流行建築通信8/うそ | かめ新聞

流行建築通信8/うそ


 折れた煙草の 吸いがらで
 あなたの嘘が わかるのよ

 子どもだった頃、この歌の世界が、僕にとってのあこがれの大人そのものだった。中条きよしの名曲「うそ」(1974年)の歌いだしである。こうして時代は徐々にさかのぼっていってしまう。
 JIA(建築家協会)主催の「かつて住宅には思想があった・大高正人が語る前川國男の住宅(自邸)」を聴講した。前川國男は戦中戦後を生き抜いた数少ない本物の建築家である。この歌と同じように、この時代の建築家にも大人の世界をいつも感じる。別にノスタルジーではない、ロマンティックなのかと言えばよくわからない。
 このあこがれは何だろうと思う。僕がその時代を知らないというどうしようもない事実。自分の知らない世界、体験できない世界はどうにも魅力的なのだから仕方ない。
 この講演会のタイトルに反して、大高さんの次の言葉が印象に残った。「前川自邸は前川さんそのものなんです」。これには進行役の阿部仁史氏も言葉を失った。つまり前川自邸は思想なんぞではなく、前川自身なのだと。これはよかった。以前、忌野清志郎が「清志郎さんにとってロックとは何ですか?」と聞かれた時に「俺そのものです」と答えていた。そう言い切れるだけの人間や建築がひとつの到達点かもしれないし、その態度にあこがれを感じているのかもしれない。