「如何して…」

男は彼岸の袂で足を止めた

 

向かう先は目の前に続く彼岸の向こう側
だが然し、男は何度も辺りを見渡し愕然とした顔で膝を付いた

「何故………如何して…」

暫し呆然と俯いていたが、漸くのろのろと立ち上がるとそのまま踵を返した

背後には自分を呼ぶ人々が待つ彼岸

その先に行かねばならない
 

だが男はもと来た道を引き返した






盛夏も去りそろそろ菊の香る月となってきた頃、活気づく市井では民の間で密かにある噂が流れていた

"夜半過ぎに出歩いてはならない"


何故ならばここ最近、名のある者達…つまりさる両班等が、人気の少ない街道にて腹を真一文字に裂かれた無残な遺体となって発見されていたからだ
そばには一際豪奢な軺軒が転がっており、壁には紅い文字で恐ろしい文言が書かれていた


”腹に一物ある功臣と謀る者は腹を裂かれる”


その言葉が何を意味するのか、気付いた者は震え上がった

だが、対象者である彼の者達は皆が一様にと深刻に捉えていなかった
 

そして今宵もまた、無知な者は闇夜にて腹を裂かれることとなる


 

 

麝香の香りを頼りに、歩みを進めた先には血溜まりに浮かぶ遺体が一つ

 

「また………間に合わなかった」

 

その人物を男は知っていた

 

時代を変えた功臣

長く続く時代を終わらせた"裏切り者"

 

だがその事実は、死した今何の感慨もない

それよりも、男の意識は目の前の"死"より微かに香る残滓にしかなかった

 

ずっとずっと麝香の香りを追い、闇夜を彷徨い続けるも、見付けるのは過去の異物のみ

 

「如何してこんなことを…其方はもう既に"逝った"と思っていたのに…」

 

涙が頬を伝う

 

「如何して逝かなかった?何故引き返したのだ?」

 

自身を見つめる強い眼差し

花の様に儚げに微笑む愛しい人が脳裏を過る

 

最愛の人は、一人また一人と奸臣達を葬り続ける

忠実な女人と共に

 

 

"王"だった者は再び歩き出す

 

王妃を喪い、己の本分を見失った男は今宵も彷徨い続ける

 

己の所まで堕ちてしまった片翼を探して…

 

 

 

 

 

 

 

Halloweenに寄せて

 

Jack-o'-Lantern

生前に堕落した人生を送ったまま死んだ者の魂が死後の世界への立ち入りを拒否され、悪魔からもらった石炭を火種にし、萎びて転がっていたカブ(ルタバガ)をくりぬき、それを入れたランタンを片手に持って彷徨っている姿だとされている...wiki参照

 

切り裂き魔

此処では本人自身のある理由により人を切り裂く殺/人/鬼を意味する

 

 

 

 

 

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