前回は猪のことを書きました。
思い出してもバクバクします
どれくらい怖かったか?というと、羆と腰だめ銃で5分くらい駆け引きした時より怖かった(笑)
人間なんて丸腰じゃ弱いもんです。
そんなエピソードがあるハチと私ですが、唯一、親方(今の主人)に聞けなかったことがありました。
「なんでハチは3本足なの?」
親方はハチが如何に才能抜群だったか、それはそれは愛おしそうに何度も話をしてくれます。
「3本足じゃなかったらなぁ…」
何度も「なんで3本足なの?」と聞くべき、自然な会話の流れはありました。
聞かなくても、主人の胸の痛み、悲しみを充分に感じたので聞きませんでした。
北海道には本州のような巻狩りの猟犬はいないと思います。巻狩り自体が主流では無いので、この時の私には想像するのが難しかったと思います。
いつか…同じく痛みを感じれる時が来たら、この人の痛みは少なくなるのだろうか?
伊那から北海道へ。
初めて海を見て何を感じたのかな。
札幌の家で。山以外(住宅地)で過ごした時期も楽しかったよね。
それから現在、ポツポツと、その時の事を話すことができてきた主人。
私にも話をしてくれましたが痛みを癒すことは出来ませんでした。
なぜなら、ハチと主人の痛み、悲しみ、苦しみ、傷は私の悲しみにもなったからです。
ハチは、今は故人になりますが、その方に巻狩り中に撃たれてしまいました。
沢で鹿の下になっていたハチに気がつかず発砲してしまったと聞きました。
その方も自分を責めたでしょう。
主人は、その方を責めなかったと思います。
ハチの山中に響き渡る鳴き声…。
その声は、これからも思い出すたびに主人を痛めつけるでしょう。
主人は血だらけのハチを抱え、病院に駆け込んだらしいです。
命だけは助けてくれ!
情景が目に見えるようです。
大事な相棒の悲鳴。止まらぬ出血。
もう充分ですね。
猟犬。
古来から人間と共に狩猟をしてきた犬達。
猟犬は山を走り回るので怪我が付きものです。
帰宅時には、私は必ず怪我の確認をします。
怪我をしないで…と願い、いつも送り出します。
巻狩り中も犬達が心配です。
でも、致命傷でなければ治すことが出来ます。
ハチのことは矢先の問題ではなく、不運な事故なのです。鹿の下に人はいないですから。
まして見えなかったのですから、不運だとしか片付ける言葉がありません。
生死の境を彷徨ったハチですが足を切断して、命は助かりました。ですが大好きな山、猟に行くことは叶わなくなりました。
私がハチに会う前のシーズンの事だったようです。
ハチは主人以外は心も閉ざしていたのでしょうね。
そんな時に出会った私とハチ。
自由が効かない足に慣れていた頃だと思いますが、痛みは感覚で残っていたと思います。
無い足を庇う動きも見られたので、よく足を撫でてあげました。
猪から守ってくれたハチは私の恩人です。
お互いの重み、体温を感じながら、どれだけの時間を寄り添ったかわかりません。
出会った頃のお写真です。
見知らぬ土地、知り合いの少ない土地、北海道から出て頑張っていた時期の私に、ハチが元気をくれました。
私もハチを癒やしていたのでしょう。
今まで、ハチ!ハチ!何万回呼んだかわかりません。
ハチは私と会うために3本足になったんだよ!4本足で山に入っていたら、ハチは山で死んでいたかもしれない。
そんな話を主人に何回もしました。
その度に主人は、ハチは優秀だから山じゃ死なないよと答えます。
何十頭と言う猟犬を飼ってきて、ベスト3に入ると言います。ハチの血は我が家の子孫に受け継がれています。
痛みは主人と私、一生、消えることは無いでしょう。
それでいいのです。
だって、猟犬を飼っているのですから。
尊い命と向き合うのは必要なことだと思います。
彼らを大事に育て、愛情を込めて一緒にいる。
狩猟は伝統であり、現代では野生動物の個体数調整として無くすことは出来ない役割を担っています。
狩猟犬も巻狩りを行う上で重要な役割なので、法律で山中に放すことを唯一、認められている犬達です。
私達は猟師であり、猟犬は相棒です。
一犬・二足・三鉄砲
猟師で、よく使われる例えですね。
最も重要な役割が、犬、次に犬を扱う人(人間)そのあとに銃が続きます。
伝統として、この言葉も語られていますが、古来から犬を大事にしていたことがわかります。
獲物を得た喜びだけではなく、悲しみも含んで伝統は後世に引き継いでいくべきだと思います。
命の重みを感じて、命の恵みを受ける。
相棒(猟犬)を山で亡くす方も沢山います。
山に連れて行かなかったら…と犬に懺悔する方も多いです。
でも、その子がまた生まれ変わったら、「父ちゃん!山に行こう!」と喜んで山に誘うでしょう。
喜んで山を走り回るでしょう。
ハチが4本足に戻ったら…。
主人もハチも喜んで、山に飛んで行くと思います。
良いバディとは以心伝心するものですから。
バカだなぁ…と笑いながら
私も、後ろを付いて行くでしょう。
猟犬は、猪やカモシカによる致命傷、滑落など予期せぬ事故で命を縮めることもあります。
もちろん、無事に寿命を迎える子も沢山います。
防刃ベストなどを着せて、怪我を最小限に。
腕前を磨き、犬が痛手を受ける前に獲物を仕留める技術、知識を身につけてあげてください。
犬が絡んでいる時には発砲はしない。
それが、猟犬を守る全てではありませんが、日本全国で活躍する全ての猟犬達に怪我が無きよう願っております。
重たいブログになっちゃった。
私、真面目すぎて面白くない人(主人談)なので
つづく