アッシリア支配下のユダヤ人--トビト記(旧約聖書続編)から | ゆめが丘 随想

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(弁護士 亀井宏寿)

トビトは,シャルマナサルがアッシリア人の王であったときに,ティスペの地で補囚の身となった。(1-2) 私トビトは,(・・・)一緒に捕らえられてアッシリア人の地二ネベに行った兄弟たちや同胞者たちのために多くの慈善の業を行った。(2-3)

 

トビトは,メディア地方のラゲスにいる知人に「預けておいた」[貸し付けていた]お金を取り立てるように息子トビアに指示をします。(4-1) トビアは,天使ラファエルから,ラゲスは山の中にあり,エクバタナから2日の道のりだと聞かされます。(5-6) ラファエルは,トビアを護衛するために神様によって遣わされたのですが,この時点では正体を伏せています。

 

少年[トビア]は同行する天使[ラファエル]と連れ立って出発した。犬も出てきて彼等に付いて行った。(6-1)

 

トビアは,途中,妻となる女性サラを見出して結婚し,お金を無事に回収して,ラファエルやサラと共に父トビトが待つ家に帰り着きます。ラファエルとトビアは,先行して家に向かいます。

 

二人は一緒に先を急いだ。ラファエルはトビアに,「さあ,魚の胆囊を取り出しなさい」と言った。犬も二人の後から付いて来た。(11-4)

 

トビトは,トビアが地帰った魚の胆囊により,視力を回復し,112歳まで生きて,安らかに息を引き取ります。(14-1) トビトは,その際,息子トビアに対し,妻(トビアの母)が亡くなったら,妻子を連れてニネベを引き払い,メディアに移るように指示しました。(14-3,10) トビアは,これに従っていたので,後日,アッシリアが滅亡した時の難を逃れることが出来ました。(14-12,15)。

 

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イスラエル王国が滅亡した際,メソポタミアに補囚として連れて来られたユダヤ人の中には,比較的裕福に暮らすことが出来た人もいたようです。トビト記の記述から,そのような人々は,ニネベとエクバタナ(~ラグス)を往復することも可能であったことが分かります。

 

ところで,トビアの大旅行には,正体を隠した天使ラファエルの外,犬が同行していたようです。この犬は,トビアの旅行の始めと終わりの箇所で言及されているだけで,旅行中の動静についての記述は,全く見当たりません。警戒・護身のために用いられた番犬だったのでしょうか。或いは,忠犬ハチ公のような愛玩犬だったのかも知れません。リードなしに自由に動き回っていたのだとすると,中々優れた犬であったことになるし,余りその姿を想像出来ないが,リードを付けた状態で,馬やラクダと同じように移動していたのだったとしても,それはそれで立派なものだったと思われます。