相次ぐ過労死や「働き方」関連法施行に伴う4月からの残業規制強化を受け、大手企業は労働時間短縮への取り組みを本格化し始めた。

だが、テレビ番組制作会社で働いていた東京都内の男性Aさん(25)は、その影響で会社を辞めることになった。

なぜかー。

 

「社会問題を扱う番組に関わりたい」

2016年春、Aさんは大手放送局の番組で使う映像づくりを請け負う社員数十人の制作会社に就職。

撮影前の下調べや撮影後の編集を担うアシスタントディレクターとして働き始めた。

長時間労働は覚悟していたが、「過酷さは想像を超えていた」。

「去年よりきつい」

先輩社員は漏らした。長時間労働に拍車をかけていたのが大手民間放送局からの要請だった。

ゴールデンウィークに社員を休ませるため、連休前に素材映像を納めるように求めてきたのだ。

15年に電通社員が過労自殺するなど過重労働は社会問題になっている。

 

Aさんらは1週間以上かかる編集作業を5日で終わらせなければならないなど、納期は短縮された。

1日あたりの作業は長時間化し、Aさんは午前5時半から翌日午前3時まで働くなど激務に追われた。

しかも、別の番組向けの仕事もあるため、連休も満足に休めなかった。

 

大手放送局各社は自社の労働時間短縮のために番組制作の外部委託を増やしてもいた。

「自分の所属する制作チームも新たな番組を請け負い、前より仕事が増えていた」。

受注元の大手民放に足を運ぶと、社員に残業削減を呼び掛けるポスターが貼ってあった。

 

上司に「休ませてください」と頼むと胸倉をつかまれた」

「俺が休めないのにお前が休むのか」

限度を超えた仕事量に職場も荒んでいった。

Aさんは

「今考えると、上司も被害者だったのかも」

 

Aさんは心身を病み、翌年10月に会社を辞めた。

月間の残業は過労死ラインの100時間の3倍となる300時間に上る月もあった。

42日連続で勤務したこともあった。

記憶ははっきりしないが、携帯電話の通話記録を見たら、辞める直前に自殺防止の相談窓口に6回も電話していた。

 

「しわ寄せ残業」は映像業界に限らない。

経済産業省の調査では、中小企業の6割が取引先の「働き方改革」の影響で労働時間が長くなったと回答。

「年末年始に注文が殺到し、正月三が日も操業した」(印刷会社)

などの声もあった。

 

大手に罰則付きの残業上限規制が4月から導入(中小は来年4月から)されるのに伴い、政府は業界団体を通じ、下請けの長時間労働につながる取引を押し付けないよう要請した。

だが、罰則はない努力義務。

実効性は定かではない。