この[やまぐち・辣式]の店主は30代半ばまで普通のサラリーマン(福島県の化学薬品工場勤務)だったそうだ。
同じラーメンファンの友人たちに手づくりラーメンの腕をほめられたのがきっかけで。
立川の商業施設ラーメンスクエア[アレアレア]の企画で素人がラーメンを提供するコンクール出場という経験をして。
あらためて早稲田大学の近くの西早稲田に店を構えた。
飲食店従業員の経験もなく、試行錯誤の連続だったそうだ。
しかし、ここまでいいかげんな仕事をしなかったのは、さすがのラーメン愛なのだろう。
開店してしばらくすると、[王様のブランチ]で取り上げられ、またたく間にミシェラン掲載。
この東陽町の店は二号店になるが、本来は担々麺の店として、西早稲田の鶏スープそばとは一線を引いていたらしい。
しかし、店主の山口裕史さんは喜多方の高校出身なので、本来は醤油ラーメン系で味を鍛えたとも。
私はいろいろ比較するより、あちこちの塩ラーメンを食べ歩きたいと思ったので、
[やまぐち辣式]も鶏塩が出るんだと調べてきてみた。
海老ワンタンもプラス。
麺は京都の老舗製麺所[麺屋棣鄂(ていがく)]を使っている。
ミシェランガイドは、別に麺を外注していてもマイナスにしない。
だから銀座八五も麺だけは浅草開化楼の外注だ。
この二つの製麺所はまさに「ミシェラン請負人」みたいなもので、ラーメン評論家も一切口出しできないらしい。
問題は客に出されたときの品質が安定しているかどうかで。
確かに麺打ちから自家製造にこだわると品質管理は二重に苦労があるだろう。
八丁堀七彩はそういう意味でもすごいところだ。
福島県出身の山口さんは、希少な会津地鶏を使い、かなり優しい味の鶏塩味を生み出した。
同じ店主が出店した複数の店が、ミシェランに掲載されるのは、本郷三丁目の[にし乃]と、この[やまぐち]だけだが。
なるほどミシェラン・クオリティというものはよくわかってきた。
単にトリュフオイルを使いまわしたり、エシャロットをネギ代わりにするだけじゃない。
一つの素材を料理として完成させる、それがビブグルマンの考え方であると。


