大学病院などで診療にあたっているにもかかわらず、研修中であることなどを理由に給料が支払われない若手の医師や歯科医師。
彼らは「無給医」と呼ばれているが、国は長年その存在を否定してきた。
1950年代には大学の医局の権力構造を象徴する問題として学生運動のきっかけともなったが、国はその後、若手医師の処遇は改善されたとして、長年その存在を否定してきた。
平成24年に行なわれた調査でも
「無給医は存在しない」としている。
しかし、今年1月から文部科学省が全国108か所ある医学部と歯学部の附属病院を対象に調査したところ、無給医が今も存在することが確認できたという。
この調査結果を踏まえ、文部科学省は近く無給医の存在を認めるとともに、その数が少なくとも全国およそ50の大学病院で、合わせて2000人を超すことを明らかにする方針だ。
国がこうした無給医の実態を明らかにするのは今回が初めてだ。
意思を目指す学生は医学部で6年間学んだあと、国家試験を受けて医師免許を取得する。
初期研修と呼ばれる最初の2年間は月給30万円ほどが手当されるが、その後も大学の医局に所属しながら「大学院生」や「医局員」などの立場で数年間にわたり若手医師として診療などの経験を積むケースがほとんどだ。
医局は教授を頂点とし、准教授、講師、助教と連なるピラミッドのような構造となっていて、最も下に位置する大学院生や医局員などは、医師として診療にあたっていても無給だったり、わずかな給与だったりすることがあるという。
しかし、医局に所属する若手医師は、専門医や医学博士の資格などを得るためや、関連病院に出向する際の人事権などを握られているため、現状の制度に対して医局の上司らに疑問や不満の声をあげづらく、問題が顕在化しなかったとみられる。
首都圏の大学病院で働く30代の男性医師は、朝から深夜まで外来診療や手術などにあたっているが、わずかな手当以外は給料をもらっていないという。
男性は医学博士になろうと大学院に進んだが、実際は研究に充てる時間はほとんどなく、他の医師と同じくフルタイムで大学病院での診療にあたっている。
しかし、給料はもらえず、健康保険や雇用保険などにも加入できない。
しかも大学院生であるため学費を払う必要があり、週1日、外部の病院でアルバイトをして収入を得ている。
所属する病院は文科省による調査の後、全くの無給状態から月に数万円程度が払われるようになったものの、実際は毎日働いているのにもかかわらず、大学には勤務は1日だけというウソの契約書を書かされたという。
男性は
「勉強中だからお金をもらえなくても当然という事がこれまでまかり通ってきました。
しかし、実際、医師として行っていることは通常の大学病院の業務です。
当たり前にやっていることを当たり前に認めてほしい」
と話している。
また、別の病院のある若手医師は
「私の大学では医師個人には調査しておらず、調査結果の2000人は氷山の一角ではないでしょうか。
国の調査後も待遇改善の兆しはありません。
この調査で終わりにせず、行政には適切に対応してほしい」
と訴えている。
国が初めて無給医の存在を認めたことについて、医師の働き方に詳しく厚生労働省の『医師の働き方改革検討会』の委員も務めた特定社会保険労務士の福島道子さんは
「出るべくして出た結論だと思います。
今まで手を付けられなかった医療という分野にさまざまな手が入り、医師は聖職ではなく、一人の労働者だという考え方が広まり始めたのではないか。
昔からこうだから同じようなことを繰り返すという考え方はもう通らないと思います」
と述べている。
そのうえで
「調査されて実態がある程度把握できた今を好機ととらえるべきです。
これからの将来を背負う若い医師が将来に希望を持てるよう、国、医療機関、国民も含めて総力を挙げて解決策を考えていかなければならない」
と指摘している。
