前回の続きから。


怒りながらおにぎりを食べているバディ。


銃を銃袋に入れて、木の下でアグラをかいて食べてます。


警戒して銃を離さない私との対比が面白い。



そこに唸り声が。



あ、やべ、来ちゃった…。


わざわざ近寄って来るなんて、なんのつもりだ?



退路は全て熊笹があります。先程までは1箇所にいたので場所はわかりますが、今度は確実に退却困難。



更に大きく唸ります。



「なに!!今の!」


バディが飛び上がりながら聞きます。



「だから、熊いますって言ってるじゃないですか」



バディは、慌てふためき広げていたものをリュックに放り込み立ち上がりました。


唸り声がするのはバディから4メートルほど。


私は、そこに銃口を向けてます。



そんな私にはお構い無しにバディは、熊とは反対側、下りが急に見える道なき道に降りていきます。



頂上にいるので、円を描くように熊が進めば進行方向。すぐに追いつかれてしまうでしょう。


「早くこっちにおいで!」と怒鳴りながら、先を進みます。



「そっち!降りれますか?」


「いいから!!」


前後左右に気をつけながら、距離を空けて付いていきます。



50メートルほど降りたところで


「ダメだ!降りれない!」


真っ赤な顔で戻ってくるバディ。



この時点では熊はついて来ていません。



このまま降りられたら安全だったのに…。



また頂上に戻らなければなりません。



と、いうことは熊は頂上付近がお気に入りの場所のようです。子熊がいる?


一瞬、そう思いましたが、果たして睨み合いの間の数分間、子熊が身動きせずにいられたでしょうか。



風はありましたが、凝視していたので些細な不自然な動きでも見逃していないはずです。



また、頂上に戻るのか…。


いる場所に戻るのは最悪な状況です。



後ろにいる私をバディが追い越し、頂上に向かった時、ザザザザっっ!と熊の気配が。



「まだ!いる!」と叫ぶバディ


やはり、熊は頂上に行かせたくないようです。


ですが、頂上に行かないと帰れない私達。



万事休す。



これは、閉鎖だな…。

出会ったのが市民ではなく、銃を持っている私達で良かった。



熊に出会った場合こそ、冷静になるよう日々、個人的に訓練していたからでしょうね。落ち着いて状況把握が出来ました。


訓練の仕方は別の時に書こうと思います。




頂上は馬の背のようになっています。


山を降りるには、先程とは逆に左側が熊笹。右は、まばらな木。


その、馬の背を降りて登山道を戻るしかありません。


頂上付近は丘になって、木はまばらなので多少は熊笹から離れることができます。



ですが結局は雫の形のようになっていて、雫の先端のように左右が熊笹に覆われているポイントをクリアしなければいけません。



唸られた場所を避けながら歩く私。


バディは唸られた場所を知らない。



先程、睨み合いをしていた場所にバディが通りがかろうとしました。


「そこは!ダメです!こっち迂回してください!」


「いいから!早く来なさい!」


熊笹の中を熊が移動している音は2人に聞こえます。

パニクるバディ。バディにパニクる私…。



気配により、右に左に方向を変えながら逃げる。



雫の先端が過ぎた時、バディは真っ直ぐに更に濃くなる熊笹の道を降りていきます。



熊は左側、熊笹を移動しています。


「そっちダメです!こっち!」


「こっちが早いよ!」



私は付いていきませんでした。


だって、熊はバディに付いていったので…。



自分の身は自分で守る。


言うこと聞きゃしない。もうね、仕方ない。



付いて行かなかった理由は、身動きするのも困難な熊笹の中では発砲も出来ないです。

二次災害になります。



「無事に帰る」



熊から逃げるより、熊から離れる。


離れるには、私が立つこの位置から右に下る。



もう、熊を相当怒らせてしまっています。



すぐにバディは戻りました。


何があったのかはわかりませんが、表情はグシャグシャになってます。



「普通に降りましょ」



一目散に降りていきます。


後ろを見ながら、降りる私。



段々と熊との距離が離れていきます。




スタート地点に戻りました。


「報告は俺がするから」といい、私達は任務を終えました。



それからしばらくは閉鎖になりました。



撃ってしまえば良かったか?


そうは思いません。事故が無いようにパトロールをして、熊の痕跡が無いのを確認してからの山開きです。


熊も充分、人間を嫌がりました。


熊がいるのは自然なことなので、熊のパトロールがあるのです。



バディは、そのあと隊を離れました。


彼が何を伝えたのか、わかりません。




防除隊とはいえ普通の人間です。


今回、個人的なコミュニケーション不足は反省点ですが、そんなこんなを経験しながら、隊が強化されて行くのだと思います。



ましてバディが、役に立たないと思っている女性だと、普段より恐怖も増したのだろうと思います。



こんな経験をしていると、丸腰では山に入れなくなります。


臆病になるべきなのは人間です。

警戒心を強くしなければいけないのも人間。



そうだら?(上伊那弁)笑