割とよく使うコンビニエンスで

書籍が並ぶ棚だけはよく観察する。

 

そこにある「ゴルゴ13」を見るたびに

一応集団代表作者のさいとうたかをが生前

漫画は書籍のある書店でなくコンビニが最もふさわしいと語るのを

明言だと思い出す。

 

雑誌がメディアのように

漫画は「本」ではない、との仮説だ。

 

  さて 「ダスト18」。

 

バンド・デシネあたりでは珍しくもない

文庫本とも違う大きさなサイズ。

 

手塚全集にあるはずなのに… と手に取るが

これによって新たな発見もあった。

 

迷い込んだ生命の山に激突する飛行機墜落。

砕けた小石で生き返ってしまった18人。

死ぬはずの運命と小石を戻すために

送り込まれた少女とそれを阻止する少年の姿を借りたキキモラは

18人の命運を語るための役割。

 

だいたい、その阻止が、巨大な陰的存在の奧さんに

怒鳴られ反対されての、手塚的登場なのだ。

 

そうだった。そうだったと

雑誌「少年サンデー」でリアルタイムに読むとおり内容の違和感はない。

むしろ

ここの解題で連載時の不人気とか

それによって打ち切られた展開は知らなかった。

しかもその後、

文庫本化で大幅な書き直しをしたとか仰天な話。

 

そっちの直されバージョンは知らぬが、

手塚が出版された各社のたびに手直しを見ていたから

これは分かっている。

手塚治虫自身、強烈なほど作家意識が強いせいで

他の漫画家では知らない。

 

しかし その本人が意識する作家性で

ラインアップされた全集は個人的には好きではない

量的な誇示が強いのは、

漫画を文化に押し上げようとする

作家自身の貢献であり意図だろう。

が、

それはこちらの見解でどうでもいい。

 

あの皆が知る全集刊行によってデフォルト。

いじらないと踏んでいたのだが… 。

 

読んでない大昔のを選んで所蔵したので

最終改訂版「ダスト18」は全く知らないのだ。

 

何故、どうしてこんな面白い話を今考えても

打ち切ったのかも書き換えたのかもわからない。

ジャンプみたいにアンケートのマーケティングもなく

ほぼ噂的なテキトー市場調査じゃなかったのか…

 

あの時の手塚治虫はこのあとがきにある解題でわかるように

虫プロ倒産で借金取りに追いまくられていたのだ。

そんな非常時にありながら、

その向こうの部屋で必死に連載中の「アラバスター」とか

これを書きまくっていた、というさらに一つ上レベルの

修羅状態で創作の、稀有なクリエイターが手塚治虫。

 

  宮崎駿のように隣に

  鈴木敏夫がいればよかったのに…

 

生命の小石を砕き、万能型コンビーターに挿入しようとする

発想の悪魔的科学者の話は素晴らしい。

そのマシンが自己改造し母親の、

女像に形態を変化させるのは手塚イメージの真骨頂。

 

(   両性具有的美女とか異形、異界、機械と混在した

 描かれる変身の、ただ事ではない。

 紙の上の作画で生体実験する変態マッドな博士みたいだ

   女性たちのエロティックさと

   悪魔的な残酷な奴らが織りなす話の展開はすごい  )

 

 

しかも、その博士の娘が阻止する側の少年と関係する展開は

この作家の他にない見事な物語性だ。

 

その渦中の「ダスト18」のどこが人気がないというのか!

いや、そもそもあの当時の未成熟な少年誌では

この作品の大きさを抱えることができなかったろう。

 

この2018年の書籍によって

逆により明確になった手塚作家性がよくわかる。

 

 ( その書き換えた方も読んでみたいが )

 

「ジブリをめぐる冒険」池澤夏樹と鈴木敏夫のインタビュー著作物。

上の本と一緒に読んでいたのは、偶然の、巡り合わせの賜物だった。

 

池澤曰く、鼻が大きいサギ男は手塚治虫に似ている。

これは実に面白い一言だ。

 

  確かに そうだ。

 

あれは…   手塚逝去の後、

宮崎駿はこの作家をどう考えていたのかを

知りたくて「comicBox 特集 ぼくらの手塚治虫先生」を買った。

何故かと言えば、お互いによく似ているからだ。

ほとんど似たものを毛嫌いする兄弟的近親憎悪のよう。

 

但し 手塚の背景にはディズニー信仰が沈殿しているけど…

 

宮崎は、最初から悼む大合唱をよしとせず

まるで決闘を申し込む無頼漢。

 

自分自身の描いた漫画が手塚に似ていると燃やした経緯を

長男の呪縛を受ける次男の宿命のようだと語り

崇めず乗り越えるべき存在と戒める。

 

その後の東映動画と、テレビアニメーションもアトムを製作し

棲み分けたはずが再び、似て非なるシチュエーションで接近…

 

少年マンガと言えば、ある意味では手塚漫画王国の牙城

それを「君たちはどう生きるのか」ではお得意の少女でない。

 

少年を正面に据え、戦闘機の風防製作で戦時中に潤った父親と

まるで無意識のように突然襲い来るさぎ男として描く。

 

あれは彼の盟友でありプロデュサー鈴木敏夫の分身のみならず

作家手塚治虫の亡霊。

 

真人と卓の横に並び、お茶を飲むシーンは

父と絶縁した志賀直哉の書く「暗夜行路」の和解のよう。

 

「ダスト18」の頃、手塚漫画はこの先いくらでも読めると

無責任に信じていたのも思い出す。

こんなことなら、もっと手塚漫画を

読み飛ばしではなく正座して精読すべきたった、と。

 

すでに高齢者になりし宮崎駿には、

超シルバー映画監督として、何としても次作を期待している。

 

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「鉄の道」と「勇者ダン」には、帯付きのまま蔵書されていた。

それにしてもこの小学館のシリーズももっとあったはずなのに…

手放したのもあるが、それよりは

迂闊に貸したばかりに2度と戻ってこないのだ。