儚く舞う 無数の願いは
この両手に 積もってゆく
切り裂く闇に 見えてくるのは
重く深く 切ない記意
色褪せてく 現実に揺れる
絶望には 負けたくない
私が今 私であること
胸を張って 全て誇れる!
放て! 心に刻んだ夢を
未来さえ置き去りにして
限界など知らない 意味無い!
このチカラが光散らす
その先に遥かな想いを
GONG 第七話
only my railgun
『星をも切り裂く剣、エネルゴンセイバー!!』
オーディーンが右腕を翳すと、三機の小さい飛行機が集まり一つの剣となり金色に輝く。
「何て大袈裟な口上だ!」
『そう思うならば、受け止めてみよ!』
光の剣と化したエネルゴンセイバーが振り下ろされる瞬間、悪寒を感じたブラックFのシェイドは横っ跳びしてギリギリで躱す。
直後、斬り付けられた床は10m以上はある亀裂を生じ、続いて爆風が吹き上がる。
「…何て威力だ…」
『全くだな…』
冷や汗を流すシェイドが呟いた言葉に、ゼファーも同意する。
「…君がソレを言うのか!?」
『初投入なのだ、貴公との全力での戦いに向けて開発を前倒しして用意されている』
「あからさまに試作品じゃないか!」
『マスター! コチラから仕掛けます!!』
シェイドの叫びと同時に、オーディーンの背後へと回り込みながらジゼルが誘導砲台であるアローヘッドを飛ばす。
『余の領域で、その程度の武装が通用するとでも? 無駄だ!』
回転しながらオーディーンを取り囲む様に飛ぶアローヘッド。
しかし虹色の魔力光の奔流が、砲台の配置を不安定にする。
「そのフィールドを切り裂く!」
シェイドが右腕のアダーガを構えると、手甲の中から刃が展開し光が灯る。
「フィールドディバイダー!」
跳躍してオーディーンの上空から虹色のうねりを引き裂いた。
『余の結界を無効化した!? 流石だな!!』
『スパイラルフォーメーション!』
ジゼルの号令と共に、アローヘッドが急降下して再びオーディーンの足元周囲を旋回しながら攻撃を放つ。
『再度言おう、その程度の武装は通用せん!』
ゼファーの周囲を囲むアローヘッドの内、三機が円運動から外れる。
「魔道騎兵!?」
それは小型の車から変形した魔道騎兵だった。
その三機は、引き続き残る三つのアローヘッドも蹴り飛ばす。
『返礼せねばな!』
その言葉と同時に黄色い小型の車が右肩に合体、その内包したエネルギーがオーディーンの全身の火器が展開。
『マックスファイヤー!!』
ゼファーの声と同時にそれぞれの火器が一斉に発射された。
途端にジゼルの周囲が爆炎で包まれる。
『…ありがとうございます、マスター!』
爆炎が収まった時、ジゼルの正面には杭を地面に突き刺して固定された盾形態のアダーガがあった。
『この一斉射に耐えるとは、何という耐久性の盾なのだ!?』
「おやっさんの鍛えた盾は、伊達じゃない!」
オーディーンの背後へと何時の間にか跳躍したシェイドが、アダーガの残った左脚を振り翳す。
「アーマァァブレイカァァァァ!!」
身体を捻り一回転する事で遠心力を加え、更に空間湾曲効果と対物浸透効果を持った蹴り。
しかし―
『余の守りを甘く見たな!』
「何っ!?」
シェイドの蹴りを受け止めたのは、オーディーンが掲げた左腕にある金色に輝く盾。
先程現れた三体の魔道騎兵が変形合体した物が、シェイドの攻撃を完全に防いでいた。
『超新星の爆発にも耐えるエネルゴンテクターだ!』
「これも大層な肩書だ!?」
『だが事実、この盾はエネルゴンセイバーですら受け止められる!』
そのままオーディーンはエネルゴンテクターを振り抜いてシェイドを壁へと吹き飛ばす。
「ガハッ!?」
『マスターッ!? このぉっ!』
壁へと叩き付けられめりこんだシェイドが衝撃で呻く。
追撃をかけようとするオーディーンを止めるべく、ジゼルは右腕にバスターランチャーを呼び出し砲撃戦用のC型アーマーに換装して一斉射撃を開始した。
『その程度の火力では通用せんと言った!』
ジゼルの放つショルダーキャノンも脚部ミサイルも左腕のマシンキャノンも、オーディーンの虹色の光に遮られて届かない。
『ならば、このバスターランチャーで!!』
他の武装を撃ち尽くした直後、チャージを終えたランチャーから閃光が迸る。
しかし虹色の奔流が厚みを増し、やはりビームはオーディーンに傷の一つも付けられ無い。
『無駄だと―』
『思ったでしょう!?』
バスターランチャーを受け止める為にカイゼルテリトリウムを集中させたゼファーだったが、その分他の意識していない防御幕が薄くなる事に気付いていなかった。
ジゼルは、その性質を見抜きカイゼルテリトリウムの中へアローヘッドを突入させる。
『くっ、この様な手を使うとは! だがオーディーンの装甲は―』
『確かに装甲は堅そうですが!』
ジゼルの狙いは唯一つ。
ビーム刃を展開したアローヘッドが、オーディーンの左肩と左肘に殺到する。
『何を!?』
『装甲の無い関節は別です!』
『小癪な真似を! 今一度、喰らうが良い、マックスファイヤー!!』
再度の一斉射撃がジゼルを襲い、爆炎が噴き上がる。
しかし、ジゼルは盾形態のアダーガで直撃を防いでいた。
『マスターの盾は、この程度の火力は物ともしません!』
そう宣言したジゼルが全弾撃ち尽くし煤けた用済みの砲撃戦用アーマーをパージ、続いて空戦アーマーを装着して飛び立つ。
『マスター、お返しします!』
ジゼルがアダーガを放り投げるが、そこには誰も居ない。
『何処に向かって―』
「良い位置だ!」
『何っ!?』
アダーガが突き刺さった投下地点に誰も居ないと思っていたゼファーの予想に反して、壁にめり込んでいた筈のシェイドが飛び込みながら盾を回収。
そのシェイドも創生の書から取り出した銃火器を明後日の方向へ投げるが、オーディーンを軸に回り込みながらジゼルがキャッチする。
「動きを封じる!」
『了解! 牽制します!!』
アダーガを変化させつつチェーンバインドを放ちながらオーディーンに接近するシェイドと、時計回りにマシンガンを撃つジゼルの連携。
大した打ち合わせも無く、躊躇も無い二人の動きを見てゼファーは思わず感心していた。
(言葉も念話もさして必要とせず、お互いへの信頼だけで人は…ここまで分かり合えるか?)
近接戦はエネルゴンセイバーで薙ぎ払えばジゼルが手元を集中砲火で軌道を逸らし、シェイドはソレを見越してギリギリに回避する。
重火器での斉射もシェイドの張る障壁を巧みに利用し、フェイントすら織り交ぜるジゼルの機動力が着弾を許さない。
至近を縦横無尽に跳ね回るシェイドと高速で旋回するジゼルに、オーディーンの巨体は翻弄され続ける。
『ならばブラックホールすら貫くエネルゴンブラ―』
『そう来ると思いました!』
痺れを切らして新たな魔道騎兵を三体召喚したゼファーだったが、ソレは既にジゼルに察知されていた。
出現した瞬間に一体だけ、狙いを絞り突撃したジゼルが体当たりして壁へと押し付ける。
『何っ!? この―』
慌ててエネルゴンセイバーを振り上げようとしたオーディーンだったが、何かに引っ掛かった様に身動きが取れない事に気付く。
ソレまでは気付かなかったが、体中と周囲へ幾重にも細い線が張り巡らされていた。
「ジゼルの邪魔はさせない!」
『ワイヤーだと!?』
「そうさ! 跳び回りながらワイヤーで結界を張らせて貰った! もう好きには動けない!」
そう言いながらシェイドは両手にあるアダーガの手首から伸びるワイヤーを引き絞る。
途端にオーディーンと魔道騎兵の全身にワイヤーが絡まり締め上げる。
『くっ…だが、オーディーンに力勝負等と―』
「けど、時間稼ぎにはなるさ! 変身!!」
ブラックFからシャドーFに変わり盾から伸びるワイヤーを更に引き絞るシェイド。
一方、ジゼルは壁に押し付けて身動きを封じた魔道騎兵に光剣を突き立ててから魔力と情報を吸収する。
その課程で驚愕の事実に気付いてしまった。
『こ、これは!?』
驚きつつ捕まえていた魔道騎兵を破壊した。
『マスター! オーディーンの力は、こんな物じゃありません!!』
『気付いた様だが…意味は無いな!』
「何っ!?」
ジゼルの言葉通り、オーディーンが力を込めれば次々とワイヤーが切れていく。
「ワイヤーが…持たない!」
全ての拘束を打ち破ったオーディーンが、振り上げたエネルゴンセイバーを振り下ろす。
エネルギーを伴った斬撃の衝撃波が、ジゼルのバックパックを切り裂いた。
『くっ、アーマーチェンジ!』
墜落しかけたジゼルは、またも外装を外し今度はG型の近接装備を纏う。
『今度こそ止めを刺そう!』
「ジゼルは、やらせない!」
そのジゼルを狙い再びエネルゴンセイバーを振り上げるオーディーンだったが、跳び上がったシェイドの回し蹴りを胸へと受けて蹌踉めく。
『このオーディーンにダメージを与えるとは!? だが、その程度で余は倒せん!』
「くっ、何て堅さだ!?」
近すぎるせいでエネルゴンセイバーを振るえないオーディーンの変わりに、合体仕損ねていた二体の魔道騎兵がシェイドへ迫る。
『マスターには触れさせません!』
シェイドに近付く前に、ジゼルが飛び蹴りで二体纏めて地面へと叩き落とす。
『ブラスタアァァビームゥゥ!』
更に至近から胸部ビーム砲で止めを刺した。
「ジゼル!!」
一瞬動きの止まったジゼル目掛けてエネルゴンセイバーが振り下ろされるが、今度はシェイドが剣の横腹を蹴り飛ばして軌道を逸らす。
狙いを外して切り裂かれた地面から衝撃波が迸り二人は吹き飛ばされた。
『何という見事な連携…まさに貴公らは人機一体、二つで一人の戦士だな!』
「…まるで一人一人だと半人前に聞こえるんだけど…」
オーディーンの猛攻に耐え、それどころか反撃まで出来るシェイド達に感嘆の声を上げるゼファー。
しかし立ち上がったシェイドは皮肉を込めて睨み付ける。
『とんでもない! 素直に賞賛しているのだ…その力を!! 貴公らは一騎当千の実力者だが、二人揃えばその戦力は十万の兵をも凌駕するだろう!!』
「十万…ねえ…?」
ゼファーの言葉に偽りは無いのだろう。
だが逆を言えばシェイド達と互角以上に戦っているゼファーも、兵士十万以上の戦力だと言っている様な物である。
「普通に戦うには過剰な力だと思わない? 君も…僕達もだけど」
『【外側の者】と戦う為には、これだけの力が必要であろう?』
「…この程度の力だけじゃ、アウトサイダーを本当の意味では倒せない…」
シェイドが創生の書で体験した【外敵】との戦いは、今の自分達と真の意味で次元が違う。
天変地異レベルの最早戦力と呼称するのがおこがましい力と高次元への干渉力を持ってすら、生きて帰れない覚悟が必要となるのだ。
あくまでも『組織』の想定は、三次元的な戦力で表面的な物程度に過ぎない。
この世の理をねじ曲げ、世界の法則すら無視して結果だけを抽出する様な神に等しい敵を相手にするなら、同じ領域まで自らを押し上げるしか無い。
―だから大多数の『ユーノ達』はアウトサイダーと互角にすら戦えなかった―
『無論、余は更なる高みを目指す。勿論、貴公等と共にな』
「…そう言う問題じゃ無いんだよ…」
受け答えは確かに立派で王と言うに相応しい風格なのだが、シェイドとの認識と知識量のせいで全く話が通用しない。
『それに貴公は余と比肩する力を持つが、貴公の話が本当ならば…余にすら打ち勝てぬ様では貴公も外敵と戦う事は敵うまい?』
「…痛い所を突いてくる…」
ゼファーの言葉に、シェイドは苦い顔になる。
しかし神の領域まで足を突っ込んだ『ユーノ』の時でも、まだ数年の余地はあった。
「だったら…ここで君を倒せる力を見せれば、君は納得出来るとでも?」
『力がある事は最低条件に過ぎぬ。納得出来る出来ないは別問題では無いのか?』
「…ああ、その通りだよ…」
『余とて民を戦に駆り出すのは望まぬ…が、理想論だけで世界を救えぬならば誰かが責を受けてでも、ソレを成さねばならぬと以前も話した筈…全てが終わった時に世界が余を拒絶したとしても受け入れる覚悟がある』
ゼファーの正論と覚悟を聞かされ、シェイドも思わず感嘆しそうになる。
だが、やはり思ってしまうのだ。
「君は…まだ本当の悲しみも憎しみも怒りも知らない。そして他人からソレを向けられる辛さも…だから、その果てにある孤独も虚無にも耐えられない」
シェイドは、自分もゼファーも空の―空虚な器だと思っている。
ただ違うのはゼファーの器は何も入っていない、もしくはまだ何も入れていない状態なだけで。
シェイドの器には穴が開いていて、大切な物も大切でない物も等しくこぼれ落ちていく。
「君の言葉は確かに立派で王として相応しい威厳と風格を備えている。けどソレは誰かに擦り込まれた薄っぺらい知識から来る言葉で…まるで重みが、深みが無い!」
『何…?』
「そんなのは君の本当の意志だと言えない! だから僕は自分の意志で君を倒して先へ進む!!」
『…確かに貴公の言う事にも一理あるだろうが…今更、余も引けぬ覚悟がある!』
シェイドの言葉を振り払う様にオーディーンがエネルゴンセイバーを振るうと、それだけで暴風が発生しシェイド達は吹き飛ばされそうになる。
『マスター、大丈夫ですか?』
「ああ、問題無い…自分にはだけどね」
『先程、魔道騎兵を倒した時に情報を抜き取りました…あのオーディーンの防御を抜くには、ゼファーの意識していない部分を最大威力の攻撃で攻めるしかありません』
暴風に立ち向かい踏ん張る一人と一機。
そんな中で、ジゼルがシェイドにオーディーンの強さの秘密を話す。
『オーディーンは基地の三連魔道炉からのエネルギー供給を絶えず受けています。ジュエルシードの複製を利用した出力は、この基地全てを賄って余りあるんですがエネルゴンセイバーは全てのエネルギーに耐えうる様です』
「…本気で星を真っ二つにするつもりだったのか…」
『エネルゴンテクターも同様です。ですが、この二つを使用する際にエネルギーが集中してオーディーン自身の防御も弱まる筈です』
コレは先程ジゼルが確認済みである。
「つまり剣を使わせてカウンターを取るか、盾を使わせて二面攻撃か…」
『その為に、どちらか一方を破壊した方が良いでしょう。カウンターを取るにしろエネルゴンセイバーの威力は危険過ぎますので、無力化するのが良いかと…出来ればですが』
「それならアテはある―」
『では、エネルゴンテクターを―』
作戦が決まると同時に暴風を突き破りオーディーンがエネルゴンセイバーを振り上げて迫る。
『余の一撃を受けてみよ!』
再び振り下ろされたエネルゴンセイバーが竜巻を生み、地面を噴出させ衝撃波が荒れ狂う。
「一撃ごとに威力が上がってるじゃないか!?」
『使い方が判ってきたのだ!』
散開したシェイドとジゼルが再び吹き飛ばされる。
「けど、そこまでだっ!」
『生半可で余は止められん!!』
体勢を立て直して着地したシェイドへと再びエネルゴンセイバーが迫る。
『直撃しなければ貴公の命は助かるだろう! 上手く防いで見せよ!!』
(勝負は一瞬!!)
振り下ろされるエネルゴンセイバーを辛うじてかわしたが、その衝撃波へシェイドがまともに飲み込まれるのをゼファーは確かに見た。
『余の…勝ちだ!!』
「それはどうかな!?」
衝撃波と爆風に吞まれた筈のシェイドの声が響く。
「やるぞ、ジゼル!」
『はい、マスター!!』
全身が煤け埃塗れになりながらも、シャドーFのシェイドは立っていた。
しかもエネルゴンセイバーの合体部分に左右の盾からパイルバンカーを突き刺し
て。
「おおぉぉぉぉ!!」
『ハアァァァァ!!』
そしてエネルゴンセイバーの向こう側からジゼルが挟み込む様に飛来する。
両腕の突起部が放電しながら打ち合わせて、そのまま―
「『アームドブレイカァァァー!!』」
エネルゴンセイバーの腹へと左右から連打を叩き込む。
拳が振るわれる度にエネルゴンセイバーが歪みひび割れ―へし折れた。
『エネルゴンセイバーが!?』
「もう一度!」
真ん中を破壊されたエネルゴンセイバーが分離し柄と剣先が人型へ変形するが、シェイドの投げた両方のアダーガの盾の先端が突き刺さり盾の裏側から鋏が展開して魔道騎兵を挟み込み。
「エクス、ブレイカアァァ!」
シェイドのトリガーボイスと同時に魔道騎兵が鋏で真っ二つにされ爆砕。
そこまでの一連の動きを、唖然とゼファーは見過ごしてしまった。
『…馬鹿な…この基地のエネルギーを込められたエネルゴンセイバーが…!?』
「続けて行くぞ! ジゼル!!」
『了解! お願いします!!』
信じられないと立ち尽くすオーディーンに、更なる追撃をかけるシャドーFのシェイド。
脚部エネルギーを解放して一気にオーディーンの頭部まで跳び上がり、顔面に拳を叩き込む。
『ぐあっ!?』
無抵抗のまま殴られたオーディーンが仰け反り、蹈鞴を踏む。
その間にアダーガから伸びた鎖を引きつつ盾を回収して着地するシェイド。
「もう一度!」
『くっ、させぬよ!』
再度跳躍し盾で殴ろうとするも、今度はエネルゴンテクターで受け止められ弾き飛ばされる。
「くっ!?」
『そう何度も―』
そこまで言って、オーディーンの動きが止まる。
弾き飛ばしたシェイドの後ろに幾つもの魔術陣が展開され、その向こう側に機体から紫電を迸らせガルダテンペスターを装着したジゼルが、両腕の高周波ブレードをセットしオーディーンを狙う様に両手を組んで前に突き出しているのが目に入ったのだ。
『っつ!?』
ソレはゼファーが以前にも感じた悪寒だった。
異形と化したシェイドが放った詳細不明な黒い球体に似たイメージを、ジゼルにも感じたオーディーンは即座に意識を切り換える。
『マックスファイヤァァーーー!!』
動く気配も無く何かを待っている様なジゼルに対して、惜しみなく全弾発射するオーディーンだったが―
「ラウンドシールド・ファランクス!」
ジゼルを守る様に立ちはだかったシェイドの幾重にも展開した魔術による盾が、その全ての攻撃を耐えきる。
『くっ!? そこを退くのだ!!』
「ジゼルには指一本触れさせない!!」
更に続く攻撃で一枚また一枚と壊されていく盾だったが、最後の一枚が割れる瞬間にジゼルの全身を赤いオーラが包み込み放電量が激しさを増す。
『マスター! 行きます!!』
「判った!!」
『させぬよ!』
ジゼルがジリッと地面を踏み締めると同時に、オーディーンがエネルゴンテクターを構える。
『どんな攻撃だろうと、エネルゴンテクターを貫く事など―』
「ソレを待っていた!!」
エネルゴンテクターへエネルギーが集中し凄まじい輝きを放つ。
おそらくは、どんな威力の攻撃であろうと防ぎきるであろう盾。
しかしソレを持つ左腕に刺さったままだったジゼルのビットであるアローヘッドが、突如ビーム刃を更に長く展開して関節部分に深く食い込む。
『ぬうっ!?』
「命の危機を前にして焦ったな! トルネード・ストライクウゥ!!」
更に追い打ちでブラックFになったシェイドが空間湾曲シールドを全開にして四回転ジャンプからの回し蹴りを、エネルゴンテクターの側面に叩き込んで大きく跳ね上げる。
『何っ!?』
予想外の一撃と左腕に食い込むアローヘッドのせいでオーディーンはエネルゴンテクターを再び構え直せず、装甲の表面を覆っていた『聖王の鎧』もエネルゴンテクターに集中していて圧倒的な防御力を失っている。
まさにシェイドとジゼルが生み出した千載一遇のチャンス。
「今だ!」
『マスター、短い間でしたが再会出来て嬉しかったです。迷わず前に進んで下さい!』
「…えっ?」
ジゼルの言葉に違和感を感じた瞬間には遅かった。
第七感を発動させたシェイドの目でも追いきれない程に、ソレは早過ぎたのだ。
赤いエネルギーが密度を増して真っ赤な球体と化したジゼルが、放電しながら発射される。
高周波ブレードから発生させた擬似的な電磁誘導で音速を超える加速を果たしたジゼルは、更に前方に展開していた加速魔術陣により光速を超える弾丸と化した。
―そして―
オーディーンの上半身に命中し、凄まじい爆発と衝撃を起こして粉砕した。
この両手に 積もってゆく
切り裂く闇に 見えてくるのは
重く深く 切ない記意
色褪せてく 現実に揺れる
絶望には 負けたくない
私が今 私であること
胸を張って 全て誇れる!
放て! 心に刻んだ夢を
未来さえ置き去りにして
限界など知らない 意味無い!
このチカラが光散らす
その先に遥かな想いを
GONG 第七話
only my railgun
『星をも切り裂く剣、エネルゴンセイバー!!』
オーディーンが右腕を翳すと、三機の小さい飛行機が集まり一つの剣となり金色に輝く。
「何て大袈裟な口上だ!」
『そう思うならば、受け止めてみよ!』
光の剣と化したエネルゴンセイバーが振り下ろされる瞬間、悪寒を感じたブラックFのシェイドは横っ跳びしてギリギリで躱す。
直後、斬り付けられた床は10m以上はある亀裂を生じ、続いて爆風が吹き上がる。
「…何て威力だ…」
『全くだな…』
冷や汗を流すシェイドが呟いた言葉に、ゼファーも同意する。
「…君がソレを言うのか!?」
『初投入なのだ、貴公との全力での戦いに向けて開発を前倒しして用意されている』
「あからさまに試作品じゃないか!」
『マスター! コチラから仕掛けます!!』
シェイドの叫びと同時に、オーディーンの背後へと回り込みながらジゼルが誘導砲台であるアローヘッドを飛ばす。
『余の領域で、その程度の武装が通用するとでも? 無駄だ!』
回転しながらオーディーンを取り囲む様に飛ぶアローヘッド。
しかし虹色の魔力光の奔流が、砲台の配置を不安定にする。
「そのフィールドを切り裂く!」
シェイドが右腕のアダーガを構えると、手甲の中から刃が展開し光が灯る。
「フィールドディバイダー!」
跳躍してオーディーンの上空から虹色のうねりを引き裂いた。
『余の結界を無効化した!? 流石だな!!』
『スパイラルフォーメーション!』
ジゼルの号令と共に、アローヘッドが急降下して再びオーディーンの足元周囲を旋回しながら攻撃を放つ。
『再度言おう、その程度の武装は通用せん!』
ゼファーの周囲を囲むアローヘッドの内、三機が円運動から外れる。
「魔道騎兵!?」
それは小型の車から変形した魔道騎兵だった。
その三機は、引き続き残る三つのアローヘッドも蹴り飛ばす。
『返礼せねばな!』
その言葉と同時に黄色い小型の車が右肩に合体、その内包したエネルギーがオーディーンの全身の火器が展開。
『マックスファイヤー!!』
ゼファーの声と同時にそれぞれの火器が一斉に発射された。
途端にジゼルの周囲が爆炎で包まれる。
『…ありがとうございます、マスター!』
爆炎が収まった時、ジゼルの正面には杭を地面に突き刺して固定された盾形態のアダーガがあった。
『この一斉射に耐えるとは、何という耐久性の盾なのだ!?』
「おやっさんの鍛えた盾は、伊達じゃない!」
オーディーンの背後へと何時の間にか跳躍したシェイドが、アダーガの残った左脚を振り翳す。
「アーマァァブレイカァァァァ!!」
身体を捻り一回転する事で遠心力を加え、更に空間湾曲効果と対物浸透効果を持った蹴り。
しかし―
『余の守りを甘く見たな!』
「何っ!?」
シェイドの蹴りを受け止めたのは、オーディーンが掲げた左腕にある金色に輝く盾。
先程現れた三体の魔道騎兵が変形合体した物が、シェイドの攻撃を完全に防いでいた。
『超新星の爆発にも耐えるエネルゴンテクターだ!』
「これも大層な肩書だ!?」
『だが事実、この盾はエネルゴンセイバーですら受け止められる!』
そのままオーディーンはエネルゴンテクターを振り抜いてシェイドを壁へと吹き飛ばす。
「ガハッ!?」
『マスターッ!? このぉっ!』
壁へと叩き付けられめりこんだシェイドが衝撃で呻く。
追撃をかけようとするオーディーンを止めるべく、ジゼルは右腕にバスターランチャーを呼び出し砲撃戦用のC型アーマーに換装して一斉射撃を開始した。
『その程度の火力では通用せんと言った!』
ジゼルの放つショルダーキャノンも脚部ミサイルも左腕のマシンキャノンも、オーディーンの虹色の光に遮られて届かない。
『ならば、このバスターランチャーで!!』
他の武装を撃ち尽くした直後、チャージを終えたランチャーから閃光が迸る。
しかし虹色の奔流が厚みを増し、やはりビームはオーディーンに傷の一つも付けられ無い。
『無駄だと―』
『思ったでしょう!?』
バスターランチャーを受け止める為にカイゼルテリトリウムを集中させたゼファーだったが、その分他の意識していない防御幕が薄くなる事に気付いていなかった。
ジゼルは、その性質を見抜きカイゼルテリトリウムの中へアローヘッドを突入させる。
『くっ、この様な手を使うとは! だがオーディーンの装甲は―』
『確かに装甲は堅そうですが!』
ジゼルの狙いは唯一つ。
ビーム刃を展開したアローヘッドが、オーディーンの左肩と左肘に殺到する。
『何を!?』
『装甲の無い関節は別です!』
『小癪な真似を! 今一度、喰らうが良い、マックスファイヤー!!』
再度の一斉射撃がジゼルを襲い、爆炎が噴き上がる。
しかし、ジゼルは盾形態のアダーガで直撃を防いでいた。
『マスターの盾は、この程度の火力は物ともしません!』
そう宣言したジゼルが全弾撃ち尽くし煤けた用済みの砲撃戦用アーマーをパージ、続いて空戦アーマーを装着して飛び立つ。
『マスター、お返しします!』
ジゼルがアダーガを放り投げるが、そこには誰も居ない。
『何処に向かって―』
「良い位置だ!」
『何っ!?』
アダーガが突き刺さった投下地点に誰も居ないと思っていたゼファーの予想に反して、壁にめり込んでいた筈のシェイドが飛び込みながら盾を回収。
そのシェイドも創生の書から取り出した銃火器を明後日の方向へ投げるが、オーディーンを軸に回り込みながらジゼルがキャッチする。
「動きを封じる!」
『了解! 牽制します!!』
アダーガを変化させつつチェーンバインドを放ちながらオーディーンに接近するシェイドと、時計回りにマシンガンを撃つジゼルの連携。
大した打ち合わせも無く、躊躇も無い二人の動きを見てゼファーは思わず感心していた。
(言葉も念話もさして必要とせず、お互いへの信頼だけで人は…ここまで分かり合えるか?)
近接戦はエネルゴンセイバーで薙ぎ払えばジゼルが手元を集中砲火で軌道を逸らし、シェイドはソレを見越してギリギリに回避する。
重火器での斉射もシェイドの張る障壁を巧みに利用し、フェイントすら織り交ぜるジゼルの機動力が着弾を許さない。
至近を縦横無尽に跳ね回るシェイドと高速で旋回するジゼルに、オーディーンの巨体は翻弄され続ける。
『ならばブラックホールすら貫くエネルゴンブラ―』
『そう来ると思いました!』
痺れを切らして新たな魔道騎兵を三体召喚したゼファーだったが、ソレは既にジゼルに察知されていた。
出現した瞬間に一体だけ、狙いを絞り突撃したジゼルが体当たりして壁へと押し付ける。
『何っ!? この―』
慌ててエネルゴンセイバーを振り上げようとしたオーディーンだったが、何かに引っ掛かった様に身動きが取れない事に気付く。
ソレまでは気付かなかったが、体中と周囲へ幾重にも細い線が張り巡らされていた。
「ジゼルの邪魔はさせない!」
『ワイヤーだと!?』
「そうさ! 跳び回りながらワイヤーで結界を張らせて貰った! もう好きには動けない!」
そう言いながらシェイドは両手にあるアダーガの手首から伸びるワイヤーを引き絞る。
途端にオーディーンと魔道騎兵の全身にワイヤーが絡まり締め上げる。
『くっ…だが、オーディーンに力勝負等と―』
「けど、時間稼ぎにはなるさ! 変身!!」
ブラックFからシャドーFに変わり盾から伸びるワイヤーを更に引き絞るシェイド。
一方、ジゼルは壁に押し付けて身動きを封じた魔道騎兵に光剣を突き立ててから魔力と情報を吸収する。
その課程で驚愕の事実に気付いてしまった。
『こ、これは!?』
驚きつつ捕まえていた魔道騎兵を破壊した。
『マスター! オーディーンの力は、こんな物じゃありません!!』
『気付いた様だが…意味は無いな!』
「何っ!?」
ジゼルの言葉通り、オーディーンが力を込めれば次々とワイヤーが切れていく。
「ワイヤーが…持たない!」
全ての拘束を打ち破ったオーディーンが、振り上げたエネルゴンセイバーを振り下ろす。
エネルギーを伴った斬撃の衝撃波が、ジゼルのバックパックを切り裂いた。
『くっ、アーマーチェンジ!』
墜落しかけたジゼルは、またも外装を外し今度はG型の近接装備を纏う。
『今度こそ止めを刺そう!』
「ジゼルは、やらせない!」
そのジゼルを狙い再びエネルゴンセイバーを振り上げるオーディーンだったが、跳び上がったシェイドの回し蹴りを胸へと受けて蹌踉めく。
『このオーディーンにダメージを与えるとは!? だが、その程度で余は倒せん!』
「くっ、何て堅さだ!?」
近すぎるせいでエネルゴンセイバーを振るえないオーディーンの変わりに、合体仕損ねていた二体の魔道騎兵がシェイドへ迫る。
『マスターには触れさせません!』
シェイドに近付く前に、ジゼルが飛び蹴りで二体纏めて地面へと叩き落とす。
『ブラスタアァァビームゥゥ!』
更に至近から胸部ビーム砲で止めを刺した。
「ジゼル!!」
一瞬動きの止まったジゼル目掛けてエネルゴンセイバーが振り下ろされるが、今度はシェイドが剣の横腹を蹴り飛ばして軌道を逸らす。
狙いを外して切り裂かれた地面から衝撃波が迸り二人は吹き飛ばされた。
『何という見事な連携…まさに貴公らは人機一体、二つで一人の戦士だな!』
「…まるで一人一人だと半人前に聞こえるんだけど…」
オーディーンの猛攻に耐え、それどころか反撃まで出来るシェイド達に感嘆の声を上げるゼファー。
しかし立ち上がったシェイドは皮肉を込めて睨み付ける。
『とんでもない! 素直に賞賛しているのだ…その力を!! 貴公らは一騎当千の実力者だが、二人揃えばその戦力は十万の兵をも凌駕するだろう!!』
「十万…ねえ…?」
ゼファーの言葉に偽りは無いのだろう。
だが逆を言えばシェイド達と互角以上に戦っているゼファーも、兵士十万以上の戦力だと言っている様な物である。
「普通に戦うには過剰な力だと思わない? 君も…僕達もだけど」
『【外側の者】と戦う為には、これだけの力が必要であろう?』
「…この程度の力だけじゃ、アウトサイダーを本当の意味では倒せない…」
シェイドが創生の書で体験した【外敵】との戦いは、今の自分達と真の意味で次元が違う。
天変地異レベルの最早戦力と呼称するのがおこがましい力と高次元への干渉力を持ってすら、生きて帰れない覚悟が必要となるのだ。
あくまでも『組織』の想定は、三次元的な戦力で表面的な物程度に過ぎない。
この世の理をねじ曲げ、世界の法則すら無視して結果だけを抽出する様な神に等しい敵を相手にするなら、同じ領域まで自らを押し上げるしか無い。
―だから大多数の『ユーノ達』はアウトサイダーと互角にすら戦えなかった―
『無論、余は更なる高みを目指す。勿論、貴公等と共にな』
「…そう言う問題じゃ無いんだよ…」
受け答えは確かに立派で王と言うに相応しい風格なのだが、シェイドとの認識と知識量のせいで全く話が通用しない。
『それに貴公は余と比肩する力を持つが、貴公の話が本当ならば…余にすら打ち勝てぬ様では貴公も外敵と戦う事は敵うまい?』
「…痛い所を突いてくる…」
ゼファーの言葉に、シェイドは苦い顔になる。
しかし神の領域まで足を突っ込んだ『ユーノ』の時でも、まだ数年の余地はあった。
「だったら…ここで君を倒せる力を見せれば、君は納得出来るとでも?」
『力がある事は最低条件に過ぎぬ。納得出来る出来ないは別問題では無いのか?』
「…ああ、その通りだよ…」
『余とて民を戦に駆り出すのは望まぬ…が、理想論だけで世界を救えぬならば誰かが責を受けてでも、ソレを成さねばならぬと以前も話した筈…全てが終わった時に世界が余を拒絶したとしても受け入れる覚悟がある』
ゼファーの正論と覚悟を聞かされ、シェイドも思わず感嘆しそうになる。
だが、やはり思ってしまうのだ。
「君は…まだ本当の悲しみも憎しみも怒りも知らない。そして他人からソレを向けられる辛さも…だから、その果てにある孤独も虚無にも耐えられない」
シェイドは、自分もゼファーも空の―空虚な器だと思っている。
ただ違うのはゼファーの器は何も入っていない、もしくはまだ何も入れていない状態なだけで。
シェイドの器には穴が開いていて、大切な物も大切でない物も等しくこぼれ落ちていく。
「君の言葉は確かに立派で王として相応しい威厳と風格を備えている。けどソレは誰かに擦り込まれた薄っぺらい知識から来る言葉で…まるで重みが、深みが無い!」
『何…?』
「そんなのは君の本当の意志だと言えない! だから僕は自分の意志で君を倒して先へ進む!!」
『…確かに貴公の言う事にも一理あるだろうが…今更、余も引けぬ覚悟がある!』
シェイドの言葉を振り払う様にオーディーンがエネルゴンセイバーを振るうと、それだけで暴風が発生しシェイド達は吹き飛ばされそうになる。
『マスター、大丈夫ですか?』
「ああ、問題無い…自分にはだけどね」
『先程、魔道騎兵を倒した時に情報を抜き取りました…あのオーディーンの防御を抜くには、ゼファーの意識していない部分を最大威力の攻撃で攻めるしかありません』
暴風に立ち向かい踏ん張る一人と一機。
そんな中で、ジゼルがシェイドにオーディーンの強さの秘密を話す。
『オーディーンは基地の三連魔道炉からのエネルギー供給を絶えず受けています。ジュエルシードの複製を利用した出力は、この基地全てを賄って余りあるんですがエネルゴンセイバーは全てのエネルギーに耐えうる様です』
「…本気で星を真っ二つにするつもりだったのか…」
『エネルゴンテクターも同様です。ですが、この二つを使用する際にエネルギーが集中してオーディーン自身の防御も弱まる筈です』
コレは先程ジゼルが確認済みである。
「つまり剣を使わせてカウンターを取るか、盾を使わせて二面攻撃か…」
『その為に、どちらか一方を破壊した方が良いでしょう。カウンターを取るにしろエネルゴンセイバーの威力は危険過ぎますので、無力化するのが良いかと…出来ればですが』
「それならアテはある―」
『では、エネルゴンテクターを―』
作戦が決まると同時に暴風を突き破りオーディーンがエネルゴンセイバーを振り上げて迫る。
『余の一撃を受けてみよ!』
再び振り下ろされたエネルゴンセイバーが竜巻を生み、地面を噴出させ衝撃波が荒れ狂う。
「一撃ごとに威力が上がってるじゃないか!?」
『使い方が判ってきたのだ!』
散開したシェイドとジゼルが再び吹き飛ばされる。
「けど、そこまでだっ!」
『生半可で余は止められん!!』
体勢を立て直して着地したシェイドへと再びエネルゴンセイバーが迫る。
『直撃しなければ貴公の命は助かるだろう! 上手く防いで見せよ!!』
(勝負は一瞬!!)
振り下ろされるエネルゴンセイバーを辛うじてかわしたが、その衝撃波へシェイドがまともに飲み込まれるのをゼファーは確かに見た。
『余の…勝ちだ!!』
「それはどうかな!?」
衝撃波と爆風に吞まれた筈のシェイドの声が響く。
「やるぞ、ジゼル!」
『はい、マスター!!』
全身が煤け埃塗れになりながらも、シャドーFのシェイドは立っていた。
しかもエネルゴンセイバーの合体部分に左右の盾からパイルバンカーを突き刺し
て。
「おおぉぉぉぉ!!」
『ハアァァァァ!!』
そしてエネルゴンセイバーの向こう側からジゼルが挟み込む様に飛来する。
両腕の突起部が放電しながら打ち合わせて、そのまま―
「『アームドブレイカァァァー!!』」
エネルゴンセイバーの腹へと左右から連打を叩き込む。
拳が振るわれる度にエネルゴンセイバーが歪みひび割れ―へし折れた。
『エネルゴンセイバーが!?』
「もう一度!」
真ん中を破壊されたエネルゴンセイバーが分離し柄と剣先が人型へ変形するが、シェイドの投げた両方のアダーガの盾の先端が突き刺さり盾の裏側から鋏が展開して魔道騎兵を挟み込み。
「エクス、ブレイカアァァ!」
シェイドのトリガーボイスと同時に魔道騎兵が鋏で真っ二つにされ爆砕。
そこまでの一連の動きを、唖然とゼファーは見過ごしてしまった。
『…馬鹿な…この基地のエネルギーを込められたエネルゴンセイバーが…!?』
「続けて行くぞ! ジゼル!!」
『了解! お願いします!!』
信じられないと立ち尽くすオーディーンに、更なる追撃をかけるシャドーFのシェイド。
脚部エネルギーを解放して一気にオーディーンの頭部まで跳び上がり、顔面に拳を叩き込む。
『ぐあっ!?』
無抵抗のまま殴られたオーディーンが仰け反り、蹈鞴を踏む。
その間にアダーガから伸びた鎖を引きつつ盾を回収して着地するシェイド。
「もう一度!」
『くっ、させぬよ!』
再度跳躍し盾で殴ろうとするも、今度はエネルゴンテクターで受け止められ弾き飛ばされる。
「くっ!?」
『そう何度も―』
そこまで言って、オーディーンの動きが止まる。
弾き飛ばしたシェイドの後ろに幾つもの魔術陣が展開され、その向こう側に機体から紫電を迸らせガルダテンペスターを装着したジゼルが、両腕の高周波ブレードをセットしオーディーンを狙う様に両手を組んで前に突き出しているのが目に入ったのだ。
『っつ!?』
ソレはゼファーが以前にも感じた悪寒だった。
異形と化したシェイドが放った詳細不明な黒い球体に似たイメージを、ジゼルにも感じたオーディーンは即座に意識を切り換える。
『マックスファイヤァァーーー!!』
動く気配も無く何かを待っている様なジゼルに対して、惜しみなく全弾発射するオーディーンだったが―
「ラウンドシールド・ファランクス!」
ジゼルを守る様に立ちはだかったシェイドの幾重にも展開した魔術による盾が、その全ての攻撃を耐えきる。
『くっ!? そこを退くのだ!!』
「ジゼルには指一本触れさせない!!」
更に続く攻撃で一枚また一枚と壊されていく盾だったが、最後の一枚が割れる瞬間にジゼルの全身を赤いオーラが包み込み放電量が激しさを増す。
『マスター! 行きます!!』
「判った!!」
『させぬよ!』
ジゼルがジリッと地面を踏み締めると同時に、オーディーンがエネルゴンテクターを構える。
『どんな攻撃だろうと、エネルゴンテクターを貫く事など―』
「ソレを待っていた!!」
エネルゴンテクターへエネルギーが集中し凄まじい輝きを放つ。
おそらくは、どんな威力の攻撃であろうと防ぎきるであろう盾。
しかしソレを持つ左腕に刺さったままだったジゼルのビットであるアローヘッドが、突如ビーム刃を更に長く展開して関節部分に深く食い込む。
『ぬうっ!?』
「命の危機を前にして焦ったな! トルネード・ストライクウゥ!!」
更に追い打ちでブラックFになったシェイドが空間湾曲シールドを全開にして四回転ジャンプからの回し蹴りを、エネルゴンテクターの側面に叩き込んで大きく跳ね上げる。
『何っ!?』
予想外の一撃と左腕に食い込むアローヘッドのせいでオーディーンはエネルゴンテクターを再び構え直せず、装甲の表面を覆っていた『聖王の鎧』もエネルゴンテクターに集中していて圧倒的な防御力を失っている。
まさにシェイドとジゼルが生み出した千載一遇のチャンス。
「今だ!」
『マスター、短い間でしたが再会出来て嬉しかったです。迷わず前に進んで下さい!』
「…えっ?」
ジゼルの言葉に違和感を感じた瞬間には遅かった。
第七感を発動させたシェイドの目でも追いきれない程に、ソレは早過ぎたのだ。
赤いエネルギーが密度を増して真っ赤な球体と化したジゼルが、放電しながら発射される。
高周波ブレードから発生させた擬似的な電磁誘導で音速を超える加速を果たしたジゼルは、更に前方に展開していた加速魔術陣により光速を超える弾丸と化した。
―そして―
オーディーンの上半身に命中し、凄まじい爆発と衝撃を起こして粉砕した。