建築家の気質 | かめ新聞

建築家の気質

 『五重塔』という小説が幸田露伴によって明治中期に書かれている。江戸は谷中感応寺五重塔の建設を巡る話になる。技量はありながらも世渡りが下手で「のっそり」とあだ名される大工十兵衛。こののっそりが実に面白い。今の言葉で言えば、すべて逆、逆の行動をとっていく。

 塔建設の噂を聞くや、親方源太をさしおいて上人様(施主)に我こそはと模型を作り直談判する。義理と人情の江戸っ子として描かれる親方源太は一緒にやろうと弟子を気遣うが、のっそりは一人じゃなきゃ意味が無いと断ってしまう。上人様の理解あって、源太は裏方にまわりのっそりを支えることになる。ところが棟梁となったのっそりはこの源太のフォローさえも、余計な気遣いはいらぬと拒否してしまう。
 完成した五重塔に猛烈な台風が襲う。上人様の使いがのっそりを呼び出すが、見に行くまでもない、釘一本抜ける事はないとまたも拒否。そんなのっそりの貧乏家屋は屋根も半分吹き飛んでいるというのに。少しでも壊れようものなら自ら死を覚悟している迫力であった。

 文学的価値には門外漢だが、リズム感あふれる文体がまたいい。名誉欲や金銭欲よりも創作欲が勝っているところもいい。やりたいと思ったらここまでやらなきゃと尻を叩かれる。