正直、読むんじゃなかった―と後悔しました。
あ、決して悪い本、というからではなく。
あまりに、あまりに良い小説だったので。
安部 公房 「けものたちは故郷をめざす」
ほんと……。
なんちゅーものを、このタイミングで読んでしまったのか。
第二次世界大戦末期、満州で育った日本人の青年が、
日本――未だ見ぬ故郷をめざすという物語。
少年時代、満州で母親の介護を続けるも、母親が死に、住む場所を失った折、
ロシア兵に拾われ、すみこみ奉公するかたちで彼は青年になるまで成長した。
彼は衣食住のそれなりだったロシア兵のもとから脱走し、日本へ行くため列車に乗り込む。
ところが列車強盗に遭い、なりゆきのまま中国人の男と極寒の荒野をひたすら突き進む羽目になる。
ただただ、恐ろしかったです。
夜中、家族が寝静まったあと読み始め、気がつくと深夜2時。
雪の日、暖房も付けず、凍えながら薄暗い部屋で一人読み終わって、
その後なかなか寝付けないありさまでした。
食料のないままに、極寒の荒野をよろよろと歩くさまは、
命のか細い炎が、消えかけては持ちこたえ、また消えかける、を繰り返す。
動物の住めない荒れた大地は、人間が生きるのびるにはあまりに過酷。
なんとかたどりついた街は、敗戦国の人間である日本人を、容易には受け入れてはくれない。
人間のいる街でさえ、青年は生きるすべを見いだせない。
なんとか日本人を見つけ出し、すがりつき、事情を話す。
彼は日本行きの船に、なかば奴隷のような働きをする代わりに、乗せてもらえることになった。
そこでも彼は、絶望に魅入られる。
船底の檻の中、獣のように、極限まで飢えた犬が、檻の柵にかみつき吠えるように、
彼は手が血まみれになってなお壁を叩き、叫び続ける。
船の外側――そこは日本なのか。
否、日本であっても、彼は手枷を付けられ、檻の中なのだ。
荒野に生きる場所はなく、街にも拒まれ、目と鼻の先の日本にも行くことを許されない。
獣のように、ひたすらに獣のように、青年は叫び続ける。
もう…。
この救いのなさは一体どういうことか。
希望が、面白いようについえてゆくのを、ただただ読み進めるしかない。
ぞっとする、作品でした。
くさった指の切断や、あまりの寒さで、焚き火に顔を突っ込むようにして倒れている様とか、
狂ったように残りわずかな食糧を口に詰めてつかえる様とか、
それを殴りつける様とか……。
映像というか、ニオイというか、想像しちゃうんです。
ううん…。家族の将来のこととか、子どもの病や寿命のこととか、ぶっちゃけいろいろ不安があるんですけど、
それが倍増しちゃうような、作品。
そうだなあ、娯楽にぬるさを感じてる方とか、
ただただ吸収をしたくてしょうがない若者なんかにお勧めな作品だと思います☆
ちなみに私にとって、初の安部公房。
勝手なイメージで、なんとなく吉本ばななとか、
俵万智みたいな感じかな~とおもっていたら!!
とんでもない。
それぞれのファンの方、すみませんです。
なんでそんなイメージ持ったかは自分でも解りません…。