「真景累ヶ淵」(その9) | カクザンのブログ(岡山市の親子将棋教室)

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子どもたち、保護者の方に、将棋の楽しさ・魅力をお伝えします。次回教室は高島教室が7/21(日)、津山おもちゃ図書館将棋教室が8/4(日)の予定です。また奉還町将棋イベントを7/20(土)の13時~18時30分まで開催予定です。

カクザン:新吉の次のお相手のお賤(しず)ですが、とんでもない悪女ですね。やはり豊志賀の祟りの犠牲になるのでしょうか?

テガタ:それはこの後の展開を楽しみにしていてくれ。それに比べて新吉というのは小悪人という感じじゃなw

カ:しかし土手下の甚蔵の最期も凄かったですね。悪人ですが、言っているセリフがなかなかもっともで、一本筋が入っているところは良かったです。

テ:そうじゃろう。円朝作品は、登場人物がそれぞれに魅力があるんじゃ。悪人は悪人なりになあ。

カ:この物語の結末はどうなるんでしょうか?

テ:まだまだ先は長いぞ。今はまだ半分が終わったところという感じじゃな。

カ:そんなに長いんですか?それでは続きをどうぞ・・・。

 

9.麹屋のお隅

惣右衛門亡き後、長男の惣次郎が羽生村の名主を継いだ。惣次郎は父親とは違い、大変な堅物で、母親にとっても自慢の息子だった。そんな堅物の惣次郎がどういうわけか麹屋の女中に惚れ込んでしまう。女中の名はお隅といい、今は女中をしているが、元々は武家の娘。父は元、谷出羽守様の御家来・神崎定右衛門といい、浪人中の父と一緒に水街道を通り、麹屋に宿泊中、父が倒れ、長患いの後に亡くなったという。薬代や葬式代に困っていたところを、宿の主が世話をしたところからこの家に奉公をするようになったもの。宿屋では働き女がお客に身を任せるといった「枕附き」という一種の売春がよく行われていたというが、このお隅はただ無事に勤めをいたし、人柄の良い立ち振る舞いから物の言いよう、裾捌きまで一点の申し分のない女だった。そういうまじめな働きぶりが惣次郎の気に入られ、惣次郎はたびたび麹屋へ通うようになり、深い仲になっていた。

 

翌寛政10年、近在の法恩寺に相撲場があり、そこで田舎相撲が行われることになった。そこに元は惣右衛門の奉公人だった花車重吉という関取が出るという。花車と惣次郎は幼なじみで、花車が相撲場にやってくる時は惣次郎はいつも贔屓にしていた。相撲見物にお隅を連れて行こうとした惣次郎だったが、大層なにぎわいで見物客も多く、何か間違いがあってもいけないということで、大生郷(おおなごう)村の宇治の里という料理屋へ上がり、そこに花車も呼んで酒を酌み交わそうということになった。

 

ところが、その店に居合わせたのが安田一角という横曾根村の剣術家で、腕前は鈍くも田舎者を嚇かしている、見たところは強そうな、散髪を撫で付けて、肩の幅が3尺もあり、腕などに毛が生えて筋骨逞しい男で、ちょっと見れば名人らしく見える先生。博打打ちのお手伝いでもしようという浪人者を2人連れて、下座敷で一口遣っていた。奥に惣次郎がお隅をつれて来ていることを聞くと、ぐっぐっと癪に障り、何かあったら関係を付けようと思っている。安田はお隅にぞっこんで、惚れて口説いて弾かれたという経緯があった。お隅も安田が来ていることを認め、気味悪がっているため、早く出て、花車の宅へ向かおうと店を出ようとするが、どうしても安田の処を通らなければ出られない。安田はわざと3人の鐺(こじり)を廊下に出しておくと、長い刀の柄前にお隅がつまずいてしまった。

 

安田「コレコレ待て、コレ其処へ行く者待て。・・・人の前を通る時に挨拶して通れ・・・」

惣次郎「・・・飛んだ不調法を致しました」

安田「・・只勘弁だけでは済むまい、かりにも武士の魂ともいう大切の物、・・・人斬包丁などと悪口を言うのは手前のようなものだろう。・・戦場の折には敵を断切るから太刀ともいい、片手撲(なぐ)りにするから片刀(かたな)ともいい、また短いのを鎧通しともいう・・・。刀を浄めて返せ・・・」

お隅「先生誠に暫く」

安田「何んだ」

お隅「・・・お馴染み甲斐に不調法のところは重々お詫びを致しますからご勘弁を」

安田「黙れ、・・・手前にはいささか祝儀を遣わした事も有るが、どれほどの馴染みだ、また拙者は料理屋の働女に馴染みは持たん・・・」

 

惣次郎がほとほと困っていると、奥の離れ座敷の方に客人に連れられて花車が来ていて、客人は至急の用ができて帰ったあとだったため、花車はこの様子を聞いていて心配していた。

 

多助「もし旦那様。・・・関取がねえ奥に来ているだ、大きに心配しているだが、ちょっくら旦那にお目に掛かりてえというが」

惣次郎「なに花車が、それはよかった関取に詫びをしてもらおう」

 

思わぬところで花車の助太刀を得たものの、安田一角の態度は一向に変わらない。至って賢い花車は安田が筋の悪い奴であることを見抜いている。決闘で決着をつけることになってしまったが、安田と連れの計3人を近くの天神様の境内に導く。安田らは刀を構えているが、花車は相撲取りらしくただ裸になっているだけ。これではとても勝負にはならないはずだが、大勢の見物人は皆、花車に声援を送っている。花車はというと、「逃げも隠れもしねえから」と、煙草をパクリパクリと呑んでいたりと余裕の姿。安田たちは当然負けるとは思っていない。

 

花車「これまア私(わし)が抱えても一抱えある鳥居、この鳥居も今日が見納めじゃア」

と、鳥居を抱えると、金剛力出してこれを一振り。鳥居は笠木と一文字が諸にトンと落ち、安田たちが一刀を振り上げている頭の処へ真一文字に倒れ落ちたから、驚いたのなんの。どのくらいの力かと安田たちはとても敵わぬと抜刀をもったままばらばら逃げると、見物していた百姓たちが各々鍬鋤を持って、「撲殺(ぶっころ)してしまえ」とわいわい騒ぐから、3人の剣客者は雲霞と林を潜って逃げていった。

 

田舎相撲は5日間で首尾良く終わり、「鳥居の笠木を落としたから、旦那様鳥居を上げて下さらんでは困る」と言って、花車は江戸へ戻っていった。花車の鳥居は石でできたものが今も天神山にあるという。

 

花車が帰ってしまい、惣次郎は怖くて外出できない状態が続いた。衆人の前で恥をかかされた安田一角が惣次郎を恨んでいたからだ。母も心配して、惣次郎が惚れた女の身の上を尋ねると、元武士の娘で、親の石塔料のために奉公していることなどを知りいたく感心し、そういう者なれば、どうせ嫁を貰わんではならんからと、麹屋へ話してお隅を金で身受けすることに。家へ連れてきてまず様子をみるとしとやかで、器量といい、誠に母へもよく事(つか)える故、母も気に入ってしまった。さっそく、村方の者を呼んで取り決めをして、内祝言だけを済まして、お隅を惣次郎の内儀(おかみさん)に迎えた。

 

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