それでは、オークス優勝に関する質問は以上となります。
「うん、ありがとう!」
『お疲れ様でした』
最後に、お二人にとって一番印象に残っているレースをお聞きしても宜しいでしょうか?
「印象に残っているレース?」
『それは…どのレースでも良いのですか?』
はい。当然ですがオークスでも良いですし、他の勝利したレースでも敗北したレースでも、デビュー前や練習試合でもご自由に回答してください。
「…なら、アタシはあのレースかな」
『自分も決まりました』
では、教えていただけますか?
「『高松宮杯!」』
高松宮杯…確かコスモドリームさんの引退レースでしたよね?
「そうだよ!」
『今ではG1高松宮記念と名前も開催時期も距離も短距離へと変更されましたが、コスモが現役の時はG2で芝2000メートルでした』
お二人がそのレースを選ばれた理由をお聞かせください。
「だって、あのレースはダイユーと一緒に走った唯一のレースなんだもん!」
『ダイユーとは、ダイユウサク。数年前に有馬記念優勝したウマ娘の事です』
ダイユウサク…存じ上げてはいるのですが、コスモドリームさんとダイユウサクさんはどの様な関係なのですか?
「従姉妹だよ!アタシの方が一日遅生まれなんだ!」
『そしてダイユウサクは自分の担当ウマ娘でしたから』
ダイユウサクの担当…しかし、コスモドリームさんとダイユウサクは所属チームが違ったはずですし、ダイユウサクさんの担当は別の方ですよね?
『これについてはややこしい事情がありまして…まずダイユウサクが所属していたチームのトレーナーは私の師匠で、自分も元々は師匠のチームに所属していました。しかし直ぐに独立してコスモの専門トレーナーとして二人三脚でやって行くことになりました。
とは言え独立後も師匠に色々相談などに乗っていただいたりなど師匠との関係性が続いた状態で挑んだオークスでコスモが勝利。ここから軌道に乗ると思っていたのですが、惜しいところで勝てないレースが続いて、更にコスモが怪我で長期療養することになりました』
「あの時期は辛かったよねぇ。ダイユーも良くない噂があったりしたし、このまま引退するしかないのかな?と毎日思っていたよ」
『復帰出来たのは翌年の4月の終わり頃。出走したOPレースで勝利こそしましたが、怪我以前とは比べ物にならない程にキレが無くなっており、本格的に引退を考え始めた頃でした。師匠から『ウチのダイユウサクってウマ娘が今度から芝に挑戦するんだ。お前のところのコスモドリームと練習させてくれ』と言われたんです』
「それ聞いてダイユーと練習出来るのっ!?ってなって、毎日ダイユーと沢山練習したんだ!」
確かに特殊な経歴ですね。それとコスモドリームさんとダイユウサクは従姉妹との事でしたが、入学前から仲が良かったのですか?
「うん!入学前はいっぱい遊んだし、いっぱい走った!入学後は顔を合わせる機会が減っちゃったけど、久々に会ったのにダイユーは何も変わって無かったから直ぐに打ち解けたよ!」
『ダイユウサクの成長は凄まじく、コスモとの練習を行ってから1着2回、2着2回と完全に覚醒。暫く後に一度だけダートレースを走ったのですが、その時には10着。次に二桁順位になったのは引退前のニレースのみで、ダート適正を捨てた代わりに芝適性が開花したのは、この期間の練習の成果だと思います』
なるほど。ダイユウサクさんにとって、コスモドリームさんとの練習が大きな分岐点だったのですね。
「でもね、アタシは宝塚記念を走ったんだけど全然走れなくて…もう、終わりだねってトレーナーと話していたらダイユーから『私とレースで勝負しろ』って言われたんだ!」
『ただ、この地点ではコスモはオープンクラスなのに対してダイユウサクは準オープンクラスにすら達していない状態。格上挑戦制度があるので理論上は対決可能ではあったのですが、そうなるとダイユウサクが戦うのはコスモだけではなく他の相手も全員格上になる訳です。文字通り格が違うレースへの出走表明をしないといけないのですが、師匠が『ダイユウサクを高松宮杯で登録しておいた。お前もコスモをこのレースに出せ』とサラッと言われましてね』
「結果はアタシ9着、ダイユー7着で惨敗。後少しとかじゃなくて、ニバ身差で全然追いつけなかった。つまり今のダイユーはアタシよりも強くなったんだって分かったから、『アタシはG1取ったから、ダイユーもG1勝ってね!』ってアタシの夢や思いを安心して託して、最後は笑顔で引退出来たんだ!」
夢を託す、ですか。コスモドリームさんは本当に強いウマ娘だったんですね。
『本当にそう思いますよ。そして担当がいなくなった自分に対して師匠が『うちのチームに戻ってお前もダイユウサクの面倒を見ろ』と、またしても強引な展開になりまして…1人のウマ娘にメイン1人とサブトレーナー2人が付くなんて、あまり聞いた事のない組み合わせでダイユウサクを鍛える日々が始まりました』
私も色々な人に取材してきましたが、3人で1人のウマ娘を担当は聞いた事がないです。
『流石に自分もダイユウサク専属って訳では無かったです。それに元々サブトレーナーをしていたヤツとは学生時代から面識があったので、結構気軽に色々話し合えましたね。
ただ、どうにも自分の担当しているウマ娘に対しての思い入れが強くなりやすいところがあったので、それを宥めるのには毎回苦労しましたよ』
過剰かと思いましたが、案外3人いた事でトレーナー間のバランスが取れていたのかもしれませんね。
「うん!アタシがそこにいなかったことに嫉妬しちゃうくらいにね!」
※企画『本人と共にG1レースを振り返る』にて、コスモドリームとそのトレーナー回のインタビュー後に個人的に質問した際にいただいた回答である。
因みに上司には未報告であり、今まで個人的に行っていたインタビューの存在がバレて怒られないかヒヤヒヤしている。