雀組ホエールズ第10回公演 『稚拙で猥雑な本能寺の変』 | 落語・ミステリー(もしくは落語ミステリー)・映画・プロレス・野球・草バンド活動のよもやま話、やってます。好きな人だけ寄ってって。

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鎌田善和です。売れてない分時間はありますので、遅まきながらブログ始めました。記事は落語やミステリーが中心ですが、映画・野球・プロレス・草バンド活動(野球でいう草野球の事)もリストアップしておきます。気になる、興味がある、と思う人にだけ伝われば。

 といったわけで(何がじゃ?!)、昨日観劇してきました『稚拙で~』について書こうと思います。

 ところで、早速余談になります。ブログをお書きになられた経験のある方にはお分かりだと思いますが、ブログには”テーマ”の枠があって、そこには必ず「メインとなるテーマ」がまず表示されます。僕の場合それは「落語ミステリー」です。ところがこのテーマで書かなくなってから1年以上経つのに、まだこのページを開けると必ずそのキャッチが表示されます。これ、相棒君の優しさなのか、それとも嫌味なのか。記事の本文を書く前に、それが気になって・・・。

 さて、寄り道はそれくらいにして、今日の記事に。

 いや~面白かったですよ、この舞台。当日戴いたチラシに主宰の佐藤雀さんが『(史実が伝わっていない本能寺の変だから)そこで今回の雀組ホエールズ公演は愛と勇気と笑いを兼ね備えたフィクション満載の「本能寺の変」をやろうと思ったわけです』(カッコ内は僕が内容を要約した表記です。もし佐藤さんの意図を正しく代弁していなかったらごめんなさい)と書かれた通りの舞台になっていました。そもそも史実って何なんでしょうかね。それは大概の場合、時の為政者が都合よく伝えるものなのでしょうから、真実とは限りません。場合によっては真実とは真逆の可能性だってあります。ヒラリークリントン氏に勝ったトランプ氏がどういう史実を残すのか、おそらくそれ、僕は見届けられないでしょうがね、楽しみではあります。

 さてここからは、いつもの通り、これから観劇される方はお読みにならないで下さい。前回公演の『イヌジニ』に関して程はネタバレを気にしなくても良さそう(そもそもこの舞台、題名で内容の見当がある程度つきますからね)だとは勝手に思っているんですが、それでもやっぱり観劇はその瞬間の感激を(今回の記事で唯一の笑いどころですよ)大事にして戴きたいと僕は思っています。余計な先入観なんかは観劇の邪魔にしかなりませんから。

 さて今回の舞台で秀逸なのは、配役です。織部さんと明神さんは第6回公演のまま、愛と勇気の伝道師であって我々が思う常識人代表である織部さんと常識の欠けた(このキャラクターがストーリーの展開に深く関わってくるところがまた凄いのですが)狂言回しである明神さんがさらにデフォルメされていて、にも拘らずそれを演じる阪本さんと持永さんがとても自然で、それが舞台を成功させているのは言うに及びませんが、今回特筆したいのは織田信長を演じられた日出郎さんです。おそらく作者の佐藤さんはこのキャスティングをされた時点で、この舞台の成功を確信されたと思います。もちろん他の役者さんが皆さん巧いし(特に森蘭丸の妖艶さと言ったら!)、それがあってこそ成立するには違いありませんが、とにかくこの織田信長の人物造形は飛び抜けています。

 NHKの大河ドラマを筆頭に、これまで何度も演じられてきた信長ですが、僕の独断で言えば今回の信長こそ信長です。この時代での立ち居振る舞いもさることながら、佐藤版本能寺の変の決着のさせ方、その後の(2006年以降の)生き様など、「本能寺では亡骸が見つかっていない信長って、結局こうなったんじゃないの」と思わせられる、奇妙だけれど充分な説得力がありました。ここでも余談になりますが、NHKでは絶対に登場させられない奇抜すぎる信長と妖艶すぎる蘭丸は、おそらくこの舞台以外では在り得ないですが、この舞台では、このお2人以外に在り得ません。

 それから、舞台装置が、かつてNHKで放映されていた『プリズナーNO.6』のタイムトンネルを想起させる(これは僕だけの感想かも知れません)のも良いですね。他の場面では、それが背景になっていても一向に邪魔にならないほど”主張”がないのに、タイムスリップをする段になると「さもありなん」と思わせられる。『プリズナーNO.6』に熱狂していた世代(ちょうど僕が中学生の頃だったと記憶しています)の心は鷲掴みにされます。

 さらに、この時代あたりへのタイムスリップと言えば、映画好きとしてはどうしても、1980年のお正月映画として封切られた角川映画の『戦国自衛隊』に触れない訳には行きません。この映画、とてもお金をかけて大スペクタクル映画として作られたのですが、僕が記憶している中で最も残念なのは、千葉真一さん演じる主役の”伊庭”という人物の性格が揺れてしまうことなのです。確かに戦闘シーンなどは凄かったなあと思うのですが、それら戦闘シーンを重視するあまり、”伊庭”さんの信念が、その場面の都合に合わせて行ったり来たりしてしまう。まあ実際に、本当にタイムスリップなんかを体験させられてしまうと、心は千々に乱れて当然なのかもしれませんが、それを観ている方は、違和感というかそれまでの人物像との齟齬というか、そういうものを感じてしまいます。その点、この舞台では、織部さんも明神さんも全くブレていない。だから佐藤さんの「愛と勇気と笑い」が実践できたのだと思います。

 最後の舞台挨拶で、雀組ホエールズさんの信条として、「こういう小劇場の舞台を楽しむ切っ掛けなるべく」という趣旨を盛り込んでおられましたが、まさにだから『イヌジニ』があって『稚拙で猥雑な~』があるんですね。次回の公演は来年2月に新宿眼科画廊(僕が知っている日清食品の近くだとすると、物凄く狭いんですが、大丈夫なのでしょうか)で行われる『広域指定集団雀組 第二幕』ですが、今年のこの1回目にインフルエンザを罹患して観劇出来なかった僕としては、またまたふり幅の広い”雀組ホエールズ”を拝見(体験?)できそうで、今から楽しみです。