今日の拾い読み 検証 制度
河北新報 12月27日(日)
「母子だったら」
「妻ではなく俺が死んだ方が住宅ローンもなくなったし、
母子だったらそれなりの支援を受けて暮らせたかもしれない」
岩手県大槌町の会社員飛田啓章さん(39)が父子家庭の疎外
感を募らせる。
東日本大震災で10年連れ添った妻の佳子さん=当時(36)=
が津波に巻き込まれた。中2の長男(14)と中1の長女(12)、
小5の次女(11)保育園児の次男(6)の4人を育てる。
次男は来春、小学校に進学する。先日、ひとり親の支援団体か
ら入学祝い金5万円を支給する案内が自宅に届いたが、目を通す
と非課税世帯に限られていた。
「何だこれ。働かない方がいいってことか」
祝い金を受け取れない悔しさではなく、支援の枠から外れてい
ることにむなしさが込み上げてきた。
飛田さんは町内の自動車販売店で働く。月の手取りは15万円。
給食費や光熱費、住宅ローン、食費などで全て消える。不足分は
農協で働いていた妻の労災が認められて支給される遺族補償年金
を頼りにする。
家事と子育てを両立させる毎日は綱渡りだ。閉店より1時間早
い午後5時に退社し、保育園に迎えに行く。家に戻ると夕飯作り
、掃除、風呂の準備と休む間もない。残業もできずに早く帰るの
が同僚に申し訳なく、今春から会社に頼んで時給制にしてもらっ
た。「そうでもしないと帰りづらかった」と飛田さんは言う。
体力的、精神的にぎりぎりの生活が続く。必死に働いて納税し
ても支援の手は届かない。「頑張っても報われない」と途方に暮
れる。
ひとり親への支援制度は以前から、大黒柱を失い困窮に直面す
る母子家庭を想定してきた。同じように仕事や子育て、家事に追
われていても、父子家庭は蚊帳の外に置かれがちだ。
震災遺族 適用外
年金加入者が死亡した場合に支給される遺族年金も震災時、母
子家庭に限られていた。本年度の支給額は子ども2人のひとり親
世帯で年122万9100円。経済的な下支えとしては少なくない。
昨年4月の国民年金法の改正施行で父子家庭にも拡大された。
震災で妻を亡くした家庭にさかのぼって適用されることはなかっ
た。震災遺族は対象から漏れ、制度改善の恩恵を受けられずにい
る。
飛田さんは他にも似たような経験をしている。
昨年12月に児童扶養手当の制度改革で遺族補償年金との差額を
追加で受け取れるようになったときがそうだった。窓口に足を運
んだが、手当の上乗せはわずか月数百円で、手続きの煩わしさか
ら申請を諦めた。
被災を免れた自宅の掃除をボランティアに依頼した際は、仮設
住宅でないことを理由に断られた。父子家庭の父親を取り巻く現
状は理解してもらえなかった。
「助けを求めても無理と言われるだけ」と飛田さん。制度や支
援の不備、不足といった積み重ねが父子家庭を孤立させている。

