儚く舞う 無数の願いは

 この両手に 積もってゆく

 切り裂く闇に 見えてくるのは

 重く深く 切ない記意

 色褪せてく 現実に揺れる

 絶望には 負けたくない

 私が今 私であること

 胸を張って 全て誇れる!

 放て! 心に刻んだ夢を

 未来さえ置き去りにして

 限界など知らない 意味無い!

 このチカラが光散らす

 その先に遥かな想いを



GONG  第七話
    only my railgun




『星をも切り裂く剣、エネルゴンセイバー!!』

 オーディーンが右腕を翳すと、三機の小さい飛行機が集まり一つの剣となり金色に輝く。

「何て大袈裟な口上だ!」
『そう思うならば、受け止めてみよ!』

 光の剣と化したエネルゴンセイバーが振り下ろされる瞬間、悪寒を感じたブラックFのシェイドは横っ跳びしてギリギリで躱す。
 直後、斬り付けられた床は10m以上はある亀裂を生じ、続いて爆風が吹き上がる。

「…何て威力だ…」
『全くだな…』

 冷や汗を流すシェイドが呟いた言葉に、ゼファーも同意する。

「…君がソレを言うのか!?」
『初投入なのだ、貴公との全力での戦いに向けて開発を前倒しして用意されている』
「あからさまに試作品じゃないか!」
『マスター! コチラから仕掛けます!!』

 シェイドの叫びと同時に、オーディーンの背後へと回り込みながらジゼルが誘導砲台であるアローヘッドを飛ばす。

『余の領域で、その程度の武装が通用するとでも? 無駄だ!』

 回転しながらオーディーンを取り囲む様に飛ぶアローヘッド。
 しかし虹色の魔力光の奔流が、砲台の配置を不安定にする。

「そのフィールドを切り裂く!」

 シェイドが右腕のアダーガを構えると、手甲の中から刃が展開し光が灯る。

「フィールドディバイダー!」

 跳躍してオーディーンの上空から虹色のうねりを引き裂いた。

『余の結界を無効化した!? 流石だな!!』
『スパイラルフォーメーション!』

 ジゼルの号令と共に、アローヘッドが急降下して再びオーディーンの足元周囲を旋回しながら攻撃を放つ。

『再度言おう、その程度の武装は通用せん!』

 ゼファーの周囲を囲むアローヘッドの内、三機が円運動から外れる。

「魔道騎兵!?」

 それは小型の車から変形した魔道騎兵だった。
 その三機は、引き続き残る三つのアローヘッドも蹴り飛ばす。

『返礼せねばな!』

 その言葉と同時に黄色い小型の車が右肩に合体、その内包したエネルギーがオーディーンの全身の火器が展開。

『マックスファイヤー!!』

 ゼファーの声と同時にそれぞれの火器が一斉に発射された。
 途端にジゼルの周囲が爆炎で包まれる。

『…ありがとうございます、マスター!』

 爆炎が収まった時、ジゼルの正面には杭を地面に突き刺して固定された盾形態のアダーガがあった。

『この一斉射に耐えるとは、何という耐久性の盾なのだ!?』
「おやっさんの鍛えた盾は、伊達じゃない!」

 オーディーンの背後へと何時の間にか跳躍したシェイドが、アダーガの残った左脚を振り翳す。

「アーマァァブレイカァァァァ!!」

 身体を捻り一回転する事で遠心力を加え、更に空間湾曲効果と対物浸透効果を持った蹴り。
 しかし―

『余の守りを甘く見たな!』
「何っ!?」

 シェイドの蹴りを受け止めたのは、オーディーンが掲げた左腕にある金色に輝く盾。
 先程現れた三体の魔道騎兵が変形合体した物が、シェイドの攻撃を完全に防いでいた。

『超新星の爆発にも耐えるエネルゴンテクターだ!』
「これも大層な肩書だ!?」
『だが事実、この盾はエネルゴンセイバーですら受け止められる!』

 そのままオーディーンはエネルゴンテクターを振り抜いてシェイドを壁へと吹き飛ばす。

「ガハッ!?」
『マスターッ!? このぉっ!』

 壁へと叩き付けられめりこんだシェイドが衝撃で呻く。
 追撃をかけようとするオーディーンを止めるべく、ジゼルは右腕にバスターランチャーを呼び出し砲撃戦用のC型アーマーに換装して一斉射撃を開始した。

『その程度の火力では通用せんと言った!』

 ジゼルの放つショルダーキャノンも脚部ミサイルも左腕のマシンキャノンも、オーディーンの虹色の光に遮られて届かない。

『ならば、このバスターランチャーで!!』

 他の武装を撃ち尽くした直後、チャージを終えたランチャーから閃光が迸る。
 しかし虹色の奔流が厚みを増し、やはりビームはオーディーンに傷の一つも付けられ無い。

『無駄だと―』
『思ったでしょう!?』

 バスターランチャーを受け止める為にカイゼルテリトリウムを集中させたゼファーだったが、その分他の意識していない防御幕が薄くなる事に気付いていなかった。
 ジゼルは、その性質を見抜きカイゼルテリトリウムの中へアローヘッドを突入させる。

『くっ、この様な手を使うとは! だがオーディーンの装甲は―』
『確かに装甲は堅そうですが!』

 ジゼルの狙いは唯一つ。
 ビーム刃を展開したアローヘッドが、オーディーンの左肩と左肘に殺到する。

『何を!?』
『装甲の無い関節は別です!』
『小癪な真似を! 今一度、喰らうが良い、マックスファイヤー!!』

 再度の一斉射撃がジゼルを襲い、爆炎が噴き上がる。
 しかし、ジゼルは盾形態のアダーガで直撃を防いでいた。

『マスターの盾は、この程度の火力は物ともしません!』

 そう宣言したジゼルが全弾撃ち尽くし煤けた用済みの砲撃戦用アーマーをパージ、続いて空戦アーマーを装着して飛び立つ。

『マスター、お返しします!』

 ジゼルがアダーガを放り投げるが、そこには誰も居ない。

『何処に向かって―』
「良い位置だ!」
『何っ!?』

 アダーガが突き刺さった投下地点に誰も居ないと思っていたゼファーの予想に反して、壁にめり込んでいた筈のシェイドが飛び込みながら盾を回収。
 そのシェイドも創生の書から取り出した銃火器を明後日の方向へ投げるが、オーディーンを軸に回り込みながらジゼルがキャッチする。


「動きを封じる!」
『了解! 牽制します!!』

 アダーガを変化させつつチェーンバインドを放ちながらオーディーンに接近するシェイドと、時計回りにマシンガンを撃つジゼルの連携。
 大した打ち合わせも無く、躊躇も無い二人の動きを見てゼファーは思わず感心していた。

(言葉も念話もさして必要とせず、お互いへの信頼だけで人は…ここまで分かり合えるか?)

 近接戦はエネルゴンセイバーで薙ぎ払えばジゼルが手元を集中砲火で軌道を逸らし、シェイドはソレを見越してギリギリに回避する。
 重火器での斉射もシェイドの張る障壁を巧みに利用し、フェイントすら織り交ぜるジゼルの機動力が着弾を許さない。
 至近を縦横無尽に跳ね回るシェイドと高速で旋回するジゼルに、オーディーンの巨体は翻弄され続ける。

『ならばブラックホールすら貫くエネルゴンブラ―』
『そう来ると思いました!』

 痺れを切らして新たな魔道騎兵を三体召喚したゼファーだったが、ソレは既にジゼルに察知されていた。
 出現した瞬間に一体だけ、狙いを絞り突撃したジゼルが体当たりして壁へと押し付ける。

『何っ!? この―』

 慌ててエネルゴンセイバーを振り上げようとしたオーディーンだったが、何かに引っ掛かった様に身動きが取れない事に気付く。
 ソレまでは気付かなかったが、体中と周囲へ幾重にも細い線が張り巡らされていた。

「ジゼルの邪魔はさせない!」
『ワイヤーだと!?』
「そうさ! 跳び回りながらワイヤーで結界を張らせて貰った! もう好きには動けない!」

 そう言いながらシェイドは両手にあるアダーガの手首から伸びるワイヤーを引き絞る。
 途端にオーディーンと魔道騎兵の全身にワイヤーが絡まり締め上げる。

『くっ…だが、オーディーンに力勝負等と―』
「けど、時間稼ぎにはなるさ! 変身!!」

 ブラックFからシャドーFに変わり盾から伸びるワイヤーを更に引き絞るシェイド。

 一方、ジゼルは壁に押し付けて身動きを封じた魔道騎兵に光剣を突き立ててから魔力と情報を吸収する。
 その課程で驚愕の事実に気付いてしまった。

『こ、これは!?』

 驚きつつ捕まえていた魔道騎兵を破壊した。

『マスター! オーディーンの力は、こんな物じゃありません!!』
『気付いた様だが…意味は無いな!』
「何っ!?」

 ジゼルの言葉通り、オーディーンが力を込めれば次々とワイヤーが切れていく。

「ワイヤーが…持たない!」

 全ての拘束を打ち破ったオーディーンが、振り上げたエネルゴンセイバーを振り下ろす。
 エネルギーを伴った斬撃の衝撃波が、ジゼルのバックパックを切り裂いた。

『くっ、アーマーチェンジ!』

 墜落しかけたジゼルは、またも外装を外し今度はG型の近接装備を纏う。

『今度こそ止めを刺そう!』
「ジゼルは、やらせない!」

 そのジゼルを狙い再びエネルゴンセイバーを振り上げるオーディーンだったが、跳び上がったシェイドの回し蹴りを胸へと受けて蹌踉めく。

『このオーディーンにダメージを与えるとは!? だが、その程度で余は倒せん!』
「くっ、何て堅さだ!?」

 近すぎるせいでエネルゴンセイバーを振るえないオーディーンの変わりに、合体仕損ねていた二体の魔道騎兵がシェイドへ迫る。

『マスターには触れさせません!』

 シェイドに近付く前に、ジゼルが飛び蹴りで二体纏めて地面へと叩き落とす。

『ブラスタアァァビームゥゥ!』

 更に至近から胸部ビーム砲で止めを刺した。

「ジゼル!!」

 一瞬動きの止まったジゼル目掛けてエネルゴンセイバーが振り下ろされるが、今度はシェイドが剣の横腹を蹴り飛ばして軌道を逸らす。
 狙いを外して切り裂かれた地面から衝撃波が迸り二人は吹き飛ばされた。

『何という見事な連携…まさに貴公らは人機一体、二つで一人の戦士だな!』
「…まるで一人一人だと半人前に聞こえるんだけど…」

 オーディーンの猛攻に耐え、それどころか反撃まで出来るシェイド達に感嘆の声を上げるゼファー。
 しかし立ち上がったシェイドは皮肉を込めて睨み付ける。

『とんでもない! 素直に賞賛しているのだ…その力を!! 貴公らは一騎当千の実力者だが、二人揃えばその戦力は十万の兵をも凌駕するだろう!!』
「十万…ねえ…?」

 ゼファーの言葉に偽りは無いのだろう。
 だが逆を言えばシェイド達と互角以上に戦っているゼファーも、兵士十万以上の戦力だと言っている様な物である。

「普通に戦うには過剰な力だと思わない? 君も…僕達もだけど」
『【外側の者】と戦う為には、これだけの力が必要であろう?』
「…この程度の力だけじゃ、アウトサイダーを本当の意味では倒せない…」

 シェイドが創生の書で体験した【外敵】との戦いは、今の自分達と真の意味で次元が違う。
 天変地異レベルの最早戦力と呼称するのがおこがましい力と高次元への干渉力を持ってすら、生きて帰れない覚悟が必要となるのだ。
 あくまでも『組織』の想定は、三次元的な戦力で表面的な物程度に過ぎない。
 この世の理をねじ曲げ、世界の法則すら無視して結果だけを抽出する様な神に等しい敵を相手にするなら、同じ領域まで自らを押し上げるしか無い。

 ―だから大多数の『ユーノ達』はアウトサイダーと互角にすら戦えなかった―

『無論、余は更なる高みを目指す。勿論、貴公等と共にな』
「…そう言う問題じゃ無いんだよ…」

 受け答えは確かに立派で王と言うに相応しい風格なのだが、シェイドとの認識と知識量のせいで全く話が通用しない。

『それに貴公は余と比肩する力を持つが、貴公の話が本当ならば…余にすら打ち勝てぬ様では貴公も外敵と戦う事は敵うまい?』
「…痛い所を突いてくる…」

 ゼファーの言葉に、シェイドは苦い顔になる。
 しかし神の領域まで足を突っ込んだ『ユーノ』の時でも、まだ数年の余地はあった。

「だったら…ここで君を倒せる力を見せれば、君は納得出来るとでも?」
『力がある事は最低条件に過ぎぬ。納得出来る出来ないは別問題では無いのか?』
「…ああ、その通りだよ…」
『余とて民を戦に駆り出すのは望まぬ…が、理想論だけで世界を救えぬならば誰かが責を受けてでも、ソレを成さねばならぬと以前も話した筈…全てが終わった時に世界が余を拒絶したとしても受け入れる覚悟がある』

 ゼファーの正論と覚悟を聞かされ、シェイドも思わず感嘆しそうになる。
 だが、やはり思ってしまうのだ。

「君は…まだ本当の悲しみも憎しみも怒りも知らない。そして他人からソレを向けられる辛さも…だから、その果てにある孤独も虚無にも耐えられない」

 シェイドは、自分もゼファーも空の―空虚な器だと思っている。
 ただ違うのはゼファーの器は何も入っていない、もしくはまだ何も入れていない状態なだけで。
 シェイドの器には穴が開いていて、大切な物も大切でない物も等しくこぼれ落ちていく。

「君の言葉は確かに立派で王として相応しい威厳と風格を備えている。けどソレは誰かに擦り込まれた薄っぺらい知識から来る言葉で…まるで重みが、深みが無い!」
『何…?』
「そんなのは君の本当の意志だと言えない! だから僕は自分の意志で君を倒して先へ進む!!」
『…確かに貴公の言う事にも一理あるだろうが…今更、余も引けぬ覚悟がある!』

 シェイドの言葉を振り払う様にオーディーンがエネルゴンセイバーを振るうと、それだけで暴風が発生しシェイド達は吹き飛ばされそうになる。

『マスター、大丈夫ですか?』
「ああ、問題無い…自分にはだけどね」
『先程、魔道騎兵を倒した時に情報を抜き取りました…あのオーディーンの防御を抜くには、ゼファーの意識していない部分を最大威力の攻撃で攻めるしかありません』

 暴風に立ち向かい踏ん張る一人と一機。
 そんな中で、ジゼルがシェイドにオーディーンの強さの秘密を話す。

『オーディーンは基地の三連魔道炉からのエネルギー供給を絶えず受けています。ジュエルシードの複製を利用した出力は、この基地全てを賄って余りあるんですがエネルゴンセイバーは全てのエネルギーに耐えうる様です』
「…本気で星を真っ二つにするつもりだったのか…」
『エネルゴンテクターも同様です。ですが、この二つを使用する際にエネルギーが集中してオーディーン自身の防御も弱まる筈です』

 コレは先程ジゼルが確認済みである。

「つまり剣を使わせてカウンターを取るか、盾を使わせて二面攻撃か…」
『その為に、どちらか一方を破壊した方が良いでしょう。カウンターを取るにしろエネルゴンセイバーの威力は危険過ぎますので、無力化するのが良いかと…出来ればですが』
「それならアテはある―」
『では、エネルゴンテクターを―』

 作戦が決まると同時に暴風を突き破りオーディーンがエネルゴンセイバーを振り上げて迫る。

『余の一撃を受けてみよ!』

 再び振り下ろされたエネルゴンセイバーが竜巻を生み、地面を噴出させ衝撃波が荒れ狂う。

「一撃ごとに威力が上がってるじゃないか!?」
『使い方が判ってきたのだ!』

 散開したシェイドとジゼルが再び吹き飛ばされる。

「けど、そこまでだっ!」
『生半可で余は止められん!!』

 体勢を立て直して着地したシェイドへと再びエネルゴンセイバーが迫る。

『直撃しなければ貴公の命は助かるだろう! 上手く防いで見せよ!!』
(勝負は一瞬!!)

 振り下ろされるエネルゴンセイバーを辛うじてかわしたが、その衝撃波へシェイドがまともに飲み込まれるのをゼファーは確かに見た。

『余の…勝ちだ!!』
「それはどうかな!?」

 衝撃波と爆風に吞まれた筈のシェイドの声が響く。

「やるぞ、ジゼル!」
『はい、マスター!!』

 全身が煤け埃塗れになりながらも、シャドーFのシェイドは立っていた。
 しかもエネルゴンセイバーの合体部分に左右の盾からパイルバンカーを突き刺し
て。

「おおぉぉぉぉ!!」
『ハアァァァァ!!』

 そしてエネルゴンセイバーの向こう側からジゼルが挟み込む様に飛来する。
 両腕の突起部が放電しながら打ち合わせて、そのまま―

「『アームドブレイカァァァー!!』」

 エネルゴンセイバーの腹へと左右から連打を叩き込む。
 拳が振るわれる度にエネルゴンセイバーが歪みひび割れ―へし折れた。

『エネルゴンセイバーが!?』
「もう一度!」

 真ん中を破壊されたエネルゴンセイバーが分離し柄と剣先が人型へ変形するが、シェイドの投げた両方のアダーガの盾の先端が突き刺さり盾の裏側から鋏が展開して魔道騎兵を挟み込み。

「エクス、ブレイカアァァ!」

 シェイドのトリガーボイスと同時に魔道騎兵が鋏で真っ二つにされ爆砕。
 そこまでの一連の動きを、唖然とゼファーは見過ごしてしまった。

『…馬鹿な…この基地のエネルギーを込められたエネルゴンセイバーが…!?』
「続けて行くぞ! ジゼル!!」
『了解! お願いします!!』

 信じられないと立ち尽くすオーディーンに、更なる追撃をかけるシャドーFのシェイド。
 脚部エネルギーを解放して一気にオーディーンの頭部まで跳び上がり、顔面に拳を叩き込む。

『ぐあっ!?』

 無抵抗のまま殴られたオーディーンが仰け反り、蹈鞴を踏む。
 その間にアダーガから伸びた鎖を引きつつ盾を回収して着地するシェイド。

「もう一度!」
『くっ、させぬよ!』

 再度跳躍し盾で殴ろうとするも、今度はエネルゴンテクターで受け止められ弾き飛ばされる。

「くっ!?」
『そう何度も―』

 そこまで言って、オーディーンの動きが止まる。
 弾き飛ばしたシェイドの後ろに幾つもの魔術陣が展開され、その向こう側に機体から紫電を迸らせガルダテンペスターを装着したジゼルが、両腕の高周波ブレードをセットしオーディーンを狙う様に両手を組んで前に突き出しているのが目に入ったのだ。

『っつ!?』

 ソレはゼファーが以前にも感じた悪寒だった。
 異形と化したシェイドが放った詳細不明な黒い球体に似たイメージを、ジゼルにも感じたオーディーンは即座に意識を切り換える。

『マックスファイヤァァーーー!!』

 動く気配も無く何かを待っている様なジゼルに対して、惜しみなく全弾発射するオーディーンだったが―

「ラウンドシールド・ファランクス!」

 ジゼルを守る様に立ちはだかったシェイドの幾重にも展開した魔術による盾が、その全ての攻撃を耐えきる。

『くっ!? そこを退くのだ!!』
「ジゼルには指一本触れさせない!!」

 更に続く攻撃で一枚また一枚と壊されていく盾だったが、最後の一枚が割れる瞬間にジゼルの全身を赤いオーラが包み込み放電量が激しさを増す。

『マスター! 行きます!!』
「判った!!」
『させぬよ!』

 ジゼルがジリッと地面を踏み締めると同時に、オーディーンがエネルゴンテクターを構える。

『どんな攻撃だろうと、エネルゴンテクターを貫く事など―』
「ソレを待っていた!!」

 エネルゴンテクターへエネルギーが集中し凄まじい輝きを放つ。
 おそらくは、どんな威力の攻撃であろうと防ぎきるであろう盾。
 しかしソレを持つ左腕に刺さったままだったジゼルのビットであるアローヘッドが、突如ビーム刃を更に長く展開して関節部分に深く食い込む。

『ぬうっ!?』
「命の危機を前にして焦ったな! トルネード・ストライクウゥ!!」

 更に追い打ちでブラックFになったシェイドが空間湾曲シールドを全開にして四回転ジャンプからの回し蹴りを、エネルゴンテクターの側面に叩き込んで大きく跳ね上げる。

『何っ!?』

 予想外の一撃と左腕に食い込むアローヘッドのせいでオーディーンはエネルゴンテクターを再び構え直せず、装甲の表面を覆っていた『聖王の鎧』もエネルゴンテクターに集中していて圧倒的な防御力を失っている。
 まさにシェイドとジゼルが生み出した千載一遇のチャンス。

「今だ!」
『マスター、短い間でしたが再会出来て嬉しかったです。迷わず前に進んで下さい!』
「…えっ?」

 ジゼルの言葉に違和感を感じた瞬間には遅かった。
 第七感を発動させたシェイドの目でも追いきれない程に、ソレは早過ぎたのだ。

 赤いエネルギーが密度を増して真っ赤な球体と化したジゼルが、放電しながら発射される。
 高周波ブレードから発生させた擬似的な電磁誘導で音速を超える加速を果たしたジゼルは、更に前方に展開していた加速魔術陣により光速を超える弾丸と化した。

 ―そして―

 オーディーンの上半身に命中し、凄まじい爆発と衝撃を起こして粉砕した。
 愛と嘘の境界も 奥ゆかしき側を逃げる

 飽くなき挑戦者 愛なきLove-nation

 我が身も冷めればただのオブジェ

 紡ぐ糸はBORDER

 その陰にConnection

 明日は誰の番だ 教えて欲しい

 目眩く非現実に 漂い眠れば

 I'm wonder 行けるだろう

 立ち止まる事も許されないまま

 気が付けば何が残るのだろ



GONG 第六話
   デタラメな残像



「どうした、ユーノ・スクライア! まだまだ俺は本気では無いぞ!?」
「うる…さい!」

 高速で飛び回るフリークに対し、ユーノは未だに対応できていない。

(このままじゃジリ貧だ…!)

 最初と違い、既にユーノはフリークの動きを見る位の事は出来ている。
 しかし、その速さに対処出来ているのはブレードビットを総動員した防御に徹しているからだ。

「守ってばかりでは、俺には勝てない!」
「そんな事…判ってる!」

 正面から振り下ろされたアイスブランドをブレイブハートで受け止めた体勢で、二人が睨み合う。

「ならば、貴様の強さを見せてみろ!」
「言われなくても…」
「それとも、やはり偽物は本物に劣るのか!?」
「…っ!? 誰が…誰より…劣るだって!!」

 フリークの言葉を聞いたユーノが、更に力を込めてアイスブランドを押し返す。

「ぬ…しかし、力押しで―」

 逆に押し返される形になったフリークだったが、その姿が掻き消える。
 急に力の掛け所を失い前につんのめったユーノの背後に現れるフリーク。

「どうにかなる等と!」
「ぐうっ!?」

 ユーノの背中が斬り付けられ、火花が散る。
 しかしソコでフリークは気付いた、宙を舞う六枚のブレードビットが見当たらない事に。

「…なまじ広すぎるから見失うんだ」
「何…?」

 ユーノの仕掛けを警戒し、一旦距離を取るフリーク。
 しかしユーノの左手から拡がった結界は、二人をすっぽりと覆って何時の間にか設置されていたブレードビットを淵として半球に形成される。

「彼なら君の動きに着いていけるだろう…けど僕の反応速度じゃ無理だから…僕のやり方でやらせて貰う!!」

 改めてブレイブハートを構えるユーノを、フリークは注意深く窺うが見た目に変わりは無い。

「この結界が何をする物かは判らないが…仕掛けさせて貰う!」

 再び光の翼をはためかせフリークが高速で間合いを詰め、ユーノは防御しようとブレイブハートを傾けるが―

「遅い!」

 ブレイブハートをあっさり払い除け、フリークの斬撃で白い装甲に火花が上がり吹き飛ばす。

(手応えが軽い!?)

 斬り付けたフリークの腕に残る感覚は、先程までの物とは違っていた。
 人一人の重さにスーツの重量を足して、更にそれが動こうとする力も合わさった重みがまるで感じられない。
 まるで中身の無い金属の箱を叩いた様な―

「外れだよ!」

 気付いた時には、既にユーノが背後へと転移していた。
 そのまま背中を×の字に斬り付けられる


「ぐうっ!?」

 斬り付けられた生体装甲から火花が上がり白煙を上げながら蹌踉めきつつ振り返ったフリークの眼前には、ツインランサーモードのインヘリットを構えたBJ姿のユーノ。

「…ユーノ・スクライアが…二人だと……?」
「いいや、僕は一人さ」

 そう言うユーノの言葉と同時に、フリークの背後でスーツが立ち上がる。

「…遠隔操作…か? ならば本体を叩くまで!」

 BJ姿のユーノを本物と定めたフリークは、一瞬で間合いを詰めてアイスブランドを振り下ろす。
 その一撃をインヘリットを掲げて受け止めたユーノは―

「今度は、此方から翻弄させて貰う!」

 フリークの背後に居るスーツの方が持ったブレイブハートに二枚のカードを読み込ませる。

『ディバイド、イリュージョン』

 無感情な電子音声と共に、ユーノの姿がぶれ、分解して散らばるインヘリットと共に散開した。

「何…ユーノ・スクライアが…今度は6人!?」
「一人で対処出来ないのなら、数で当たらせて貰う!」

 五人のユーノがそれぞれの右手に分割されたインヘリットを持って、フリークへと襲い掛かる。

「数が増えようと、所詮は一人! これ程の幻術を扱い切れまい!」

 冷静にユーノの戦法を幻術による撹乱と見抜いたフリークが、手始めにと一人目へ斬撃を加える。

「ラウンドシールド!」

 一番前に居たユーノは、その斬撃を障壁で防御。
 その間に残る五人のユーノがフリークを取り囲む。

「「チェーンバインド!」」
「「スペルバレット!」」
「フレームゲイザー!」

 横へ回り込んだ二人のユーノがフリークの全身にバインドを掛け、続いて二人のユーノが空中から魔力弾を浴びせ、最後の一人が結界で衝撃波を浴びせる。

「ぐうぅぅぅっ!?」

 ラウンドシールドで防御した事で目の前のユーノ以外は幻影と判断していたフリークにとって想定外だった攻撃は、だが威力こそ大した事が無い。
 しかし、その驚きの隙を突いて眼前のユーノは次の一手を打つ。

「プロテクトナックル!」
「ガハッ!?」
「プロテクションスマッシュ!!」

 防御魔法で固めた右腕でボディブロー、更に防御壁を纏ったまま突撃。

「くっ、だがこの程度―」
「ピアッシングスタッブ!」
「なっ!?」

 反撃に移ろうとしたフリークの背中から、ブレイブハートが胸まで突き刺されて刃先が飛び出す。

「イジェクト!」

 ブレイブハートを引き抜きスーツが飛び退くと同時に、ユーノも一旦距離を取る。
 一拍置いてフリークはアイスブランドを地面に突き立て片膝を着いた。

「…ここを通して貰おうか?」

 普通なら戦闘不能なダメージを負ったフリークに、未だ全てのユーノは警戒を怠らない。

「くぅ……フッ…さすがだな…さすがはユーノ・スクライア…無限書庫の業務に追われながらも…此程の戦闘力を持つとはな…」
「誉めても何も出ないよ、時間稼ぎは止めろ」
「時間稼ぎ…? ああ…そう言えば、そうだったな。だが、そんな事はどうでも良い」
「…何…?」

 胸から背中まで貫通した穴を抑えながら、フリークは喜悦を交えて呟く。

「クロノ・ハラオウン提督との模擬戦は負け越していると聞いていたが…やはり手を抜いている様だな?」
「…彼等の認識範囲の『ユーノ・スクライア』を演じるなら、こんな物を使う訳にはいかないだろう?」
「ああ、その通りだ…やはり貴様もフェイト達と同じ、天才と呼ばれるべき存在―」
「僕の努力を彼女達と同じにされては困るな!」

 フリークの一言に声を荒げるユーノが、分割されたインヘリットを突き出す。

「最初から大魔力を持っている訳でも無い、強力な砲撃を撃てる訳でも圧倒的なスピードがある訳でも無い、オンリーワンのレアスキルも無ければ身体能力を鍛える暇も無い! だから僕はひたすら経験をシミュレートし、戦術を練り、やれる範囲でやれる事をしたに過ぎない!」
「…無限書庫総合司書長程の男に取れる僅かな空き時間で、そこまでの力を手に入れ―」
「空き時間なんて無かったさ、だから常にマルチタスクを割いていた。食事や入浴中は勿論、仕事中もね」
「なっ…!?」

 ユーノの言葉に絶句するフリーク。
 それもその筈、今ユーノが言った事は通常の魔導師では想像すら出来ない神業。

 普通の魔導師が1時間程度で値を上げる検索・読書魔法を二十以上並列して処理しながら、スケジュール管理しつつ司書達に指示を出して対外交渉までこなすだけでも異常で尋常な事では無い。
 その上で並行して戦闘シミュレーションまで行っていた等と、達の悪い冗談以外に有り得ない。

「…ふっ、前言撤回しよう。貴様は天才どころじゃない、もっと凄まじい何かだ!」
「まだ、言うか!?」
「褒め言葉だ、ならば俺も人間を超えねばならんな!」
「何をっ!?」

 フリークが左手で取り出したのは、先程も彼が使用した『N』と刻印されるUSBの様なアンプル。
 ソレを躊躇なく首筋に突き刺す。

「お前っ、ソレは!?」
「グッ、ガアアァアァァァ!!」

 変化はすぐに起こった。
 フリークの異形の身体の左側の首から亀裂の様な筋が入り、続いて左半身が赤く脈動しながら盛り上がる。

「ぐううぅぅぅぅっ! ああぁぁぁぁっ!!」
「何てバカな事を、精神を食われるぞ!?」
「この…程度ぉぉ、乗り越えてぇぇ見せるぅぅぅぅっ!!」

 絶叫と共に胸の穴が埋まり膨れ上がる左半身が収縮を始め、赤色のまま右半身と同じ…少し波打ち炎をイメージした形に収まる。

「あの力を…制御した!?」

 ベルトのドライバーを介さず異形化するとなれば、最早人の姿に戻る事は叶わない。
 しかも精神を飲み込まれかねない事を判っていながら実行し、意識を保ったままのフリークに驚くユーノ。

「ハアハアハア、フランベルジュ! ブレイズウォール!!」

 荒い息を吐きながらフリークは左手にも赤い片刃剣を呼び出し、振り抜く。
 同時に結界の天井まで届く炎の壁が現れユーノ達へと迫る。

「っ、ならさ!」

 炎の壁に対しユーノはブレイブハートを突き刺しカートリッジをロード。

「シーリング、ブレイズウォール!」

 ブレイブハートの内部へ炎を吸い込みながら、カードをスリットに通して魔法を封印する。
 しかし、ソレは只の目眩ましだった。

「ハアアァァァァ! プロミネンススラッシュ!!」
「何っ!?」

 熱気で陽炎が浮かぶ中を、体の身中線で赤と蒼に分かれた体色となったフリークが突き抜け一番左側に居たユーノへと高速飛行で接近。

「ラウンドシールド!」

 不意をつかれながらも障壁を張ったユーノだったが、炎を吹き上げる剣はあっさりとラウンドシールドを砕いて受け止めたインヘリットごと吹き飛ばす。

「そんな、あっさり!?」

 吹き飛ばされたユーノの姿が掻き消え、煙を上げるインヘリットが地面へと深くめり込んだ。

「成る程な! ならば!!」

 再び光翼を広げ飛び立ったフリークは、あっという間に右端のユーノへと辿り着く。

「さっきより速―」
「アイスコフィン!」

 右手のアイスブランドから放たれた凍気が、ユーノを凍り付けにすると氷柱の中で幻が消えてインヘリットだけが残る。

「やはりな…媒介としてビットを使っていたか」
「気付かれたか…!」

 ユーノの分身の正体はインヘリットが生み出した虚像である。
 それと同時に遠隔操作での魔法発射台として機能する事で、あたかも実体が在るかのように見せる。

「これで…2つ!」
「くっ、チェーンバインド!」

 再びユーノ達が散開し同時にチェーンバインドを放つが、フリークは巧みに回避して間合いを詰める。

「3つ目!」
「くっ!?」

 間合いを保とうと逃げるユーノへと、あっさり追いついたフリークがアイスブランドを叩き込む。
 辛うじて反応したユーノがインヘリットで受け止めた物の、あっという間に凍結して機能を停止。

「4つ!」
「まだだ!」

 残ったユーノが何本ものチェーンバインドを伸ばしてフリークを拘束しようとするが、二刀があっさりと粉砕。
 そして、また一つインヘリットが沈黙した。

「さあ、どうする? 人間を辞めたこの力…小細工は通用しないぞ?」
「そう…みたいだね…」

 あっという間に劣勢となり、ビットを半分以上も使用不能となったユーノは考える。

(インヘリットは後二つ…ブレイブハートは健在だけど…アレを使うしか無いな…)

 残る三人のユーノはブレイブハートとインヘリットを構え、刀身に人差し指と中指を添える。

「…言霊にて闇を払うユーノ・スクライアが命ずる…我が身に宿る神秘の力よ、剣に宿りて光を成せ…レーザーブレード!!」

 魔術による強化の為の詠唱と同時に指を滑らせると、それぞれの刃に光が灯る。
 そして―

「正面から行く!」
「来い、ユーノ・スクライア!!」

 ユーノ達は一斉に、フリークへと突撃する。

「プロテクションスマッシュ!」
「ストラグルバインド!」

 先頭を行くユーノがプロテクションスフィアを纏い、続くユーノが少し後方から魔力附与を無効化するバインドを幾重にも伸ばす。

「ブレイズウォール!」

 対するフリークは、再び炎の壁を展開。
 真正面から突っ込んで来るユーノへ叩きつける。

「ぐっ、おおぉぉぉ!」

 炎に炙られた先頭を行くユーノのプロテクションがみるみる砕けていくが、崩壊した直後にブレイズウォールを切り裂いて道を開いた。

「アイシクルスティンガー・エクスキューションシフト!」

 同時にフリークの用意していた無数の氷の刃が、先頭のユーノと後続のストラグルバインドへ襲い掛かる。
 プロテクションを掛け直す間も無く先頭のユーノが掻き消え、インヘリットだけが弾き飛ばされた。

「まだだ!」

 続いて炎から飛び出したユーノがインヘリットを構え斬り掛かる。

「その通りだな!」

 インヘリットをフランベルジュで受け止めたフリークの目に入ったのは、白いスーツのユーノ。
 既に左上段から袈裟斬りの体勢に入っており、目前のインヘリットを構えたユーノも無視出来ないフリークは左手の剣から炎を吹き上げる。

「セルフバーニング・X!!」

 同時に赤い左半身から炎が溢れ出して、目前のユーノを焼き尽くした。

「ぐっ!?」

 しかし目前のユーノの幻が消えるか消えないかの一瞬で、炎を物ともせず白いユーノがブレイブハートを振り下ろす。

「ハアアァァァァ!!」
「何の!!」

 フリークの辛うじて反応した右腕が、光る刃を受け止める為にアイスブランドを持ち上げる。
 だが光る刀身はアイスブランドをへし折り、彼の右肩から左脇腹へと真っ直ぐの傷を付けた。

「ぐはぁぁっ!?」

 予想外のダメージに一歩、二歩と後退るフリークへと追撃する為にブレイブハートを振りかぶるユーノ。

「もう一度!」
「っ、させん!!」

 振り下ろされた光る刀身を吹き荒れる炎の剣で受け止め、上空へと弾き飛ばす。
 宙を舞うブレイブハートに好機とばかり、フリークはフランベルジュを振り下ろす。

「貰った!」
「まだだ!」

 しかし、その一撃は光る刃で受け止められる。
 ユーノの掲げた手には、何時の間にか弾き飛ばされた筈のインヘリットが握られていた。

「何っ!? だが、アイシクルエッジ!!」
「それも見越している!」

 折れたアイスブランドに氷の刀身を創り出したフリークが、更に斬り掛かる。
 ユーノもソレを見込んでいて、先程の炎で焼け焦げたインヘリットで受け止める。

「さすがだな、ユーノ・スクライア! だが、その体勢では防いだとは言い難いぞ!!」

 押し合う四つの刃と刃。
 だがフリークのフランベルジュが炎を吹き上げ、アイスブランドは凍気を吹き出してユーノの両腕を包み込む。
 みるみるうちにユーノの右腕が炎に包まれ、左腕は凍結し始める。

「勝負あったな!」
「ああ、その通りだ!!」

 フリークの宣言に同意したユーノが、右腕を精一杯押し込んで体勢を崩す。
 だがフリークはソレを読んでいて、フランベルジュをずらしユーノの腹部を突き刺す。

(この手応え、確かに実体だ!)

 確信を持って刃を引き抜いたフリークの前で、ゆっくりと膝を折る。

(だが油断は禁物。ユーノ・スクライアならば、こんな事態すら想定内に違いない)

 そう考えるフリークは、決して白いスーツから目を離さない。
 だからこそ気付けなかったのだ、最後の光る刃の切っ先を。

「…これで僕を倒したつもりかい?」
「この程度で諦める男では、あるまい?」
「…よく判ってるじゃないか…!」

 その言葉と同時に白いスーツの後ろから人影が飛び出す。
 民族衣装のようなBJにマントをはためかせ、右手には刀身が光るマチェットを携えて―

「八人目のユーノ・スクライアだと!?」

 驚愕するフリークだったが、何とか防ごうとフランベルジュを上げようとするが腕が動かない事に愕然とする。

「なっ、リングバインドか!?」

 両腕両足にびっしりと組み付いたリングバインドが、彼の動きを完全に封じていた。

「おおぉぉぉ!!」

 そんなフリークに対し、ユーノは飛び込んだ勢いのままに左肩から右脇腹へと深く切り裂く。

「ぐあぁぁぁっ!?」

 X字に付けられた傷に苦悶の絶叫を上げるフリーク。
 たたらを踏みながら後退っても、フリークは何とか踏み止まる。

「くっ、だが!!」
「ハイブリッド・ラウンドシールド!」

 バインドを力尽くで砕きながらアイスブランドを振り上げるフリークに対し、ユーノはラウンドシールドを多重展開で受け止める。
 幾つかのラウンドシールドを砕いた後、ぶつかり合う剣と障壁は完全に拮抗した。

「砕けきれない!?」
「バースト!!」

 先程までのぶつかり合いの結果との違いに、驚いたフリークはシールドバーストの爆発に飲まれて一瞬ユーノの姿を見失う。

「っ、そこだ!」

 爆煙に塗れながらも向こうの微かな光を狙ってフランベルジュを横凪ぎすれば、甲高い音と硬い何かを叩き折った感触。
 一瞬遅れて煙が切り裂かれれば、真っ二つになったマチェットが目に入った。

 だが―

「言霊にて魔を断つ刃の代行者たるユーノ・スクライアが命じる! 我が精神に宿る力よ、全てを貫く心の刃となれ! アブソリュートピアス!!」

 真っ二つに折れたマチェットの更に上で、印を組んだユーノの祝詞が響く。
 その左手の人差し指と中指を揃えた先が翠色の輝きを宿していた。

「囮!? しかし素手の貴様に、俺を倒す威力の魔法はっ!?」

 フリークの目に入ったのは、回転しながら落ちてくるブレイブハート。
 ユーノは、そのグリップを違い無く右手で掴む。

「そこまで計算済みだと!? ブレイズ―」

 落下して来るユーノを狙い撃とうとするフリークの動きが阻害される。
 見れば白いスーツの両手から数え切れない数の、腕力低下や魔力構築阻害等の何種類もの付与効果があるバインドがフリークの両腕両足に纏わり付いていた。

「どんな量のマルチタスクを行使しているんだ!?」
「今更だな! ブレイブハート、モードA.C.S!!」

 ブレイブハートに魔力附与を行ったユーノが着地と同時に翠色の光に包まれた刀身の基部から翡翠の翼が広がり、剣先をフリークにの胸に出来た傷の交差点へと突き刺す。

「カハァッ!?」
「ブースト・ラム!!」

 そのまま飛行魔法と加速魔法を併用して結界の境界面まで加速しながら衝突すれば、剣先がフリークの背中と結界から突き出た。

「ぐはあぁぁッ!?」
「イジェクションバーストっ!!」

 勢いよくブレイブハートを抜いた直後、フリークの体内で魔力の爆発が起こる。

「ゴヴォッ!? …見…事だ…」

 胸や口から白煙を上げながら、フリークはゆっくりと前のめりに倒れる。
 それでもユーノは警戒を解かない。

「…さすがはユーノ・スクライア…俺とは違…うな…」
「…人は皆一人一人、違う。僕とシェイドだって違うし、君の好きなフェイトだってオリジナルの娘とは違う」
「…そう…だな…ふふっ…」

 ゆっくりと寝返りをうち、仰向けとなったフリークが自嘲的に笑う。

「…何がおかしい?」
「…本当は貴様を倒した後…俺が責任を取って司令部を落とし…ゼファーを止めようと…考えていたが…」
「…何だって?」

 ポツリと話し始めたフリークの言葉に、思わず聞き返すユーノ。
 その腹部が赤く染まり、血が滴っているのが判る。

「…今更フェイト達の前に出て行ける程、俺だって恥知らずじゃないさ…だが…彼女達の笑顔は…曇らせたく無かった…」
「…今更だね」
「ああ…本当に今更だな…それでも、何かしら彼女達を助けたかった…善意なんかじゃない…自己満足だ…」

 フリークの雰囲気をユーノは、よく知っている。
 ソレはユーノが一番よく知る『彼』と同じだから。

「…ソレも、今となっては叶わない…時間切れ…だな…」

 フリークの言葉通り、ゴボゴボと音を立てて赤い左半身が脈動し始める。

「直に俺の…意識も狂気に支配…される…その前…に止めを…」

 更なる異形化を始めたフリークの言葉に、ユーノは苦い表情を浮かべるが動こうとしない。

「…既に俺には…家族も居ない…悲しむ…者も居ない…この命が…消える事で…俺の罪…の償い…が…出来るなら…」
「…判った」

 フリークの想いを受け取ったユーノは、彼の胸へとブレイブハートを突き立てるのだった…。
 HERO    どんなに  強い奴も

 ちっぽけなガキだったんだ

 HERO   弱き   己乗り越え   強くなる

 神宿る  拳掲げて   俺は突き進むだけさ

 HERO    いつか  敗北に汚泥なめるまで    闘う

 HERO 俺は諦めない

 その胸に未来(あす)を描き

 目覚め行く

 世界へ今   霙い上がれ

 強く高くどんな時でも   なにがあっても

 HERO   俺を讃える声や

   喝采なんて   欲しくはないさ

 HERO   だから   人知れず   悪と闘う

 神宿る  拳掲げて   俺は突き進むだけさ

 HERO    いつか  敗北に汚泥なめるまで    

 闘うHERO

 孤独なHERO






GONG 第五話
         THE HERO!!




 襲い来る有象無象。
 しかしホクトにとっては、そんな状況は今更であって。

「でえぇりゃああぁぁぁぁ!!」

 無数の光弾を拳の弾幕で弾き飛ばし―

「とりゃああぁぁぁぁ!!」

 飛来するブーメランを手刀で叩き割り―

「せええぇぇぇぇいぃぃ!!」

 迫り来る光刃をはね除け殴り倒し―

「おらあぁぁぁぁぁぁ!!」

 襲い来るガンナックル型の懐に入り打ち抜く。

『さっすがホクトくん、近接戦は向かう所敵無しだねっとぉ!?』
「コッチに気を回す前に、テメーを何とかしな!」
『わかってますって! おりゃ!』

 そう答えてゼノンジンライは平行に構えた超電導ライフルで、撃ってきた魔道騎兵を撃ち貫く。

『にしても、コイツ等…ちょっと様子がおかしくないか?』
「ああ、少しずつやりにくくなってやがる」

 ゼノンジンライの違和感は、当然ホクトとて気付いている。
 何故か戦闘機人達は集団で襲って来る事は無く1・2体で攻めて来る上に、徐々に動きのキレが良くなっている。
 逆に射撃・砲撃型と魔道騎兵は間合いの外からの援護に徹して動こうとしない。

「何か狙ってんのか?」
『にしては、露骨過ぎんじゃないの?』

 魔道騎兵はひたすらにゼノンジンライしか狙っていないし、ホクトへは近接型しか近寄らない。

『時間稼ぎかな~、やっぱり?』
「あの上で見てるバカチンが、そんなタマか? あのニヤケ面は俺を殴りたくて殴りたくて仕方ない顔だぞ?」

 一人と一機が見上げる先には、クレーンの上からニヤニヤしながら見下ろすセカンドの姿。

『ああ~確かに作戦前のお前と同じ顔だわ、アレ』
「俺の方が男前だ!」
『いや、どう見ても同じ顔だぞ。アレ?』

 ムキになっても、瓜二つな事には変わりない。

『ホレ、次来るぞ?』
「わぁってるよ!」



―暫くして―



「これでぇ! 最後ぉぉ!!」

 ホクトの言葉通り、最後のウォリアーズが殴り倒されて爆発する。

『コッチもな、ゼノンブレイカー!!』

 同じくゼノンジンライも、強力なブローを魔道騎兵をの腹部に当てて真っ二つにする。

「片付いたぞ、オラァっ! もったい付けずに降りてきやがれ!!」
「へっ、漸く俺の出番だな」

 ウォリアーズが全滅した事で、クレーンの先から飛び降りる。

「今日こそテメーを叩きつぶしてやるぜ、ゼロサード!」
「誰がエロバードだ、ゴラァっ! 毎回やられ役!」
「誰がやられ役だ! 今までの俺様と一緒にするな、今の俺はスーパーセカンドなんだよ!」
「はっ! テメーがスーパーペナントなら、俺は超スーパーホクトだ!」
「ああん!? だったら俺様は超スーパーニューセカンドだ!」
「なら俺はグレート超スーパーニューホクトだ!」
「だったら俺様はネオグレート超スーパーニューセカンドだ!」
「なら俺はネオグレート超スーパーニューホクトZだ!」
「だったら俺様はネオグレート超スーパーニューセカンドZ改だ!」
「なら俺はネオグレート超スーパーニューホクトZZ改だ!」
「だったら俺様はネオグレート超スーパーニューセカンドZZ改2だ!」

 果てしなく続く子供の言い争い。
 暫くして、ポツリとゼノンジンライが呟いた。

『…変に名前長くするより、『シン・ホクト』とかで良くね?』
「「なん…だと…?」」

 そのシンプルでありながら説得力に満ちた(?)響きに驚愕する二人。

「も、盲点だった…そんな『シン』なんて付けたら、カッコ良すぎるじゃねえか…」
「ジンライ…恐ろしい子…!?」

 無駄に撃ちひしがられている二人に、思わず溜息をつきたくなるゼノンジンライ。
 勿論、鋼の身体は呼吸を必要としない。


「しかーし、これで勝敗は決したな! テメーは、このシン・ホクトの敵じゃねえ!」
「くっ、だったら…だったら俺様はカイザーセカンドだ!!」

 一体何の勝負をしていたのか忘れかけている二人。
 そこへ―

『セカンド、貴方が皇帝を名乗るなんておこがましいと思いませんか?』
「誰だ!?」
「ク、クイーン!?」

 突如響いた放送はホクトのよく知る声と同じだったが、その口調は彼女と全く違っていた。

『御機嫌よう、ゼロサード…いえ、今はホクトという名でしたわね』
「…確か…クイーンとか言う名前だったな?」
『それは名前では、ありませんわ。私の名はシェルパ…貴方に名乗っても意味が無いのですけど』
「そりゃあ、どういう意味だ?」
『率直に申し上げて、あなたはセカンドに勝てません。ですので、あなたの命は此所までです』
「…ほおぉ~、俺の命ねぇ?」

 シェルパの言葉にコメカミを震わせるホクト。

「そう言うこった、ゼロサード! 覚悟しな!」
「やなこってス!」

 セカンドの言葉と同時に、殴り掛かったホクト。
 ―しかし。

「はっ! 丸見えなんだよ、タコが!!」

 セカンドは拳を躱し、逆にカウンターを合わせる。

「ガハッ!?」

 鳩尾に入った拳のダメージで蹌踉けるホクト。
 そこへ更にセカンドが追撃を掛ける。

「なるほどな、だったらコレはどうだ!?」
「ぐっ!?」

 両腕で顎を守る様にして抉り込む様に懐へ入ろうとするセカンド。
 させまいとジャブで迎撃しようとするホクトだったが―

「見えてるっつったろーが!」

 セカンドはウィービングとガードで的確にジャブを防いで迫る。

「オラよ!」

 とうとう懐に入ったセカンドのボディブロー。
 辛うじて掌で受け止め後ろへ飛ぶ事で威力を逃がしたホクトだったが、動揺を隠せない。

「テメエ…やる様になったじゃねえか!?」
「驚くのがはえーんだよ! まだまだテメエにやられた分はさっぱり返せてねーからな!!」
「んなモン知るか、テメエで取っときな!」

 再び打ち合うホクトとセカンド。
 しかし一件互角に見える二人の殴り合いは、徐々にホクトが押され始める。
 劣勢となっていくホクトだったが、新生ウォリアーズと戦っていた時以上の違和感を感じていた。

「オラオラオラ、どうしたどうした?」

 ピーカブスタイルで懐に入ろうとするホクトを、セカンドがジャブで牽制。

「んなモンは!」

 ソレを右腕を伸ばして軌道を逸らし最小限の動きで避けて、ホクトは懐へと飛び込む。

「ゲロ吐きやがれ!」
「効かねえなあ!!」

 掌で拳を受け止め後ろへ飛んでダメージをいなしたセカンドは、不敵な笑みを浮かべた。

「だが…成る程な。あのジャブは、そうやって避けるか」
「…何ぃ?」

 セカンドの言葉の意味が判らず、訝しげな声を上げるホクト。

「へっ、まだ判ってねえみたいだな」
「何の話してんだ?」
「テメエが強ければ強い程、今の俺も強くなってんだよ!」
「…はあ?」

 セカンドの言葉の意味が判らず首を傾げるホクト。
 しかし、ソレに気付いた者が居た。

『まさか…ヤベェ、ヤベェぞホクト!』
「あん? いきなりどうしたジンライ?」

 今まで静観していたジンライが急に慌て出す。

『だから、ヤベェんだって!』
「だーかーらー、何がヤバいんだよ!?」
「へっ、ポンコツは気付いたみてえだが…もう遅え!」
『チっ、ホクト離れろ!』

 突撃してくるセカンドとホクトの間に入ったゼノンジンライが超電導ライフルで牽制するが―

「無駄無駄無駄無駄ぁっ!!」

 放たれた弾丸は拳の弾幕で弾き飛ばされ―

『このっ、ゼノンパンチ!』
『無駄だっつってんだろうが!』

 左腕のロケットパンチは手刀で叩き割られ―

『コッチ来んな!』
「遅えんだよ!」

 殴りつけようとしたライフルを払い除け殴り飛ばし―

『ぐっ、このやろう! ゼノンブレイカー!!』
「くたばれ!!」

 必殺ブローを躱して懐へと潜り込んだセカンドは、そのままゼノンジンライの腹部を打ち抜いて上半身と下半身を真っ二つにしてしまった。

「ゼ…ゼノンジンライいいいいぃぃぃぃ!!」
「あーハッハッハッハッ!! ポンコツが粋がるからだ!!」

 ホクトの絶叫・セカンドの高笑いと共に、二つに別たれたゼノンジンライのボディが大爆発する。

「く、くそ…まさかジンライが逝っちまうなんて…」
『ああ、もしもしホクトくーん?』
「今度はテメエの番だ、ゼロサード!」
「許さねぇ…許さねぇぞ、ジンライの仇は必ず俺が取ってやる!」
『いや、だから聞けよ。人の話を』

 居なくなったゼノンジンライの仇を取ろうと、ホクトは身構える。

「まだ実力の差が判ってねえみたいだなぁ」
「実力の差ぁ? んなもん関係ないね、俺はテメエをボコる! 徹底的にな!!」
『もっしも~し、アレ? 音声回路は壊れてないよねぇ?』
「ハッ、寝言は寝てから言え。ソレにポンコツ一台スクラップになった位で何キレてんだよ?」

 ホクトが何に怒ってるか判らないとばかりに肩をすくめるセカンド。

「確かにアイツはグチグチ煩いし、チャラいし、ビビりだし、すぐにサウスにチクるし、浪漫理解しねえし、ケチ臭いし、ビビりだったけどなぁ…」
『ちょっ、お前そんな事思ってたの!? て言うかビビりって二回言ったし!?』
「そんな奴だけど唯一無二の相棒だったんだよ!」
『ホクト…良いこと言ってるつもりだろうけどな、前の台詞で全部台無しだからな』
「今でもアイツの声はハッキリ聞こえる、俺は今でもアイツを背負ってんだってなぁ!!」
『聞こえてんのかよ!? じゃあ無視すんなよ!!』
「だから…テメーをぜってぇぶっ飛ばす!!」
『ホクトのあほー』
「んだと、コラアっ!?」
『やっぱり聞こえてんじゃねえか!!』

 漸くジンライの生存(?)に気付いたホクト。

「誰がアホだ、誰が!? つーか、死んだんじゃ無かったのかよ!?」
『ゼノンジンライのボディは遠隔操作だって前に説明しただろうが! 何で忘れてんだよ!?』
「忘れたんじゃねえ、最初から覚えてねえんだ!」
『威張るな! 尚悪いわ!! って、それ所じゃ無かった! ホクト、アイツの強さの正体が判ったぞ!』

 主とデバイスの無駄な口喧嘩に発展しそうな所を、何とかジンライは話を本筋に戻した。

『アイツ、お前の技というか動きを真似してるんだよ!』
「なにぃ、真似だぁ?」
「そうよ、その通りよ!!」

 ジンライの指摘に、セカンドは口端を上げて笑う。

「今までと、さっきのウォリアーズとの戦いでテメーの動きを全て分析してデータ化し、俺にインストールしてモーションを絶えず更新してんだよ!」
「ええと…ナンだって? 何異世界語喋ってんの、お前?」
「だからテメーの動きをだな―」
『アイツはホクトを見て、技を自分の物にしてんだよ!』
「おお、成る程」

 同じような言葉を並べ様としたセカンドの説明を、噛み砕いて判りやすく説明したジンライ。

「つまり今のお前と同じ強さを俺も手に入れた訳だ!」
「ふ~ん、ソレで?」
「何ぃ!?」

 しかしホクトに動揺は無い。

「早い話が今の俺と同じってだけだろ? 只でさえ偽物って負けフラグが立ってんのに―」

 そう言ってホクトは両拳をぶつけ合わせる。
 金属同士の甲高い音が響いて―

「『今』の俺を、『未来』の俺が超えられない訳無いだろうが!!」

 楽しみだと言わんばかりに、ニヤリと笑みを浮かべるのだった。