昇天 | もうすこし、生きてみようじゃないか・・・
 僕はマンガ 『北斗の拳』 が好きで、当時はよく読んでいた。特にそのマンガの中に出



てくる 【ラオウ】 というキャラクターが大好きで ラオウが 「我が生涯に一片の悔い無



し!」 と叫び、拳を天に突き上げ絶命したシーンは、今でも強く心に残っている。



 数年前、その ラオウ のフィギュアが発売された。僕はさっそく買い求め、あの 「我が



生涯に~」 のポーズをとらせ、トイレが寂しかったのでトイレに飾った。いい塩梅である。





 それから数日後、地震があった。それほど大きな揺れではなかったが、パニックにな



った僕は、ロビを抱きかかえ、部屋の中をパンツ一丁であたふたしてしまった。



しばらく経ち揺れもおさまり、何とか落ち着いた僕は、トイレに入った。 そして何気なく



ラオウを見上げた。(あれ?いない) そこにいる筈のラオウの姿がなかったのである。




(あっ、さっきの地震で落ちたんだっ) と咄嗟に思った僕は辺りを見回した。 そしたら




なんと、ラオウがあの 「我が生涯に一片の悔い無し!」 のカッコいいポーズのまま便




器の中に水没していたのである。「ノォォォォォォ!!」 又もや あたふた してしまったわ




けだが、この場合いくら あたふた してもしょうがない。やる事といえば一つ、僕は意を決




し、便器の中に手を突っ込み、ラオウを救出した。




もうすこし、生きてみようじゃないか・・・



しかし悲しい事に、ラオウの右足が付け根から折れてしまっていた。僕は何とかラオウの




胴体に右足を添えるようにして立たせ、その後も飾っていたが、バランスが悪くすぐに倒




れ、三度もラオウが便器の中に投身自殺を図った為、押入れに強制収容した。




 あれから数年、ラオウのことなどポッカリ忘れていたが、つい先日、押入れの掃除をして




いたら、ラオウの右足が出てきたので思い出し、ここに書いた次第です。





                                                亀久