「私が若かったころ」というこのメレは、レナ・マシャードが書いたものだ。
十二、三歳の頃から、義母のマリー・デーヴィス・ルー・パンにおとなの女性のような恰好をしてみたいとせがんでいたレナ。
つまり、コルセットでウェストを締め上げ、フリルのついたペチコートにロングスカート、ストッキングとハイヒール、ギブソン・ガールのようなふっくらと膨らませた髪型、ツバ広の帽子と長い手袋という、当時のおしゃれの先端をいくファッションを夢見ていたのだった。
十六歳になると、その願いはかなった。
セントルイス・カレッジのお祭りで晴れ姿を披露することになったのだ。
そのころ、彼女はすでに五フィート十インチと背が高く、長い脚を持ち、実際の年齢より大人びて見えた。
そして、ハイヒールときれいなドレスを身に着けると、まるで街で見かける大人びた女性のようだった。
ルー・パンの姉妹やその家族はフロントポーチに陣取り、泥だらけの砂利道を出かけて行く姿を見守っていた。
「街には何があるって言うの?」と、笑いながら。
路面電車に乗り運賃を払い席にすわろうとして、レナは気づいた。
クジラの骨で作られたコルセットが邪魔をして、ウェストを曲げることができなかったのだ。
それは彼女の脇に食い込み、あばら骨を締め付け、呼吸することさえ難しくしていた。
車掌の「お座りください」という言葉に彼女の出来ることはひとつ、「ああ、次の停留所で降りますから」の言葉だった。
おかげで、彼女は目的地までの長い道のりを午後の暑い最中、歩かなくてはならなかった。
会場に着いた頃には、汗だくになり、靴ずれができていたが、男性の目線を集めているのに気づき、しばらくの間、気分の悪さも忘れた。
しかしそれはつかの間のこと。
いろいろな痛みが大挙して襲ってきた。
エレガントに背筋をまっすぐに伸ばして歩き続けようとしたが、帽子は一方に滑り落ち、髪型が崩れ、汗が頬を流れ落ちて行った。
彼女は踵を返して、家へと向かった。
半分ほどの道程を戻ると、彼女は壁に寄りかかり、靴を脱いで少しの間、休もうとした。
これが間違いだった。
靴を履きなおそうとすると、足が膨らんで入らなくなっていたのだ。
彼女は手袋を外し、靴を持ち家へと向かった。
しかし、服装は一足ごと、乱れて行った。
家では、母親と親戚たちが彼女の華やかなる凱旋を見ようと、ポーチで待っていた。
しかし、彼女たちの見たのは乱れた髪型にストッキングだけはいた、汗びっしょりの女の子だった。
彼女はスカートの裾を片腕で持ち上げ、靴と手袋と帽子をもう一つの肩から吊り下げた姿で帰ってきた。
ルー・パンは愕然として言った。
フペコレ・カイカマヒネ(鼻垂れ子供)のくせに大人の女性の真似をして」と。
レナはこの事件を忘れなかった。この時の彼女の様子を家族に面白おかしく、何度も話して、皆を大笑いさせた。
覚えているわ
若かったころのこと
まだ、鼻垂れっ子と呼ばれていた
でも、今、私は美しい若い女性になったのよ
私は十分にたべさせられてふくよかに育ったわ
チュチュ(祖母)がポイをたくさん作ってくれ、
満足するまで食べさせてくれたの
そんな祖父母の愛に包まれて
さあ、私も大人になったわ
皆が言うの「彼女はどこの娘?
微かにオリーブオイルの香りを漂わせている
僕は完全に彼女に魅せられたよ」
お話はこういうこと
それは若いころの思い出
まだ、鼻垂れっ子と呼ばれていた
でも、今、私は美しい若い女性になったのよ
この事件から二十年以上たって、アンティ・レナは『クウ・ワー・リイリイ』を書いた。
レナは観客を前にして、三番で、大きなお腹を抱えるジェスチャーをして、妊娠した女性の真似をしたものだった。
つまり、異性に惹かれるあまり、望むもの以上のものを得てしまった女性の姿は、年長の観客たちには大いにうけた。
人々はアンティ・レナのことを威厳のある、堂々とした女性と思っているが、この話からはそのユーモアのセンスや物まねを愛した彼女が感じられる。
彼女にはひょうきんな部分があることも。
♬ Ku'u wa Li'ili'i by Raiatea
参考資料