屋敷の玄関で

大輔と大旦那の沈黙を

フミ、滝口、大希

そして

運転手の佐伯が

ハラハラしながら見守った

 

 

「佐伯さん・・・あの手紙の消印は

どこからでしたか?」

 

大輔は

大旦那から目を離さず

佐伯に尋ねた

 

 

「あ・・・すみません・・・見てません」

 

 

「京介は、大切な人だと言ったんですよね」

 

 

 

「はい・・・しっかりと手紙を胸に・・・・・」

 

 

「そうですか・・・・」

 

 

「大輔さん以外に大切な人って・・・・」

 

 

フミは

不思議そうに呟いた

 

 

「・・・その手紙は、大輔さんと出会う前から届いていました」

 

 

佐伯がすぐさま返答した

 

 

「大旦那さんの目をかいくぐって

どうやってその男と出会ったんだ?」

 

 

滝口は

昔の京介を知る限り

出会いなど考えられなかった

 

 

「男とは、限らないっすよ」

 

 

「いえ、あの文字は、男の方かと・・・・」

 

 

佐伯の言葉に

皆は

深く頷いた

 

 

大旦那は

憮然とした態度で

大輔を一瞥した

 

 

大輔は

怯むことなく

大旦那に向かって言った

 

 

「心当たりありませんか?

ずっと側で京介を見て来たあなただから・・・」

 

 

 

「ずっと側にいるお前は

京介の行き先の心当たりもないのか・・・」

 

 

 

「・・・・・・・」

 

 

大輔は

唇を噛み締めた

 

 

 

「知りたければ、お金で人でも雇って捜すんだな」

 

 

その言葉に

フミが反応した

 

 

「そっか!そういう事か!!わかりましたよ!」

 

 

「何?フミさん、京介さんの行き先が分かったっすか」

 

 

全員がフミを見た

 

 

「坊っちゃんが家出した時

大旦那さまは、人を雇って血眼になって捜したじゃないですか・・

あの時、坊っちゃんは

一か月も

どこで誰と暮らしていたんですか?・・・・」

 

 

「あ・・・あのカフェの男・・・・」

 

 

 

佐伯が

思い出したように言った

 

 

大旦那は

用はないと背を向けた

 

 

 

「待ってください・・あなたは、知っていたんですね」

 

 

 

「くだらん・・・・京介も大人だ・・

好きにさせておけ

いちいち大勢で騒ぎ立てるな」

 

 

「かつて血眼になって捜したのは

誰でした?」

 

 

「・・・今のお前は

あの時の私と何も変わりはない」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 

「・・・せいぜい京介に嫌われないようにするんだな・・」

 

 

大輔は

返す言葉を失った

 

 

 

 

フミ、滝口、大希は

口を揃えて言った

 

 

 

「意地悪・・・・・」

 

 

 

 

 

「マスター・・・元気そうで・・・」

 

 

 

京介は

目を細め

男を優しく見つめた

 

「お前も・・・・さっ、座れ・・・」

 

 

 

「はい・・・」

 

 

男は

客が帰ると

外の札をクローズにした

 

 

 

「珈琲でいいか」

 

 

 

「はい・・・」

 

 

周りを見渡し

京介は

不思議そうに尋ねた

 

 

「前の知ってるカフェと雰囲気が変わりましたね」

 

 

 

「ああ・・・壊されたからな」

 

 

 

「あ・・・」

 

 

急に京介は

その顔を曇らせた

 

 

「あ、気にするな・・・そういう意味じゃない・・・

もともと古くなっていたから直しただけだ」

 

 

「・・・本当にごめんなさい・・・

謝ることも出来ず

お礼も言えず・・

僕は・・・・」

 

 

鞄から

封筒の束を出した

 

 

「返事も書けず・・・・・」

 

 

 

「どうせあの男が

お前に見せなかったんだろう?」

 

 

「あの男?・・・・義父のことですか?

・・・マスターは

義父を知ってるんですか?」

 

 

 

「・・落ち着け・・・・」

 

 

 

男は

奥に行くと

何かを手にして戻ってきた

 

 

 

「これ・・・お前の親父に返せ」

 

 

「なんですか?」

 

 

「金だ・・・」

 

 

「・・・・・・」

 

 

京介のその瞳は

冷たいほど凍り付いた

 

 

「・・・・義父に会ったんですね」

 

 

 

男は

仕方なく昔の出来事を語り始めた

 

 

 

 

男は

営業の出来ない店で

途方に暮れながら

京介の悲しみの顔を浮かべた

 

 

連れ戻され

きっと自由な生活は

望めないだろう

 

 

~どんなことがあっても死ぬなと・・・~

 

 

母親が

京介に残した

最期の言葉

 

 

今なら

分かるような気がした

 

 

 

「お前・・・死ぬなよ・・・」

 

 

 

京介の存在は

男の心に

しっかりと刻まれた

 

 

 

 

「コンコン・・・失礼します」

 

ドアは

壊され

ずっと開いたままだった

 

 

 

 

見ると

白手袋の

長身の男が立っていた

 

 

 

「なんだ」

 

 

深々と頭を下げ

その後ろから

いかにも金持ちで

世の中に怖いものなどない風情の男が入ってきた

 

 

 

「京介は、ここで世話になったと聞いたが

本当の事か」

 

無礼な来客は

すぐさま

京介の父親だと分かった

 

 

「あんたか・・京介の嫌いな血の繋がらない父親は・・・」

 

 

皮肉たっぷりに言ったが

鋭い目で睨まれた

 

 

 

「あれもいい経験が出来ただろう」

 

 

 

「力ずくで血の繋がらない息子を連れ戻して

さぞ満足だろうな」

 

 

「お前には、関係ない・・・

佐伯・・・」

 

 

「はい、大旦那様」

 

 

 

 

白手袋の男の名は

佐伯だと分かった

 

 

懐から分厚い封筒を出し

それをこちらに差し出した

 

 

 

「なんだ」

 

 

答えたのは

佐伯ではなく

血の繋がらない父親だった

 

 

 

「京介が世話になった礼だ

店の再建にでも使えばいい・・

以前よりいい店が出来るだろう」

 

 

「金など要らん・・・京介を自由にしろ」

 

 

 

「何度も言わせるな・・・

お前には、関係のない事だ・・・」

 

 

 

「父親だったらあいつの幸せを考えろ・・・」

 

 

 

鋭い眼差しに

男も負けじと

睨み返した

 

 

 

 

 

「京介の幸せは

私の側に居ることだ・・

住む世界の違う者には

分かるまい・・・行くぞ、佐伯」

 

 

「はい、大旦那様」

 

 

深くこちらに頭を下げると

佐伯は

足早に先回りして車のドアを開けた

 

 

 

「ちょっと待て!

金!持って帰れ!」

 

 

 

「遠慮なく使ってください・・・

お店・・・酷い事して

すみません・・・」

 

 

佐伯は

小声で言うと

運転席に乗り込み

エンジンを掛けた

 

 

「おい!お前は誰だ!」

 

 

父親は

こちらに見向きもしなかった

 

 

 

 

 

 

「そうだったんですか・・・」

 

 

 

 

 

「話は、まだ終わらない・・

俺がどうやってお前の屋敷を突き止めたか・・・」

 

 

 

「・・・・どうやって?」

 

 

男は

京介を前にして

普段より良く喋ると

笑えた

 

 

京介は

真剣な眼差しで

こちらに耳を傾ける

 

 

男は

今までの経緯を

語り始めた

 

 

 

 

 

店の修理費用を稼ぐため

男は

宴会などの会場で

働いた

 

 

一日中

客に珈琲を淹れる仕事だった

 

金の為だけじゃなかった

 

 

きっと金持ちが集う場所に

あの男が現れるだろう

 

そして

何度目かの仕事先で

運よく京介を見つけた

 

 

 

声を掛けたが

京介は

自分に気が付くことはなかった

 

 

 

 

周りの客に

京介は

病気だと聞かされた

 

 

 

 

笑みは消え

感情のない風情は

男に衝撃を与えた

 

 

 

父親は

京介を連れ歩き

羨望を集め

優越に浸ってるように見えた

 

 

「馬鹿な奴め・・・・」

 

 

 

~住む世界が違う~

 

 

 

あの父親の言葉が蘇り

男は

鼻で笑った

 

 

 

 

「やっと居場所を知って

俺は

お前との約束の手紙を書いた」

 

 

いつか返事が来るだろう・・・

 

 

いつか助けを求めるだろう・・・

 
 

その時が来たら・・・・

 

 

 

「・・・マスター

僕は、もうあの屋敷に住んでいませんよ」

 

 

「あ?」

 

 

「もう数年経ちます・・・

屋敷を出ました」

 

 

「そんな事が出来たのか?」

 

 

「はい・・・・連れ出してくれた人がいました」

 

 

「・・・そうか・・・」

 

 

自分が出来なかったことを

成し遂げた者がいたのか・・・

 

 

 

男は

安堵し

少し寂しく感じた

 

 

京介を連れ出す事の出来た者こそ
京介に相応しい・・・
 

 

「一緒に暮らしてるのか?」

 

 

「はい・・・そうです」

 

 

蕩ける笑みを

初めて見た

 

 

 

「今は、何をしてるんだ?」

 

 

「カフェです」

 

 

「カフェ?・・・・」

 

 

「ここの珈琲豆は

もしかして兼崎さんから仕入れてませんか?」

 

 

「あぁ・・・そんな名前の奴だったな・・・」

 

 

「そうですか・・・・」

 

 

鞄から紙袋を取り出し

 

 

「僕が焙煎した珈琲豆です・・・

良かったら使ってみてください」

 

 

「お前が?・・・・」

 

 

「はい・・・兼崎さんに習って・・・・」

 

 

「珈琲も淹れられるのか?」

 

 

「もちろんです・・・・あなたに教わりましたから・・・」

 

 

「そうか・・・淹れてみるか?」

 

 

「喜んで・・・・」

 

 

 

二人は

言葉少ない無口同士・・

 

 

静まり返ったカフェに

あの時と変わらない時を刻む・・

 

 

「ところで、マスターは誰から珈琲を学んだんですか?」

 

 

「聞きそびれた・・・双子の爺さんだった・・・

どこに住んでるか知らんが・・・・」

 

 

「・・・亀爺さんじゃないですか?」

 

 

「そうだったかなぁ・・・」

 

 

 

京介は

呆れてしまった

 

 

「無口もいいですが、相手の事・・・

ちゃんと知ってください」

 

 

「お前だって俺の名前知らないくせに・・・」

 

 

「・・そうでした・・・・」

 

 

二人は

思わず笑い合った

 

つづく・・・・

 

 

こんにちは~(*´∇`*)

 

連休も終わり、いかがお過ごしですか?

コロナ対策での自粛も、頑張ろうと気を張らずに、肩の力を抜いて過ごすことがいいのでは・・・

っと、先行き不透明な今、思うのでした

 

大輔さん・・・昔の大旦那のように我を忘れてます

大旦那も人が悪い・・・行き先が分かったなら変化球じゃなく直球で言って欲しいものです

更に話は、続きます

 

では、文字制限に引っかかりそうなので・・・

 

 

マタネッ(*^-゜)/~Bye♪