すでに昨年12月に公表されたように、20世紀FOX映画は5兆4千億円でディズニーに買収された。

そこで、この映画が日本で公開されるならば、間違いなくディズニーの配給になると思う。

要するにディズニー映画として、ひとくくりにしていいと。


この映画は、『くまのプーさん』の原作者、アラン・アレクサンダー・ミルン(Alan Alexander Milne 1882-1956)の半生の実話に基づいたもの。

映画のラストシーンでは、父ミルンと息子のクリストファーロビンの対立は解消するというハッピーエンドになっているが、実際にはクリストファーはずっと父ミルンと対立し、亡くなるまで和解しなかったとされている。

それでは救いがないので。

後に、クリストファーが「もっと早く和解していればよかった」と述懐した内容をそのままエンドにしたのだろう。

『くまのプーさん』の大人のファンはぜひ見ていただきたい内容だ。

父ミルンは、1913年にドロシー・ド・スランクール(英語読みはセリンコート)、愛称ダフネ(古代ギリシャ神話でアポロンに愛された月桂樹の妖精)と結婚した。

調べてみると、ド・スランクール家はフランス・ブルボン王朝で近衛師団長(大尉)を勤めたスランクール子爵を起源としており、フランス革命後にロンドンに亡命した貴族の末裔だった。

現在でも、アミアンの西郊にスランクール村とスランクール城が実在するそうだ。

 

第一次世界大戦のソンムの激戦で負傷し、イギリスに帰国。

情報機関で中尉として宣伝活動に従事したが、戦後の1920年に長男のクリストファーロビンが生まれた。

しかし、ミルンは悲惨な戦争体験で精神的な戦争後遺症に苦悩していて、死体の山に群がっていたハエの音、塹壕に爆弾を落とした気球、真夜中にドアを閉める大きな音も戦場の銃声や砲声に聞こえてしまうトラウマをひきずりつづけていた。

せっかく執筆した戯曲を上演するため、作者として舞台に立っても、スポットライトが戦場のサーチライトを連想させ、精神的にパニックにおちいって、「もうだめだ」と頭をかかえてしまう。

 

しかし、ドロシーの父親マーティン・ド・スランクールはロンドンのピカデリー・サーカスの一角にそびえ立つスワン&エドガー書店の経営者で、弟はラテン文学の翻訳で有名なオーブリー・ド・セリンコート(ドーセット市のクレイズモア学院長)。

この家族関係は、この映画にはっきりと出てこないが、ミルンが文筆業で、戯曲や随筆のスランプにおちいったとき、彼女が「新しい作品ができるまで帰らないから」とロンドンに別居することを提案した背景になっているのだろう。


しかし、この別居生活で、ミルンはロンドンから離れた森の中の住まい(東サセックス州ハートフィールド市外のコッチフォート農園)の中で、5才になったクリストファーロビンと向き合い、いっしょに遊ぶうちに「くまのプーさん」のアイデアを思いつくのだった。

その瞬間のストーリーは実にうまくできている。

ミルンは森の中をさまよう中で、死体の山に群がるハエの羽音のような幻聴に悩まされていた。

そのとき、父の異変に気がついたクリストファーロビンが

「それはミツバチ(Bee)の羽音だよ」となだめる。

ハッと幻聴から覚めたミルンは、息子を「お前は天才だ」とホメる。

「そう、クマはミツバチと蜜を取り合いするんだよ」と、クリストファーロビンが連れていたテディベアを見かえした瞬間に、

ぬいぐるみたちが生きたキャラクターになって、森の中で生活し、クリストファーロビンと遊ぶファンタジーが生み出された。


 

実際のクリストファーロビンもすばらしい美少年で、映画ではそっくりさんの子役(Will Tilston)がとてもいい演技をみせてくれる。


 

しかし、実在のクリストファーロビンを題材にしたことが、家族のプライバシーを売り物にすることになったことに父ミルンが気づくのは遅すぎた。

マスコミの前に引っ張り出されたクリストファーロビンは、困惑し、質問に答えさせられ、物語はウソが多いと発言してしまった。

それを見た父ミルンは息子に罪悪感を抱き、クリストファーも子どもながらに父に反感を抱いた。

結果、ミルンはすべての人が待ち望んだ『プーさん』のシリーズ続編を絶筆宣言することになる。

 

しかし、クリスには中途半端な有名人になったことで、学校に上がった時から激しいイジメの嵐が。。。。。

その精神的な後遺症で、クリスは父ミルンとついに和解できなくなるのだ。

 

だからハッピーエンドのラストはすごく心に刻まれる。