「真景累ヶ淵」(その10) | カクザンのブログ(岡山市の親子将棋教室)

カクザンのブログ(岡山市の親子将棋教室)

子どもたち、保護者の方に、将棋の楽しさ・魅力をお伝えします。次回教室は高島教室が8/4(日)、津山おもちゃ図書館将棋教室が8/4(日)の予定です。また岡山県こども将棋教室臨時交流戦は8/12(月・振休)に開催予定です。

カクザン:お隅さんに相撲取りの花車。新たなキャラクターが登場してきました。

テガタ:ここからは第2部という感じで、豊志賀の祟りとは別のストーリーが展開されるんじゃ。それでもこの2つのストーリーは最後には1本の話に合流するんじゃが・・・。

カ:最初にご紹介いただいた登場人物一覧の中で山倉富五郎以外は全員が登場しましたね。

テ:今回はいよいよその山倉富五郎が登場してくるぞ。

カ:オールスターキャスト勢ぞろいとなるわけですね。それではつづきをどうぞ・・・。

 

10.惣次郎殺し

翌年、真桑瓜のなる時分に一人の浪人がやってきた。名を山倉富五郎といい、元は江戸で座光寺源三郎の用人をしていたが、放蕩無頼にして親には勘当され、座光寺家はお取り潰しとなり、常陸の国に知己(しるべ)があるから金の無心に言ったが当てが外れ、少しでも金があればもとより女郎でも買おうという質(たち)。一文無しで怪しい物を着て、ふらふらとやって来た。

 

富五郎「ああ、進退もここに谷(きわ)まったなア、どうも世の中の何が切ないといって腹の空(へ)るくらい切ない事はない・・・」

と、惣次郎の畑の真桑瓜を盗み喰い。最初は1つだけのつもりが、続けていくつもほおばり、道中で腹が減った時のためにと懐へも2つ3つ突っ込んでいるところを百姓に見つかり、お縄をかけられて惣次郎のところへ連行された。

 

惣次郎「真桑瓜を盗んだからといっても何も殺しはしない。・・・ここで許しても他(わき)へ行って腹がへると、また盗まなければならん。・・・私(わし)の家に恩報(おんがえ)しと思って半年ばかり書物の手伝いをしてもらいたいがどうだろうか」

富五郎「このご恩は死んでも忘却は致しません・・・」

 

優しい惣次郎は富五郎のお縄を解かせ、飯を食わせると、富五郎が食うこと・・・。書物をやらせてみると、帳面ぐらいはつけられるし、算盤もできる。惣次郎には「べんちゃら」を言うが、百姓には武家言葉で嚇すので、惣次郎の顔があるから、村人からは「富さん、富さん」と大事にされ、本人は次第に増長。もとより好きな酒を外で飲むようになり、ずぶろくに酔って帰ったある晩のこと。惣次郎は留守で、母は寺参りで、家にはお隅がひとり留守番で縫い物をしていた。

 

富五郎「貴方はお武家の嬢様だが、運悪く水街道へいらっしゃいまして、・・・この家はほんの腰掛で、詰まらんと言っては済みませんが、けれども貴方は生涯此処にいる思召はありますまい、手前それを心得ているが、拙者もやむを得ず此処にいる・・・。貴方も故郷懐しゅうございましょう。」

お隅「それはお前江戸で生まれた者は江戸の結構は知っているから、江戸は見たいし懐かしいわね」

富五郎「有難い、そのお言葉で私はすっかり安心してしまった・・・」

 

富五郎はお隅を女房として江戸へ連れて帰れば親類に見直され、御家人の株くらいは買ってもらえるはずだからと意味不明のことを言って、何を心得違いをしたかお隅を口説きはじめる。無闇にお隅の手を取って髭だらけの顔へ押しつけるところへ母が帰ってきて、この体(てい)に驚き、そばにあった粗朶木を取って突然(いきなり)ポンと撲った。

 

富五郎「これは痛い」

母「呆れかえった奴だ」

 

富五郎は、お隅に不実意な浮気心があっては惣次郎様のためにならないので、本心を確かめようと気をひく真似をしたのだと言い訳をする。あまりに見え透いた嘘に、母は益々怒ったが、お隅は母をなだめ、富五郎には「お前は酒が悪いよ」と今後は酒を慎むようたしなめてその場は収まったかに見えた。

 

しかし、富五郎は「隅はまんざらでもねえ了見であるのに、ああ太え婆アだ」と、どうにかしてお隅を手に入れようと画策。胸に浮かんだのが安田一角と花車の喧嘩の起因(もと)がお隅であったことで、横曾根村にある安田一角の道場へ向かう。

 

富五郎の筋立ては次のようなもの。お隅とは江戸っ子どうしで打ち解けて話を聞いたところ、お隅は江戸へ帰りたがっている。安田一角のことを好いているが、麹屋に借金があることや、惣次郎に身請けされた恩もあり、嫌々ではあるが家を出られないでいること。富五郎は安田先生に剣術の指導をしてもらえればこれを土産に自分も江戸に帰ることができるので、お隅を安田先生のもとへ連れてくる手伝いをすること。安田先生ほどの剣の腕があれば江戸の旗本が放っておくはずはないから一緒に江戸へ参ろうとのこと・・・。

 

具体的には、ある場所に惣次郎を連れ出すので、提灯の灯を消すのを合図に惣次郎を斬っておしまいなさいという計画を説明。最初は訝る安田一角であったが、遺恨のある惣次郎が相手であり、また、お隅にぞっこん惚れていたため、この話に乗ってきた。時は明晩の酉刻(むつ)ということで話がまとまった。

 

富五郎の本当の狙いは、安田一角に惣次郎を殺させて、お隅を自分の手に入れるというものだった。惣次郎は剣術の免許を持っており、一方の富五郎はというと武士とは名ばかりで少しも剣術を知らない。そこで下手でも剣術の先生で弟子もいる安田一角の力を利用しようとしている訳だが、万が一、安田一角が惣次郎より腕が鈍くて、惣次郎に斬られるようなことがあるとまずいため、惣次郎が常に帯(さ)して出る脇差を払ってその中へ松ヤニを詰めておくという細工を施しておくという実に悪い奴。

 

翌日、惣次郎のお供で外出した富五郎は、約束の刻限に安田一角と示し合わせた場所へ惣次郎を誘導。小便をしてくるといって惣次郎のところを離れた富五郎はフッと提灯の灯を消した。

 

惣次郎「提灯が消えては真暗でいかぬのう・・・。富や、おい富おい富、何だかこそこそして後ろにいるのは、富や富や」

 

その声の方角に向かって近づくものあり。それは花車であった。

 

しかし一足先に惣次郎の前に現れたのは安田一角で、ズブリと一刀を浴びせかけてきた。惣次郎はヒラリと身を転じて、脇差の柄に手を掛けこれを抜こうとするが抜けない。そこを安田一角に一刀バッサリと切り込まれた。惣次郎が最後の力で鞘ごと投げつけた脇差は、一角の肩の処をすれて、薄(すすき)の根方へずぽんと突っ立った。惣次郎の懐の30両を奪い、一角が立ち去ろうとするところに花車の影。暗闇の中、安田一角は息を殺して隠れ、その場をうまく逃れていった。

 

一方の富五郎はバッサリ斬った音を聞いて、直ぐに家へ駈けていく。途中、茨か何かでわざと蚯蚓(みみず)腫れの傷をこしらえて、せっせと息を切って「只今帰りました。・・・・弘行寺の裏林で悪漢が14、5人出でまして・・・、旦那と2人でちょんちょん切り合っておりましたが、何分多勢に無勢で、旦那に怪我があってはならぬと思って、やっと一方を切り抜けて参りました・・・」。お隅は驚いて村の百姓を頼んで手分けをしてどろどろ押して参ったが、惣次郎は血に染まって死んでいた。

 

惣次郎の野辺送りから37日たった9月8日。花車が細長い風呂敷の包みを提げて惣次郎宅へ現れた。

 

↓ 人気ブログはこちら。


人気ブログランキング