ここの店主、杉本康介さんも若い。
京都の製麺所「麺屋棣鄂」麺を使って2017年にミシェラン掲載。

しかし、杉本さんはこの名門の外注の麺に「助けられた」とは考えず。
大人気の行列になった店の儲けで自家製麺に挑戦した。
2018年の4月から自家製麺に切り替えたとのことで。
このチャレンジは成功し、ミシェラン掲載は継続。
初来店の私は比較はできないが、何度もラーメンを食べている評論家たちのクチコミも、棣鄂の麺を持ち上げ、自家製麺を批判的に書いたものはない。

自家製麺は八丁堀七彩と亀有ののくらのように加水式のモチモチ感がある平打ち太切りがあったが。
すぎ本は真逆で、太めの素麺みたいに細い。
銀座八五も似た細さだが、決定的に違うのは評論家たちも絶賛する「麺肌」という微妙な食感だ。

麺肌は喉ごしではなく、唇をズズズっと麺が通過するときのセクシーな舌触りのなめらかな感覚である。

その理由は製麺する段階で、素麺のように麺を引きのばす「拉(引っ張り)」の手間をかけているからだろう。
普通のラーメンには角材のように「角」があるものだが、
それがない❗


だから本来「拉麺」は麺切りをしてはいけないのである。
素麺みたいに何回も折り返しながら引き延ばせば、10回で麺種2本が1000本超の拉麺になる。
この手間を惜しまなければ、切らなくていいわけだ。
庖丁で切らないから、麺は「角がなくスパゲッティのように丸い断面」になる。

しかし、引き延ばした麺はすぐ茹でなければならない。
だから外注して作り置きはできない。
そのことを最近、蕎麦切り上等の日本で原点回帰させたのが、本場の蘭州牛肉麺だ。

ここで使用している製麺機は、ラーメンの鬼、故・佐野実さんの令夫人から譲り受けたものということだが。
そこで佐野さんの麺づくりにあえてへつらわず、新たな道を切り開いた。

その姿勢は亀有ののくら店主と同じものだ。
しかし、杉本さんは師匠の佐野さんの鬼霊とミシェランの監視を背負い、その二つの難題を乗り越えた。

恥ずかしながら、私は杉本さんの目の前で
「これはすごい、麺を引っ張って、断面が丸くしてあるぞ」と思わず唸ってしまったが。

店を出たら、何と杉本さん御本人が扉の外で見送ってくれた。

ごちそうさま❤