不浄王を前に置き、その後ろでふんぞり返っていたグール子だったが、戦場の雰囲気が変わったことに気が付いた。
巨人の兵隊がいなくなった・・・あれ?あれは?
白い聖衣に金糸の刺繍。それでいて各所に赤い線が引かれているものを着て、頭には聖職者がよく被る帽子。どう見てもやさぐれた感じのスキンヘッドジジィ!なんだけど、つやつやの肌も気になる・・・ニカリとむき出す白い歯がいやらしく感じる。生理的には苦手な部類の、私脱いだらムキムキマッチョなんです系の輩だと思われるそいつ。うん、聖職者だよね。それも高位の・・・そいつは何やら持ち手が鎖になっている入れ物をぶんぶんと振り回しながら『光あれ!!不浄なるモノよ消え去るがよい!!』とか言って不浄王に近づいてきた。何やら苦しむ不浄王。
『ヤバくね?』と、思ってるうちに強烈な光がその聖職者から不浄王に・・・おい!不浄王って神クラスなのに、その光はあっさりと不浄王を浄化してしまった。
こりゃヤバい。
私は左の小指を嚙み切り、それをキキに渡すと『キキ、悪いけどこれ持って逃げて。あ~あぁ~、販売会に新刊出すのこれでダメになるのかぁ~嫌だなぁ~・・・まぁ、仕方ない、キキ任せたよ!!』と、スッと後ろを向いて聖職者の方に向かう私にキキからの『先生!』と呼び止める声が聞こえたが、後ろを向いて軽く小指の短くなった左手を振るだけにしておいた。
『あんた何者?不浄王をそんなん簡単に消すほどの祈念や法力のある聖職者なんていないと思うんだけど?禁忌の関係者かなんか?』と、禿げた聖職者を目の前に置きグール子が吐き捨てるように言った。
『ふぉふぉ。わたくしはシスタス大司祭。お前ら魔族を滅ぼすものだ。』と、聖職者は大仰に胸をはり経典を見せびらかし鎖付きの盛衰入れを振り回しながら言う。
ウザい!!ひたすらウザい!!神を褒め称える言葉をつづけ、さらに自身の輝かしい経歴、もりにもってるだろう話を朗々と聞かせてくる。
しかし、グール子はコイツに違和感を感じていた。
『あんた精神汚染効いてるよね?』と、たずねてみる。
『そうか、これは貴様がしているのか。』
『おかしくならないの?』
『別に、私には過ぎてきた経験ぐらいにしか感じない。もっと強烈な刺激が欲しいぐらいだ・・・これくらいでは、そよ風に当たっているようなものだ。もう少し強い方が気持ちが高揚すると言うもの。』~~~~~ウザい!!ダメだコイツ!!!いや、ネタが向こうから飛び込んできた感じか??でもさぁ~過ぎてきた経験って・・・普通、このレベルの精神汚染喰らったら頭ぶっ壊れますよ!!なんで平気なんですか?・・・つまりコイツもっと酷いことしてるって事か、もしくは経験してるって・・・それでこの力を得たなんて・・・ことはないかな?
『あんた・・まさか?・・・・』
『魔王よこの地から消えうせるがいい!!』といいつつ《光あれ》を唱えた。
グール子は、光の中にそして消えていった・・・
離れた場所。
時も少し戻す。
宙に浮き戦場から離れたアリスとメアリーとクロだ。
アリスが左手でメアリーを抱え空を飛んでいたが、巨人たちの攻撃も届かなくなったので、生体鎧をしまった。
メアリーにごつごつ当たって鎧が痛いと文句を言われたからだ。
『もう、敵の攻撃は届かない!ヨンヨンに向かうぞ。』と、アリス
クロも深い息とともに生体鎧と武器を収納する。
『うん・・』アリスから変な声が
アリスに抱かれたままモゾモゾと動く存在、メアリーだ。
『何をしている?さわるな・・・あっ』
『ええモノお持ちですなぁ~だんなぁ~』(モミモミ)
『よせ!ボタンを外すんじゃない!!』
『い~~~~や~~~苦しそうだったので~』(モミモミ)えへえへと笑いながらメアリーが・・・
『手を入れるんじゃない!よせそこは・・・あぅ・・・・』おやん、何かが指に触ったぞ・・・これは?アレか!と何故か興奮した様子のメアリーがそれをつまむように指で挟むと
『あっ!!!』と大きな声でもだえるアリス・・・が、思わず自身の胸を庇うように・・・
『あ』短いメアリーの声に続き『あ~~~~~~~~~~~!!!』と、叫び声を上げながら落下するメアリーだった。
アリスが思わず抱えていた腕を外してしまったためだ。
落下するメアリーを、ナイスな位置取りにいたクロがナイスキャッチする。
『アリス様!!手を離してはダメではないですか!メアリー様に何かあったらどうする気ですか?』と、ちょっとご立腹なご様子。
『しっ、しかしだな。あんなことされては・・・スマン』と、途中から謝るアリス
『メアリー様も、《王の進軍》で、つながっている状態なのですよ。皆が反応に困っているじゃないですか!』と、まっとうなお叱りが・・・しかし
(モゾモゾ)
『何をしてるんですか?』と、クロ
『ん?顔をうずめてみてる。』と、メアリー
『はぁ。』と、ため息をつくクロ『変なことしないでくださいよ、本当に落としたら洒落にならないんですから。』
『ね~、クロはなんでこんなに立派なものもってるの?』
『立派かどうかは知りませんが、魔界の連中の趣味で長い時間をかけて普通のエルフだった私たちはこうなったのでしょうね。まぁ、そうでない連中もいますが。』
ふ~んと言いながらクロの胸の谷間に顔をうずめるメアリー、スゥ~ハァ~スゥ~ハァ~と、香りをかいでいるのか呼吸をしているのかメアリーはまったり満足そうだ。
こりてないなこの人と思うクロだった。
暫くしてヨンヨンについた赫赫たる魔王の二人は、がに股でノッシノッシと歩きながら、ポーと機械公に命令をしながら指令室に向かうメアリーを見送った後、膝から崩れ落ちた・・・
その二人に、振り返ったメアリーが 『二人ともご苦労様少し休んでいてね。』といった。
動けんわい!と、2人が思ったのは《王の進軍》他のものに駄々洩れだったのは言うまでもない。
再び別の場所。
巨大なものと人サイズのものが戦っていた。
そう、ゴブリンキングとメカトンケイルのサイラスだ。
サイラスは戦闘モードに入ってる。
元々、頭が3つ腕は6本あったんだが、今は彼を取り巻くように47の首と94の腕が宙に浮き彼を覆っている。
そのせいで、こっちの攻撃は通用しない。
盾にするんだよそれを。
それが一斉に攻撃もしてくるしな。
浮遊する腕や頭をつぶしても、本体の背中・・・首の後ろの空間から補充される。
全体数は増えないみたいなので、決まった数以上は出ない決まりなんだろうな。
『しっかし、あいつら何やってんだか?』と、気が緩んでしまうわしだった。