時間を確かめるため、と言い訳をしながらベッドから手を伸ばして暗闇の中で携帯を探す。3:10の文字だけが光るロック画面。もちろん彼からの連絡は無い。うう~ん、と大きく伸びをして、冴えてしまった目をこする。
もともと寝つきが悪くてうまく眠りに落ちるまで時間がかかる。眠りも浅いので何かのタイミングで起きてしまうとそこからまた長い夜。もう慣れてしまっているから、今さら病名をつけられるくらいなら一人でやり過ごす方がましで。寝られないと翌日辛いのはわかっているけれど、頭の中を整理する時間を与えられたのだと思うことにしている。
さすがにこの時間のTLは静かで、とくに検索したいこともないし、会いたいのはただ一人。声が聞きたいけれどこんな時間に迷惑だろうな。それにしてもずいぶん彼と会っていない。落ち着かないのは彼の方だろうと気を遣ったつもりが自分の方が落ち着かなくなっていた。情けない。今夜眠れない原因はきっとそれもあるからなのだろう。
SNSにぽつり、と書く。
「元気かな」
誰に問うわけでもないその言葉は宙に浮かび、ゆっくりと画面に吸い込まれていく。文字にすると何だか滑稽だ。自分が薄っぺらで何の役にも立たない存在に思える。もちろん反応があるわけもない。明日から新しい一週間が始まるのだから賢明な人たちはもう夢の中だろう。ため息とともに消し去った。
と同時に、「通話」の通知。「わ!」携帯が手から滑り落ちる。慌ててシーツの上に手を這わす。
「もしもし?」
「まだ起きてたの?」
「あ、うん…」
「今夜も眠れないのな~笑」
「うん、…あなたも起きてたの?」
「ん~飲みに行ってて。さっき帰ってきた」
「そのわりにはちゃんとしてる」
「ひどいな~笑」
「だって……。元気、だった?」
「うん、ごめん、連絡しなくて。ヌナ、明日仕事でしょ?」
「もうダメ、目が冴えちゃった笑」
「ね、ちゃんとお布団入って」
「うん」
「眠るまで、”質問タイム”しようか」
眠れない時に付き合ってくれる、彼のおまじない。
「じゃあ、…私のどこが好き?」
いつも決まって最初に聞きたい質問。面倒がらずに、毎回新しい答えを探してくれる。いつか答えに詰まっちゃうんじゃないかと私の方が心配になるけど。
「え……そうだなぁ、意外と俺より天然なとこ」
「何それ。じゃあ、嫌いなとこは?」
これもほぼ定番だ。今日はどうやってかわすだろう?
「ん~…………変に気を遣うとこ」
「え?」
「会いたかったでしょ」
「あ……うん」
「ま、俺も言わないから、一緒か」
「…会いたい」
「うん、わかった」
ほんとにわかってんのかな。質問じゃないよ、これは願望なんだから。すると、彼の答えは、テレビ通話だった。
「ちょ、それ違うでしょ!!」
「顔見せてよ」
「だめっっ」
布団に包まり目だけ出して画面を見る。何だ彼もベッドの上にいる。しかも酔って妙に色っぽい。しばらく無言で画面を見つめる。愛おしい時間。
「ん、満足したから寝る」
「え~ヌナだけずるい」
「じゃあねっっおやすみ」
今夜のおまじないは質問二つで終了。もっと話したかったけれど、ちゃっかりスクショしたし、これを眺めて過ごすから淋しくないよ。あなたから会いにきてくれるのを、待ってるから。ごろんと横になって、画面の彼を見て微笑む。逆に眠れなくなった気もするけど、それはそれ。明けない夜はない。
