待ち合わせの時間から30分が過ぎた。待たせることが嫌いな彼の初めての遅刻。何度カトクしても既読にすらならない。胸騒ぎがして周りを何度も見渡して目を凝らす。握った携帯は黙ったままだ。誰にかけたら繋がるだろう…画面を見つめながらも頭の中は混乱していた。
突然、肩に大きな荷物を背負わされたような重みがかかった。「ヌナ」両側からにゅっと伸びた長い腕と同時にそう呼ぶ声で彼だとわかる。バックハグというにはあまりに魂が抜けて寄りかかり過ぎなのだけれど。「だから家においでって言ったのに」「甘えちゃいそうでさ…」「甘えればいいじゃない」「うん…」何でも顔に出てしまうから今は見せたくないのか、私が大きなぬいぐるみを背負ったような体勢はそのままだ。うなじに吐息がかかる。「ねぇ、今日はこうしてじゅのんくんをずっと背中にくっつけていたいな」「ん?」「家に帰ろう」「うん」
何も話したくない。何もしたくない。それでも誰かの温もりを近くに感じていたい。そんな時に会いに来てくれたことが嬉しいと言ったら彼は少し困ったような苦笑いをするだろうか。それはわがままじゃないよ。癒してあげられるのなら、降りるまでおんぶしてあげる。「ヌナ、つぶれちゃうよ?」「その時はじゅのんくんがおんぶして」「そうだね」
人一倍優しい君だから。肩を借りることに引け目を感じないで。泣いたっていい。さらけ出す場所が私ならなお嬉しい。こんなこと言っちゃダメかな。
「ヌナのほっぺが柔らかい」「はいはい昨日エステ行ってきました」「食べていいですか」「はいはいたっぷりどうぞ」ソファでおんぶというよりは抱っこされたまま頬をすり寄せてキス。急がなくていい。納得いくまで迷えばいい。いつまでだって、待てるから。
