髪長私学2 ~第6話~ 初めての感触
自慢の長い黒髪を坂本に褒められ、結は心が満たされる思いであった。自分の分身のように思っている髪を、坂本に触ってもらう。内心はときめきながらブラッシングをする結であった。鏡を見て、仕上がり具合を確かめると、
結 「先生、お待たせ!」
人懐っこい笑顔で坂本に語り掛けた。
坂本 「毎日のことだとは言え、そんなに長い髪だと大変だねぇ」
結 「自分では大変だとは思わないんです。だって、これが当たり前になってるし、長い髪が私にとって大事な宝物ですから」
坂本 「そんな大事な宝物に手を触れさせてもらえるなんて光栄だよ」
ドキドキしながら、その時を待った。坂本は女性のこんなに長い髪を触った経験はなかった。そして結も男性に優しく触ってもらったことはない。お互いに生まれて初めてのシーンだった。
坂本は結の後方に回り、大胆にも両手で長い髪を掴んだ。そしてそのまま上に持ち上げた。結もそっと両手を添えたが、その時に触れ合った坂本の手の温もりを感じて、先程より心臓の鼓動が速くなった。
坂本 「結さん、本当に長いねぇ。すごく綺麗な髪。髪の先までとても艶やかだよ」
結 「先生、嬉しい! 私、こんなに自分の髪を褒められたことがなかったから」
結は嬉しかった。そしてここまで切らずに伸ばし続けてきて、本当に良かったと思った。長い髪を褒められたということは、自分自身の存在を認めてもらったのと同じこと。
いじめに遭って、自分の存在を認めてもらえたことがなかった結にとって、坂本の言葉は胸の奥で希望の灯になり、自分に自信を持つ切欠になったのであった。
坂本も結の長い髪の感触を楽しんだ。こんな手触り、こんな感触は今まで経験したことがなかった。男性である以上、それは仕方のないことではあったが、改めて女性の美しさを再認識した。
しなやかで、艶やかで、まるでシルクのような柔らかい感触が手に馴染んでいく。髪フェチと言われる人たちが、心躍らせる感覚とはこういうものなのだと、結の超ロングヘアーを体感することによって知ったのである。そしてもっともっと結から長い髪のことを聞きたかった。
坂本 「結さんの長い髪のこと、色々と聞いてみたいなぁ」
結 「そうなんですか。何でも聞いて下さい。同じようなことを人から聞かれるので、答えることには慣れてますから」
笑いながら、坂本の質問を快く受け付ける結であった。坂本と話していると、とても楽しくてリラックスできる。こんな会話を楽しみながら過ごすことがなかった結。今の自分が自分でないような感覚になっていた。
坂本 「そうか。そうだよね。この長い髪を見て、みんな聞く事って同じような内容になるよね。でも、またか・・・と思わないでよ」
結 「はい、分かってます」
坂本 「じゃあ、早速だけど髪を伸ばそうと思った理由を聞かせて欲しいなあ」
結 「これは母の影響かな・・・。物心がついた頃には髪が長かったから。女性の美しさは長い髪というのが母の信念なんですよね。だから娘が生まれたら、絶対に髪を伸ばしながら育てようと思ったそうです」
坂本 「なるほどね。昔から髪は女の命と言うからね。物心がついた頃にはロングヘアだったわけだけど、それは嫌じゃなかったの?」
結 「そうですね。幼稚園でも小学校でも、この長い髪のお陰で知らない子と仲良くなれました。それにいつも母から長い髪の結が一番素敵だと言われ続けていましたからね」
坂本 「そうなんだね。でも、どんどん伸びて長くなってくると、毎日の手入れが大変だったでしょう?」
結 「小さい頃は母に手伝ってもらっていました。今は自分でできますけどね」
坂本 「家にいる時は、そんなふうに髪を解いて過ごしているの?」
結 「はい、いつもこんな感じで引きずってます。このほうが楽なんですよ」
坂本 「へえー、そうなんだ。でも、外出するときは、さすがにそのままでは無理だよね」
結 「そうですね。長い髪をまとめてお団子のようにするんですけど、これが重くて肩が凝るんですよ」
坂本 「えっ、髪が重い?! そんな感覚は男には味わえないなあ。肩凝りとはねぇ」
超ロングヘアーを大切にするためには、人知れぬ苦労があるものだなあと思った。どれもこれも、坂本にとって初めて聞く話ばかりであった。こうして結との髪談義の時間が、坂本にとって楽しみの一つになったようである。
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感謝 by Ryuta