「今日は久しぶりに気持ちの良い夕方になったなぁ」と、裕二は酒場へ向かって歩いていた
いつもこの時分から居酒屋の暖簾脇に石田ゆり子のポスターが貼り出される光景も何時とは無しに風物詩のようになったものだ
そう言えば昔、水野真紀の出たテレビコマーシャルに「きれいなお姉さんは嫌いですか?」と古典で習った反語形式のキャッチコピーがあったなぁと思い出した時に、ふとそれを言うのだったら「小汚いオヤジは好きですか」とも言い換えられると思いついた
要はそんなことはありえないと言う意味の反語表現であればいいのだ
来年度のお茶大附属小学校の入試問題に出したら面白いのではないかとも考えた
例えば「優しい女の先生は嫌いですか」と同じ言い方の文を「怖い雄犬」を使って作らせればいいのだ
おそらく進学塾のベテラン講師の裏を掻くいい設問になるはずだ
こう言う一見くだらなく思えるややこしい事を考えるのが一番のボケ防止になるはずだと、アホ臭いことばかり思いつく自分に言い訳しながら裕二は歩き続けた
そう言えば「田辺聖子」「瀬戸内寂聴」「林真理子」の三大女流作家とガップリ四ツを組むのが「水野真紀」「石田ゆり子」「広瀬アリス」になるのではないかと閃いたが、こんな事を呟いたのを誰かに聞かれたら警察に通報されるかもしれんと、チクリの流行る今の世間を嘆いたりもしていた
そうこうしている内に裕二は店の暖簾の前に辿り着いた
そして暖簾の横に貼ってあるポスターの石田ゆり子に向かって一言挨拶をした
「ゆり子ちゃん」
「わんばんこ!」