその髪をいつまで伸ばし続けるつもりなのかなあ。予定とかあるの?」

結 「特に決めているわけではないの。できれば、ずーっと伸ばし続けたい!もうこれ以上は伸びないという限界まで」

坂本 「それは凄いなあ。先生も興味あるよ。結の髪がどこまで長く伸びるのか。それこそ全面的に応援するよ」

結 「あっ、そうだ。先生に言おうと思いながら言いそびれていたことがあるの」

坂本 「ん? 言いそびれていたこと?」

結 「私の家庭教師をする条件があったでしょ」

坂本 「ああ、二つあったよね。それがどうかしたの?」

結 「勉強を途中でやめないというのはいいんですけど、もう一つのほうが・・・」

坂本 「ええっ、まさか・・・。髪を切るってこと?!」

結 「私ね、一年に一回だけ髪を切るの。勿論、バッサリは切りません。毛先だけを母に切ってもらってるの。

 

ずっと髪を伸ばし続けると、髪の長さが不揃いになって、先細りしたようになるから。だから一年に一回、毛先を揃えてもらっているの。先生、これは条件違反ですか?」

 



この質問には坂本も弱った。真顔で考え込んでしまった。本心では切って欲しくない。

 

でも、結は綺麗に伸ばすためのヘアケアの一環として毛先をカットする。それくらいなら認めてもいいかな。でも、切って欲しくないし・・・。返答に迷っていると、結が言った。

結 「あっ、やっぱりね!」

坂本の曇った表情を見て、結が言った。予想通りだと言わんばかりの表情で、結は続けた。

結 「先生はたとえ毛先だけでも切ることに反対なんでしょ? ちゃんと顔に書いてあるもん」

いつもと違い、結は心理的に優位に立っている気持ちになった。そして困った表情の坂本の顔を見ながら言った。

坂本 「いや、それなら・・・う~ん、先細りしないようにねぇ・・・、まあ・・・」

結 「先生、困ってる。私も困ったわ。毎年、私の誕生日に母が毛先をカットしてくれるの」

坂本 「結はいつが誕生日なの?」

結 「7月10日。だから、あと一か月かな」

それを聞いて、坂本は思った。今、手にしている美しい黒髪がカットされて短くなってしまうのか・・・。

 

そのシーンを想像すると、胸の奥が締め付けられるような痛みを覚えた。

 

そんな坂本を見て、結は思った。先生は本気で髪を切って欲しくないと思っているんだ。

坂本 「結、この綺麗な髪がカットされるのを想像すると、平常心でいられなくなるんだ。こんなに艶やかで瑞々しくてしなやかで、とっても美しい髪が切られるなんて。髪たちが可哀想だよ・・・」

結 「先生・・・。私、先生のような人は初めて。カットされる髪が可哀想だなんて。そんなことを言う人、いないよ。そこまで私の髪のことを思ってくれているんですね」

坂本 「結は13歳の女の子だ。そして結の長い黒髪も、結と同じ13歳の女の子なんだよ。みんな結の一部だから、結局、結なんだよ。そう思えてきて・・・ごめん、上手く言えないよ」

坂本の目には、うっすらと涙が浮かんでいた。いつも陽気で楽しい先生が、髪を切るという話題になった途端に涙を見せるなんて。結は驚いた。それほどまでに長い黒髪のことを慈しんでくれているとは。

結 「先生、私嬉しい! そこまで私の長い髪を大切に思ってくれているなんて。条件を守ります! 私、髪は切りません!」

 



坂本 「ありがとう、結。そうしてくれると嬉しいよ。あの条件を出したのは、結にずーっと髪を伸ばし続けて欲しいと思ったからなんだ。本音を言えば、1ミリたりとも切るのは反対」

結 「えーっ、1ミリでもダメなの?」

結は大袈裟に驚いて見せた。でも、長い黒髪を大切に思う坂本の気持ちが十分に伝わってきた。

結 「母とも話してたの。坂本先生が髪を切って欲しくないようだったら、今年から毛先を切るのをやめようと」

坂本 「そうだったのか。今後一切、結の髪にハサミを入れるようなことがあって欲しくないよ」

結 「先生の気持ちはよーく分かりました。でも、毛先をカットしないと不揃いになるけど、先生はそれでもいいの?」

坂本 「勿論さ。自然のままでいいよ」

結 「私、髪が伸びるのが早いの。だから今まで以上のスピードで長くなるよ」

坂本 「それはいいね! 楽しみだよ。毛先が不揃いになるのは良くない?」

結 「先生が気にしないのなら、私も別に気にしません。母は毛先が不揃いになっても絶対に切りませんから。だから母のように早く伸びると思いますよ」

坂本 「お母さんも髪が長そうだね」

結 「そう、私より長いんです!」

 



やはりそうか。二人で坂本の自宅を訪れた時、母親の大きなお団子のようなまとめ髪を見た。親子そろって超ロングヘアーだなあと思った。

坂本 「ところで、結の髪はどれくらいの長さなの?」

結 「分からないです。測ったことがないので。でも、身長よりは長いですよ」

結の言葉通り、床を引きずっている長い黒髪が、それを証明している。

坂本 「そうだよね。結は身長何センチだっけ?」

結 「154センチです」

坂本 「そうか。と言うことは、154センチ以上あるってことは確かだね」

結 「そうですね。この際だから、今度測ってみようかな。そうだ、先生お願い、髪の長さを測って下さい!」

坂本 「よし決まった。今度来る時に、巻尺を持って来るよ」

結 「先生、今度の土曜日に来ますよね。その時は母もいます。だから、親子揃って髪の長さを測ってくれませんか?」

坂本 「それはいいね!」

結の髪だけではなく、母親の髪の長さも測る。その時に長い髪を手に持ちながら・・・。

 

考えただけでもワクワクしてくる。今度の土曜日が待ち遠しくなってきた。

 



結 「先生は髪の話をする時、とても嬉しそう。超ロングヘアーファンですね」

坂本 「その通りだよ。誰かさんの頭に水をぶっかけてからね」

二人とも、当時を思い出して大笑いした。

 

 

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感謝 by Ryuta